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「優雅なのかどうか、わからない」 松家仁之

2015-11-15 | 読書

以前この人の「火山のふもとで」を読み、風通しのいい恋愛小説を楽しく読んだ。浅間山の麓、夏の間だけ避暑をしながらの建築事務所、そこでの人間模様。私には縁のない世界なので、心地よかった。

で、本書である。二時間くらいで読める。おしゃれな中年男の恋愛がよく書けていると言いたいところだけど、今回だけは女の私には、胃の辺りに沸々と怒りの感情が起きてくる

これって、殆ど男性の妄想ではないだろうか。ずっと以前、市の発行する文芸集の審査員を二度ほど務めたけど、(とさりげなく自慢する。深謝)、定年退職して、どれ小説でも・・・という男性の作品に時々こうテーマのがあった。

大して魅力的でない60代男性が、なぜか若い女性にもてまくるのである。いい気なものと思い、そんなのはバッサバサと落としていったけど、自分もまた60歳を過ぎたのでよく分かる。中高年男性の魅力はまず財力である。定年退職した人ならば、元は公務員か、大企業、年金のしっかりした人はもてる。世の中は案外シンプルな原理で動いている。

この主人公は出版社の編集者、高給取りである。有能な妻がいながら、仕事関係で知り合った若い女性を愛人に持ち、両方のいいとこどりするうち、妻にも愛想をつかされて離婚し、愛人も煮え切らない態度に「辛い」と離れて行ってしまう。

もうお、はっきりしない男だと、私は歯がゆい。どちらへでもいい、自分から別れを切り出さんかい!!と後ろ頭を張り倒したい気分。息子がこんなことしてたら許さん。まあ、その甲斐性もないと思いますが、無くて幸い。

小説では、離婚して古い借家に引っ越し、家主の好意で思うようにリフォームするあたりから、スノッブ臭が鼻につく。私は。それは古い洋館という、今ではほとんど残っていない家に住む人への嫉妬もあると思う。小説の中の人に嫉妬するのもおかしな話だけど、なんか話がうまく進みすぎる。進んでもいいんだけど、どうせ絵空事だからと思わせてはいかんのです。小説は。

引っ越して、昔の愛人に蕎麦屋で再会。聞けば近くに住んでいるという。やがて二人はよりを戻し、正月には彼女が、認知症になりかかった父親と住む家で過ごし、隣の家が火事になって、そのあと土地が売り出されるのを買うところで話は終わる。

若い女性も女性である。こんな人いるんだろうか。さんざん自分をもてあそび、青春を捧げた挙句に、結婚もしてくれなかった人。別れたいと言っても、追いかけても来ず、奥さんとも別れずに頬かむりした人。なんでまたよりを戻そうとするのかな。まあ、人のことだから何しようと勝手だけど、私なら文句の一つも言ってやる。よほど、人には言えない何か魅力でもあるのかな。

がやっぱり、相変わらずの煮え切らない男。一緒になろうとはっきり言えばいいのに、相手の様子を見ながら、自分の損になること、嫌なことは周到に避けているようにしか見えない。

きつい言い方だろうか。たぶんそうだろう。

でもね、二人は隣に住むのではなく、家族になれば済むこと。お父さんもそう長くなさそうだし。父親には、夫として関わりたくないのかも。

この人にとっては自分の趣味に合った暮らしが何よりも大切。家の改築。暖炉つけたり、本棚作ったり、二重窓にしたり、そちらに筆の多くも割いている。家主が帰国するので、その家にはもう住めないのだけど、残念がるのがちょっと過ぎるのでは。

別れた奥さんは有能で几帳面で、それなのに浮気されて、私は同情する。浮気はやっぱりまずいでしょう。心の中だけにとどめて、平穏な老後のためには耐えたいもの。そうですよね、世の男性諸氏。

というわけで、とっても歯がゆい小説でありました。

お正月にはウォッシュタイプのチーズ、鴨のリェット、枝付きの干しブドウでワインを飲むんですと。ウォッシュタイプのチーズって…洗えるチーズ????、リェットって????

枝付きの干しブドウは夫が一度、ゆめタウンのカルディで買ってきたけど、食べるところ少ない割に高くて叱ってやりました。そんなもん食べる人の気がしれん。

日本人なら、煮しめに田作りで日本酒飲みたいところ。日本人ならね。でもそれだと別の小説になるんですよね。神は細部にこそ宿り給う。地縁血縁から切れた都会人の、しかも中高年のお洒落な恋愛。

現実はね、なかなかこんなものではありません。私の生活とは全然絡んでこないということで、あっけなく読了。長話深謝。

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