福島県の臨済宗寺院の住職で芥川賞作家、作者には書かずにおれなかった作品集だと思う。
東北大震災のあとの人々の様子、報道では決して表現できないこともフィクションなら可能なこともある。
「蟋蟀」で、家ごと流された父子が見た黒い山に見えた津波、その津波に流される人、あちこちに引っかかっている死体の一部…思わず息をのむ迫真の描写だった。
テレビニュースでは決して触れないことだったし、人が避難したあと放置され、死んだ家畜のことなども詳しい報道はなかったけど、この小説読んで想像以上の残酷さだったと思った。
未曽有の災害は人の在り方をむき出しにする。震災避難から離婚に至る人、みなしごになって一時他人に預けられる子供、震災がきっかけで結婚するカップルの式を請け負う人は、妻を亡くしている。
悲しさがいっぱいの短編集だけど、どんな災害にも人の優しい心は負けない、人を思う気持ちが人を生きさせる。それは被爆者の話を聞いた時にも思ったことだけど、それだからこそ人は尊いのだと思った。