はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

あれから

2007-06-20 08:58:25 | アカショウビンのつぶやき
 夫の召天記念会を子供たちの帰省に合わせ繰り上げてすませたので、当日はいつもの独りでゆっくり過ごす。
「独居老人、私もそうなんだなぁ」なんてつぶやきながら。

いつか、どちらかが独りになることはわかっていても、自分が遺されるとは思いもしなかった私だった。
山にテニスに旅にと、現役時代より忙しい第二の人生をつっ走っていた彼の命が、こんなに短かいものだったとは。

庭の白紫陽花が咲き誇り、裏山の時鳥が激しく啼いた朝、彼は静かに旅立っていった。
あれから12年。「なぜ、病のサインを見落としたのだろう…、私の愛が足りなかったから…」と悔いる想いは何年たっても拭いきれず、決して平坦ではなかった長い道のりだった。
涙を拭い共に歩き続け励ましてくれた見えざる力と、多くの友に心から感謝したい。

残される家族に「アカショウビンになって帰ってくるよ」と言った彼。

義妹が住む丁町は山深い谷合にあり野鳥が多い。
毎年4月末には「カンチャンが(夫の愛称)来たよ!」と。
今年は6月になっても来ないと言う。
そういえば、近くの山から聞こえてくるはずの時鳥の声さえまだ聞いてない。

変わらぬのは雨にうたれ、白く輝く「あじさい」だけ。
1枝を生け、彼の好きだったモーツアルトの「狩」を久しぶりに聴いてみる。

今にもリスニングルームから「おーい、飯はまだか」と顔をだしそうな気がしてくる。

モモ

2007-06-20 08:05:25 | はがき随筆
 「モモ」は我が家のウサギ。60㌢角の針金のバスケットがモモの家。夏草が好きだから、晴天の日は畑の草の上。翌日はその隣。モモは針金の隙間からはみ出した草を食べ、フンをまく。夜は安全な場所で眠る。ある朝、バスケットの中にモモがいない。不安になって「モモ! モモ!」と呼んだ。何回か呼び続けていると、夏草の中から姿を現したモモは、私の足元までゆっくり来ると止まった。思わず抱き上げた。私の胸には熱いものがあった。モモが逝ってから何年になるだろう。今年もモモの墓を夏草が覆っている。
   出水市 中島征士(62)2007/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はよはんさんからお借りましました。