1994年から2003年まで、16作の短編を収める。
どれも短くて読みやすく、15年くらい前になるけど、たぶんどの作家も存命なはず。同時性という点でもわかりやすかった。
書き方は、短編なのでそう実験的なのもなく、難点を上げるとしたら、起承転結にこだわるあまり、性急に落ちを付けるのはよくないのではないかと。
小説はその中で閉じてしまってはいけない。一部謎を残し、読者に考えさせないと。
印象に残ったのは村上春樹「アイロンのある風景」。村上作品が好きというのは、今や気恥ずかしいと思っていたが、なかなかどうして、さすがノーベル賞候補の噂のある人だけに、人物の陰影がよく書けていた。人は誰しも多面性がある。それを感じさせる書き方だった。
浅田次郎「ラブ・レター」もよかった。歌舞伎町で働く男、中国人女性と偽装結婚する。相手が日本にいられるために、会ってもない人の夫として戸籍を作る。女性が死ぬ。夫として遺体を引き取り、火葬をし、女性の日本語の手紙を読むうち、初めて哀れと思い、愛情が湧いてくる。
浅田氏らしい、人情の機微に触れる作品。わかっていて、ツボを刺激される心地よさ。
どれも数十枚から二百枚程度の短編。短さの制約があるので、長編とはまた違った腕が必要。短いからと侮ってはいけないし、また別の技術がいるのだと思った。