はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

すくむ

2007-06-18 07:47:59 | はがき随筆
 山の吊り橋やどなたが通る――去年の冬行って来ました九重、夢吊り橋に。長さ390㍍。高さ173㍍。深い谷間の木々はすっかり葉を落とし、むき出しの岩の間からほとばしる滝を見下ろす。まさに絶景。開業以来、引きもきらぬ盛況とやらで、右側を歩いてくださいと警備の人の叫ぶ声と、切れ目ない列がなかなか進まない。びびっているのは破れジーンズにピアスの若者。私は割と平気で渡り終えたが、ほんとは少し身がズー。昼間の喧噪が止み、夜のとばりがおりるころ、息子亡くした鉄砲撃ちが通る――
   指宿市 宮田律子(72)2007/6/18
   毎日新聞鹿児島版掲載 月曜特集版-6

よんご

2007-06-18 07:40:27 | はがき随筆
 手間暇かけて腐葉土作り。それに牛糞堆肥を畑に撒き、土作りに15年。出来る野菜は葉物はみずみずしく、根物はほど良い固さで共に甘味が濃縮されている。しかし、無農薬栽培が災いして曲がりやいびつの不ぞろいばかり。人に優しい野菜作りが農家の使命と、彼はこの農法を守り続けて57年。「曲がる、いびつは野菜の自然の理で、味が勝負だ。消費者はどこか間違っている」。集落の衆のよんご扱いもどこ吹く風に。彼は野菜のよんごの征服に挑む。「わしの偏屈が、妻の白髪と皺を倍にしたよ」彼の柔和な目が印象的だった。
   出水市 道田道範(57) 2007/6/18
   毎日新聞鹿児島版掲載 月曜特集版-5

還暦とは…

2007-06-18 07:33:39 | はがき随筆
 今年4月、私は人生の大きな節目である還暦を迎えた。妻から赤いチョッキを、子供2人から赤いシャツを贈られた。この年齢になって派手な衣類を身に着けることに抵抗を感じ、「皆の気持ちはありがたいが、俺は着たくない」と言うと、すかさず「還暦には赤い物を身に着けるようになっている。何も言わずに着なさい」と集中攻撃。これには降参。「老いては子に従え」というが、今の時代、「老いては妻子に従え」ではないかと考えさせられる。還暦とは、妻と子に従って生きる人生のスタートラインなのかもしれない。
   鹿児島市 川端清一郎(60)
   2007/6/18 毎日新聞鹿児島版掲載
   月曜特集版-4

車窓から

2007-06-18 07:25:33 | はがき随筆
 毎日通る市役所本庁の横を流れる隈之城川の堤防に植えられている木々。
 季節ごとに春は桜に始まり雪柳、夏は百日紅、秋は真っ赤な彼岸花が咲き、往来する市民の目を楽しませ、癒してくれる。現在、見事に選定されていて、とても気持ちがよい。
 遠くではダムの水が底をつき、危ないと聞く。雨が待たれる昨今ではあるが、わが町の川内は無事なようでホッとしている。これも川内川のお陰だろうか。しかし、暴れる時もある。中位の梅雨であってほしいと、神に願いたい。
   薩摩川内市 松田ハル子(83)2007/6/18
   毎日新聞鹿児島版掲載 月曜特集版-3

楓の葉

2007-06-18 07:19:19 | はがき随筆
 少年のころ父が、庭先の紅葉を愛でながら「楓は蛙手(かえるで)の略なんだよ」と教えてくれた。半世紀過ぎた今、楓の葉を見ると亡き父の言葉や、秋風に揺れていたもみじを思い出す。3年前、家の前に7本のイロハカエデを植えた。高さ50㌢ほどの苗木は2㍍近くまで伸び、4.5月の若葉がまばゆい。1本の楓の葉はおおむね薄緑だが、枝の先端は鮮紅色で気品がある。他の6本の葉は暗赤色で、周りの新緑と調和し、さらに壁がグレーの我が家を引き立てている。楓にお礼肥をして秋の紅葉に備えよう。
   出水市 清田文雄(68)2007/6/18 
   毎日新聞鹿児島版掲載 月曜特集版-2

消えた遺跡の森

2007-06-18 07:11:43 | はがき随筆
こんもりとした栫ノ原遺跡の森が、いつしかコンパクトな丘になり一帯のひなびた民家も現代風の建物に様変わりをしてしまった。整備された斜面の道路脇には黄、白、ピンクの可愛い花が咲き盛って季節に呼応している。丘の上には遺跡の説明版が掲げられ、そこからの眺めは市街地を一望に出来、何よりの憩いである。残された数本の立木は生え抜きの故か雨風にも強く、鶯なども鳴き渡っている。南斜面の一画から浸み出る水が気にかかるが象徴の丘、癒しの丘として永遠なれと願うばかりである。
   南さつま市 寺園マツエ(85)2007/6/18 
   毎日新聞鹿児島版掲載 月曜特集版-1