期待にたがわず、たいそう面白い小説でした。高速バスの中と電車の中、寝る前にも読み、足掛け3日で読了。
あらすじ。
弁護士、城戸は以前、離婚裁判を頼まれた里枝からある依頼を受ける。
その依頼とは、再婚し子供まで生まれた相手が誰だったのか調べて欲しいというもの。二度目の夫は仕事上の事故で亡くなり、絶縁状態だった親族に一周忌に来てもらうと、全くの別人と判明。ではなくなったのは誰?
推理小説のようでもあり、死刑制度、民族差別、夫婦の危機、とそれぞれの枝葉もよくできていて、本当にあったことのような臨場感があった。
一番驚いたのは、戸籍のロンダリング。実際にあるのかどうかは私にはわからないけれど、二人の戸籍をそっくり入れ替えて、それぞれが今までと違う人間として生きる。そのための仲介業の男の食わせぶりな造形もよくできていた。
名乗っていた男の元恋人に出会い、その女性が名乗っていた男の名前でアカウントを取ると、ある男が代理人としてコンタクトしてきた…
この小説で、人のアイデンティティは何に拠るのかということを考えさせられた。
どんな家に生まれ、どんな人たちの中でどんな風に生きて来たかは、人間の核を作るものと私は思っている。しかし、その経歴を消したい人が、別の人間を名乗ると案外簡単にその人の人生を生きられるという登場人物の言葉に、そういうこともあるのかと、自分の常識がゆすぶられる感じ。
それにしても、それにしても、こんなに簡単に別の人に入れ替われるのだろうか。小説なのでそう読まないといけないけど、パスポートや免許証持たないと、顔が国に、本当に把握されていないのだろうか。不思議、不可解なことで、それがこの小説の肝。
その人はなにによってその人なのか。自分がこだわってきたことなど、簡単に取り換えられる軽いこと、とも言える。
里枝と二人の子供たちはこれからも強く生きていけるだろうけど、弁護士城戸は妻が上司と不倫しているらしい。こちらは小説の中では解決ついていないけど、この後どうするのかなあと、他人事ながら心配。と言っても架空の人物ですが。
でも心配してしまうほど、それぞれがよく書けていると思った。
書き方は、そうですね。カズオイシグロに似ているかも。ストーリー性があるのがやはり面白いと思った。