後書きによると、めったにエッセィは書かないそうですが、京都のさる料亭の宣伝誌に書く縁があり、19編が収められている。
どの作品も人物像がくっきりと濃厚で、宮本作品の原風景を見るような。いえいえ、小説よりも小説らしいエピソードの数々は、戦後すぐのころ、関西での暮らしが子供の視点から活写されている。
死も身近にある。いかがわしい話もたくさん。偽の翡翠をつかまされたのを、それは象牙石、もっと貴重なものと知り合いが言い抜ける。
人とのつながりも濃厚。父親違いの兄に偶然出会った話、若いころに働いていた店の主人が、小舟で38度線を越える話。そのとき手助けしてくれたのが、自分が朝鮮で雇っていた現地の人たち・・・
そしてパニック障害という厄介な病気。結核にもなっている。それぞれは体験しなくていいものもあったけど、それがまた書く時の力になる。宝石のような小説の材料をいっぱい持っている人だと思った。
同世代なのに、(今は住宅地になってますが)私の住んでた場所は見渡す限りの水田、農家、よろずや、製麺所、農協、たばこや兼貸本屋などが視界の範囲。近所はみな知っている人、子供はうじゃうじゃ生まれ、年寄りは家で静かに死ぬものだった。
日本は広い。楽しいばかりではないけど、人の集まる都会では田舎よりもずっといろんなことが起きていたらしい。