ブログ

 

「ベーコン」 井上荒野

2019-03-21 | 読書

この人は作家故井上光晴のお嬢さんで、自身も作家になった人。デビューしたころは話題になったが、その頃から、私は小説とは離れて他のことしていたので、たぶん一作も読んでない。

直木賞を受賞したことも、この本の解説で思い出した。そう言えば聞いたような気がすると。

なんで急に読みたくなったかと言うと、瀬戸内寂聴師と妻子のある井上光春が昔、恋人関係にあり、その周辺のことを小説「あちらにいる鬼」として発表したから。

娘が、父親と存命中の作家の関係を書く。面白い題材だけど、スキャンダラスに書くだけで期待外れだったら辛いので、先ずはこちらを読んでみた次第。

で、とても面白く、小説の腕も確かだと分かった。「あちらにいる鬼」も読みたいけど、ただいま節約中。いつか読むこともあると期待している。


本書は10の短編から成る。どれも表題は食べ物。そして、どの話も結婚以外の男女関係を、妻の側から、夫の側から、子供の視点から書いている。食べ物は命をつなぐだけではなく、思いを託し、受け止め、時には言葉よりも雄弁に人と人を繋いでいく。

そこらあたりの描き方がうまいなあと思った。

年取ると空想と願望が混ざり合うとか、少々の年の差など関係なく全員が年寄り、パーティ会場で若い人との席がすぐそこにあるように、二十代だったこともついこの間のように思い出せる。。。。

トナカイサラミの中の描写。しかしあこがれていた舞台演出家はスェーデン人の女優と結婚してかの地に去るが、歳とって又帰国する。歓迎パーティ会場での演出家の無残な姿。若い時はすぐそばりありはしない。長い年月をかけてたどり着いた地点がたとえ不本意だったとしても、それを味わうのも人生。

深い作品だと思った。

子供の目から、両親の不安定な関係を観察している作品はどれもよかった。緊張感に充ちている。作者自身の体験も反映しているのかもしれない。

小説を書くときはどんな体験も大切な財産。無駄なことは一つもない。両親の関係が不安定なのは子供にとっては辛いことだけど、その修羅の日々の中で、作家は作家になる修養を積んでいたのだろう。

別な作品も読みたいと思った。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

書評

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

手織り

にほんブログ村 ハンドメイドブログ 手織り・機織りへ
にほんブログ村

日本ブログ村・ランキング

PVアクセスランキング にほんブログ村