はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

蛍のやさしさ

2007-06-07 07:46:29 | はがき随筆
 蛍の夕べに誘われ妻と出掛ける。もう家族連れの人影が暗い中で静かに見守っている。着いた途端に待っていたように、妻の差し出した手のひらに止まる。「あっ、嬉しい」。弾む声にニッコリ。しばし手のひらの蛍火に和む。近くの女の子にそっとあげる。小さい声で「ありがとう」。蛍は樹間や草むらに初夏の短い命の灯を燃やしている。蛍火と闇と静寂に包まれ、忘れかけていた優しい心根に安息する。男の子が妻の手のひらに蛍火のプレゼント。ありがとう。闇を置いて夕蛍は闇の中に優しさを残し消え去った。
 蛍火の やさしさを抱き 持ち帰る
   鹿屋市 小幡晋一郎(74) 2007/6/7 毎日新聞鹿児島版掲載