直木賞作家が婦人公論に連載していた作品。単行本は2016年発行。
50代前半の宇藤聖子は、編集プロダクションを経営する夫と二人暮らし。税理士事務所でパートとして働き、一人息子は関西の大学の院で哲学を研究している。
子育てを終わり、さりとて老年期にはまだ間がある女性の周りで起きることを伊藤整の昔のエッセィ「女性に関する十二章」を本歌取りしながら、今の時代の男女関係はどう変わってきたかを小説として構成している。
この構造がなかなかエスプリが効いていて、ところどころに引用される伊藤整の文章と、それを外し、今の時代に読み直しつつ、物語が進んでいく。
著者は誰でも知っている昔の名作を自分の小説に組み入れた作品がいくつかある。
イザベラバード「日本奥地紀行」を題材に、通訳の青年とイザベラバードの関係を書いた「イトウの恋」、漱石の「明暗」の後日談「續明暗」などなど。
この中に出てくる人はどれも個性がくっきりと過不足なく書かれ、いかにもいそうな人にもそれぞれ奥行きのある書き方をしていてさすがと思った。
息子がいきなり彼女連れて来て、もう同居している、次に彼女だけが思いつめた様子で現れ、妊娠を告げられた時の慌てぶりとか、私も姑の端くれなのでとてもよくわかる。
息子の彼女は、親が漠然と思い描いていた人と違って、たいてい外してくるものです。でもやがて、二人が出会うのは縁があってのことと納得いくのが親。そのあたりもうまく書けていた。
そうそう、大変だけど、お互い頑張っていきましょう。そんな元気のもらえる小説だった。