はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

お鈴

2009-03-11 16:28:26 | はがき随筆
 たいして宗教心は強くないのに毎朝起きて仏壇に向かい手を合わせる。その際、お鈴をたたく。「おりん」と読むが、仏具である。お茶とお線香をあげるのは妻がやるので私はそのあとになる。最近何気なく妻のたたく音に高低があるのでは、と思う時がある。それが確信に変わったのは私の妻に対するぬれぎぬからだった。いつも床の聞に置いていた古伊万里の皿がない。いくら捜しても見つからない。思い余って、掃除していて割ったのではないかとある朝、聞いたら人のせいにしてとえらい剣幕だ。その日、お鈴をたたく音は隣家に響くような音だった。
   志布志市 武田佐俊(65) 2009/3/11 毎日新聞鹿児島版掲載



城山に登る

2009-03-10 12:13:23 | はがき随筆
 城山に登った。木もれ日のさす散歩道には小鳥のさえずり、木々のそよぎをじゃましない程度に人の気配が漂っていた。
 母が逝って十数年。ああもこうもしてやれば良かったのに、してやれなかったと身をよじりたくなったとき、城山に登りたくなった。高2の春休みに母と登ったことを思い出したのである。 母は朝夕、桜島を見て育ったので、火の山にも向かいたかった。あの日、見聞きしたことははるか忘却のかなた。母の面影、やさしさだけが鮮やかによみがえる。「母さん、ごめんね」とわびた。
   鹿屋市 伊地知咲子(72) 2009/3/10 毎日新聞鹿児島版掲載






敬老愛人

2009-03-10 12:10:14 | はがき随筆
  「敬老愛人」。面白い言葉だと一瞬、思いを巡らす。薩摩の偉人西郷隆盛の遺訓「敬天愛人」にあやかり、「老人を敬う」という町内の特別養護老人ホームを運営される施設長の心根である。正月の職員会議で、全職員による新年の決意や心情の発表の後、施設長が先の言葉を投げ掛けられたと聞く。
 かねて当施設では「美しい笑顔・優しい言葉・福祉の心」「上手な勤務より、愛嬢のある勤務」
 「明るく・仲よく・労り合いましょう」の心得を守り、入所者の処遇をすすめているが、新年にあたり、施設長は先の言葉で更に引き締められた由。
   薩摩川内市 下市良幸(79) 2009/3/9 毎日新聞鹿児島版掲載




暖冬の吉野公園

2009-03-10 11:43:15 | はがき随筆
 2月8日、雲一つない冬晴れの暖かな日曜日。皆で吉野公園に行こうということになった。
 正午ごろ着いた。山中に広大な面積を有する公園は、緑がいっぱいで空気がうまい。あちこちに家族の輪ができお弁当タイム。みんな笑顔、笑顔である。
噴煙を上げる桜島の雄姿が目前に迫ってくる。売店の横にあるカワヅザクラは満開で、十数羽のメジロが花のみつを吸っている。妻は携帯でシャッターチャンスを狙うが、じっとしてくれないメジロにいらだっている。
 久しぶりの自然との触れ合いにリフレッシュすることができた。春になったらまた行こう。
   鹿児島市 川端清一郎(61) 2009/3/10 毎日新聞鹿児島版掲載



しみじみと

2009-03-07 21:23:57 | はがき随筆
 病院で採血をしてもらいながら、看護師さんの顔をじっと見る。義理の姉の姿と重なった。
 義理の姉は今春、看護師の仕事に終止符を打つ。職種は違うが、同じ働く者として励まされることも多かったので、感慨深いものがある。
 病ほどきつく苦しいものはない。何らかの不安をかかえて病院に来ておられる患者さんたちに寄り添う仕事、言葉遣いには特に気を配ったことであろう。
 周りの人たちやこれまでに出会ったたくさんの心優しい人たちに感謝して、定年の日を迎えることが出来たら幸せだとしみじみ思う。
   出水市 山岡淳子(50) 2009/3/7 毎日新聞鹿児島版掲載



焦らないで

2009-03-06 16:42:48 | はがき随筆
 大阪の後輩2人が予告なしに風のように掃除に来てくれた。
 今回は物置同然の和室の天袋と押し入れ上段の来客用寝具、旅行用の品の整理と廃棄。新品の衣類もリサイクル業者に断られ、可燃物としてクリーンセンターヘ。重い15個の大袋をレンタカーに詰め込み、運んだ。
 優しい元女教師の早業……。私に心配をかけないように昼食も持参。ホテルに2泊し、飛行機での来鹿は3回目になる。体が動かない私に「焦らないでね。また来るから」
 ジンチョウゲの香りのそばで手を振り別れる。
 感謝の涙があふれた。
   薩摩川内市 上野昭子(80) 2009/3/6 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はネロさん



孫の雄姿

2009-03-05 22:37:25 | はがき随筆
 孫は小学校4年生からテニスを習い始め、都城市から旧加世田市にあるスポーツの名門校H高校に進学して2年生になる。この間、彼のコートに立つ姿を見たことがない。厳しい練習に耐え、ようやくダブルスの選手に選ばれた。全国選抜高校テニス九州大会が宮崎市であるという。万難を排して妻と駆けつけた。各県から選抜された強豪ぞろい。2日目の準決勝から観戦。迫力ある試合に寒さも吹っ飛ぶ。ついに翌日の決勝に進む。また行かざるを得ない。対戦は佐賀のR高校。すごい! 勝った! 念願の優勝だ。初めて見る孫の雄姿に胸が熱くなった。
志布志市 一木法明(73) 2009/3/5 毎日新聞鹿児島版掲載



別れ

2009-03-04 14:11:32 | はがき随筆
 妻が亡くなって2週間。
 一人になる私を案じてか、娘はずっと家にいて、残された仕事を整理して大阪に帰ることになった。妻の実家に寄って、無人のローカルの駅まで送っていった。
 無人の駅は乗客もなくひっそりとしている。冬寒の曇った昼すぎのホームに待つと、また別れの悲しみがわく。黄水仙の咲くホームから、窓に手を振る娘を見送って車に乗る。
 人生すべて会者定離。人は皆、悲しみを乗り越えて生きねばならない。負けずにたくましく生きたい。そう思って冬空の町に静かにアクセルを踏む。
   志布志市 小村豊一郎(83) 2009/3/4 毎日新聞鹿児島版掲載




ボンタン

2009-03-03 21:52:27 | はがき随筆
 子どものころ、自分の頭ほどの大きなボンタンにびっくり。いつか自分の家に植えたい木だった。
 結婚し、転勤を繰り返し、最後の任地に終のすみかを建て小さなボンタンを植えた。今は四方に枝を張り、枝も折れんばかりに実をつけてしなっている。熟れた実を切った瞬間、枝は勢いよく跳ね上がった。そのはず、1、8㌔もあった。百を超
す実を支える木の強さに驚く。
 厚い皮をむくとさわやかな香りがした。袋から取り出したとき色の果肉からは、ほどよい酸味と甘さが口中に広がった。
 「今年もありがとう」
   出水市 年神貞子(72) 2009/3/3 毎日新聞鹿児島版掲載




変な一族

2009-03-02 14:54:03 | はがき随筆
 梅の花のにおうころ、91歳の母の友だちが、3人亡くなった。
 母は元気だが、持ち物の片づけをぼつぼつ始めている。
 母の日記帳を見ていたら、昭和57年、私の夫が亡くなったときに書いたものがあった。
 「夫は泣いてばかりいるが私は由井のことは心配しない。変な子だから大丈夫。実証ずみ」とあった。
 長男に話すと「おばあちゃんこそ、変に運が強いよね」と言う。  
 そういう彼は、何回も命拾いをしている。
 誰よりも変な子だ。
   阿久根市 別枝由井(67) 2009/3/2 毎日新聞鹿児島版掲載  



脱稿

2009-03-02 07:51:08 | はがき随筆
 小説を書いてやろうとひそかに思っていた。しかし挫折を繰り返すばかりで取っ掛かりだけが残っていた。ところが、ある作家の教訓を耳にしてから筆が進み、去年の秋から書き始めた原稿が思いもかけない枚数になった。当初は100枚程と考えていた話が200枚でやっと脱稿にこぎ着けた。この量になると推敲するのも大変で、睡魔と闘うこともしばしばである。
 面白くないからと思い知らされるわけだが、5年後、10年後に読み返すのを楽しみにしている。妻は単なる反故の山と見ているようだが、果たして読む気になるのかしら?
   志布志市 若宮庸成(69) 2009/3/1 毎日新聞鹿児島版掲載