黄昏 http://www.futta.net/photo/759.htmlよりお借りしました。
1978年に自費出版した本が、のちに岩波の同時代ライブラリーとして再刊、それを最近買って読んだ。
1967年に亡くなった認知症の母の闘病記であり、介護の記録を小説仕立てにしたもの。当時は脳軟化症という病名が付いていたが、病気の進んでいく過程は今も同じ。娘の目から見た母親の変化が丹念にたどられる。
真面目で几帳面な人が呆けやすいと、私の周りでは都市伝説のように言われている。ほんとかな。じゃ、いまのうちから不真面目になろうなんて不届きなことを言うのも、まだ間があると高をくくっているから。
お母さんは認知症の総合デパートのように、ありとあらゆる症状が次々と現れる。物忘れ、妄想、幻覚、昼夜逆転、幼児返り、失禁、弄便・・・
途中から施設に入れるけれど、当時の施設は洗濯は家族が持ち帰ってするし、施設の職員が暴力振るったり、しょっちゅう家族が呼ばれたりと、今とはだいぶ様子が違う。介護保険もない時代、家族の負担も大変なものである。
がしかし、この本ではまだきょうだいとその配偶者が助け合って介護にあたり、何よりもこのお宅は裕福で、お金の心配はあまりなさそうなので、今の時代にそっくりそのまま当てはめることはできない。出てくるエピソードも古風。この時代は、着物が縫えなくなって認知症の初期症状。私など初めから全然縫えないので、その面から見たら症状は重いかも。
赤ちゃんから大きくなる過程は誰もよく似ているのに、歳とって死ぬまでは千差万別。日が暮れるまでの長い時間、人生の黄昏時をよく観察した本ではあったけど、こんな死に方したくない、哀れすぎるとつくづく思った。
今からそんな心配して暗くなるのもおかしいけど、老いについて深く考えさせられた一冊。