先の日曜・月曜は徳島で過ごした。いつもの思い付きではあるが、松山周辺は当分風が弱く、昼間は耐え難く暑く、太平洋高気圧がまだまだ元気な天気図をどう見ても、徳島にはあの南寄りの風が入り続けるように思ったからでもある。
今回は日曜日の午前中から出発して、ノンストップで車を走らせたら、どれくらい速く到着するか試してみることにした。結果は約五時間。道中今まで、お店に寄ったり森や川を眺めたりの休み楽しみに、一時間以上使っていたということだ。
小松海岸に三時半に着いた頃には、すでにIさんは12㎡でグラハンに精出していた。南南東から7mほどの順風。昨年の7月に知り合ってから、彼の技術や道具にとっては、初めてのまともな風だった。
もう一年以上が経過したわけだが、これまでご一緒した数回、海上走行には弱すぎたり強すぎたりで、一定角でカイトパワーを維持しながら走り続けるのは難しかったのだ。結果、数レグの三角走行ができるようになったので、この日を「初走行記念日」とした。後は、成功体験のイメージ・トレーニングやら、徹底した楽観主義の話やら、あれこれの思い付き話を暗くなるまで。
この夜はいつもの私的小松海岸には珍しいことに、雨もカミナリもなく、対岸遠くに見える花火大会や、紀伊水道上空を覆うようにまたたく星々を眺めながら、涼しい夜を過ごした。翌日もほぼ同様の風。昼過ぎから4時間近くぶっ続けで自分の走りに没頭した。
最近見つけた吉野川上流域のパラダイスによって、徳島行きの楽しみは二倍になった。ここは愛媛の東のはずれ、徳島の西のはずれに位置している。一服休憩にはもってこいの場所である上に、ダムの上流にあたるから水が実に澄んでいる。
前回、水際の水中に腰を下ろして涼をとっていたら、たぶんアユの稚魚が大勢でやってきて、まるでドクター・フィッシュのごとく、私の脚の甲をツンツンとつつくのである。こんな嬉しい出来事も少ないだろう。
近くにはダイサギの夫婦か恋人たちが住んでいて、夜の暗がりの中で、「ガー、ギャー」とお話をする。「鳥類は夜目がきかない」というのは、一般論としては間違いである。百メートルほどの距離から、下流の一羽が少し控えめにグアーと鳴くと、零点数秒後に上流の一羽が元気にギャーと鳴き、そのやり取りを何回か繰り返しながら、互いの間隔を徐々に詰めていく様子が、暗闇の中でも手に取るように分かった。
早朝には、これも近くに居を構えているにちがいない鵜《う》が一羽やってきて、まことに見事な直線ローパスを見せてくれた。高度は三十センチほどだろう。もちろん羽ばたいているのだが、鏡のような水面がまったく乱れないのである。
地面効果というか水面効果というか・・・航空の世界ではそれなりに高度な理論や技術以上のものを、彼らは自然のままに身に付けているのだ。
(つづく)