ごっとさんのブログ

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食虫植物ハエトリソウの妙技

2021-08-18 10:25:23 | 自然
少し前に毒キノコの成分が精神疾患に有用という話を書きましたが、私は植物の生産する生理活性物質と共に、食虫植物のような面白い植物にも興味を持っています。

植物の生産する有用物質として有名なものが、除虫菊が作り出す菊酸です。これは蚊取り線香の成分として知られていますが、非常に面白い構造を持っておりこの類似物質の合成研究も盛んになっています。

菊酸の仲間をピレスロイドと呼んでいますが、私の大学の研究室のテーマのひとつもピレスロイドになっていました。こういった蚊やハエ(衛生害虫と呼びます)の殺虫剤は非常にマーケットも大きく、当然世界規模になりますので、多くの研究者が取り組んでいます。

ピレスロイド関連では面白い経験もあるのですが、別な機会にしてここでは食虫植物の話です。この代表として2枚の葉で虫を閉じ込めてしまう、ハエトリソウの妙技について紹介します。

ハエトリソウは北米大陸に生息し、葉の内側に感覚毛と呼ばれる6本のトゲがあり、ダンゴムシなどが30秒以内に2回触れると0.3秒の速さで葉を閉じます。その後消化液を分泌して虫をゆっくりと溶かし、殻だけを残して養分を吸い取ってしまいます。

1度触れただけでは何も起こらず、2度目で初めて閉じるのがうまいメカニズムと言えます。葉を閉じるエネルギーは大きく、ひとつの葉は3~4回閉じると枯れてしまいます。

雨やごみの刺激で誤って閉じるのを防ぎ、虫が来たときに確実にとらえられる最適解が「30秒以内に2回」ということになったようです。ここでハエトリソウがどうやって30秒間をカウントしているのかが不思議と言えます。

この巧妙なわなの謎が2020年愛知県の基礎生物学研究所の実験で解明されました。実験ではトゲが刺激を受けると、葉の細胞内でカルシウムイオン濃度が一気に増えてきました。濃度がさらに高まって限界値を超えると歯が閉じますが、1回目ではそこまで高くなりません。

その後濃度は徐々に減っていき、追加の刺激がないまま30秒を過ぎると、新たな刺激があっても限界値を超えなくなるわけです。研究チームは、虫なら動き回るため2回目があるが、空振りを防ぐ時間の記憶法を独自に獲得したのだろうと述べています。

生体内では割と一定時間で起きるカルシウムの流入と流出を利用して、30秒という時間を測定しているというのはおもしろい機構だと思います。

この様に脳も神経もない植物が、生体の性質を利用して、無駄のない活動をするというのは、生命の不思議さを表しているような気がします。