著者は東大大学院の教授。専門は社会学、文化研究、メディア研究で、2017年に10か月間、ハーバード大学に招かれて教鞭をとる。
時あたかもトランプ政権、発足直後。その時のアメリカ社会を滞在する者としてリアルタイムに観察し、社会学的に考察する。
これがたいそうスリリングで、面白かった。
章立ては、ハーバードで教鞭をとることになった経緯。トランプ大統領当選にあたり暗躍したロシアのこと。政権に抗議するスポーツ選手たちの行動。日米の大学教育の違い。銃と性的暴行、男性性がもてはやされる建国以来のアメリカの病弊とそれに対する若者の抗議。大統領支持層の、没落しつつある白人労働者の現在。「米朝」会談の裏側にある米朝両政府それぞれの思惑など。
最後は、25年前にメキシコシティにやはり客員教授として滞在した時に見聞きしたことが併載されている。
本書で特に印象深かったのはトランプ大統領のいい加減さと、それでも当選したやばい経緯と、支持層が生まれたアメリカ社会の変質だった。
知的エリートだったオバマ元大統領に比べて、現大統領は近しい人によると、おそらく本一冊も最後まで読み切ったことのない集中力のなさだそうで、そういう知的資質に恵まれない人が、ロシアの諜報機関によって発掘され、ネット時代の情報戦によって大統領にまでなっていく。現実はスパイ小説よりもずっと先を行っている。恐ろしいことだと思った。
ネット時代になり、人は事実の裏付けの検証なしに情報を発信し、自分の信じたいものだけを信じる傾向が強くなった。間違いを指摘されると、ももう一つの真実と開き直る。こうした傾向はこれから世界中に広がるのだろうか。とんでもないことである。
ロシアはコントロールしやすい大統領を作り上げるため、早くから現大統領に目を付けていたそうで、資金の流れなど、公にできないことがありそうである。本書で私が感じたのは、モスクワ行ったときに何か不祥事を起こし、その弱みを握られているのではないかということ。不祥事って、公になると政権が持たないくらいのことだろうかと、私の想像力は膨らむわけです。言いがかりでなければいいけど。
それでもアメリカという国はあらゆる面で強い。その一つを支える大学教育、日本とは全然質的に違う。子供のころか自分で考えて議論し、それを発表する訓練を受けたアメリカ人。人と仲良くすること、意見を調整することに長けた日本人。学問をするときには日本人のよさも裏目に出るのかなと思い、アメリカの大学の質の高さの一端としての詳細なシラバスの話も蒙を啓かれた。
古典を読み、また立ち返って現代社会の動きも知る。いい読書体験だった。