ピロリ菌が胃に感染し続ける仕組みを解明

最近は胃ガンの原因がピロリ菌（ヘリコバクター・ピロリ）であり、これを除菌すれば胃ガンの発症を抑えられるという説が主流になっています。

しかし私はこの説にはあまり賛同できず、ピロリ菌の除菌が本当に必要か疑いを持っています。確かに胃ガンの死亡数は年々減少していますが、この減少はピロリ菌が話題となる前から起こっており、他の要因ではないかと思っています。

大阪大学の研究グループが、ピロリ菌が胃の中で感染を続ける仕組みを解明したと発表しました。ある種のRNAの産生が減ることで、発ガン因子など発現が増えているようです。

ピロリ菌は幼少期に胃の中に感染し、何十年ものちに病原性タンパク質「CagA」の作用で萎縮性胃炎、胃潰瘍、胃ガンなどの消化器疾患を引き起こします。身体からすぐ排除される多くの病原性細菌と違って胃に長年にわたり感染し続け、発ガン因子を調節する仕組みは分かっていませんでした。

そこで研究グループは、ピロリ菌に感染させたマウスとスナネズミの胃から取り出したピロリ菌のゲノム（全遺伝子配列）などを解析しました。

その結果ピロリ菌が胃に感染すると、RNAの一種「HPｎc4160」を作る調整役のゲノム配列「Tリピート」が、遺伝子変異が起こって長くなったことを突き留めました。こうなるとHPnc4160が減り、CagAなどの病原因子が増え、ピロリ菌が胃に長期に感染しやすくなりました。

これはヒトの胃ガン患者のピロリ菌も同様でした。Tリピートに菌株による長短のバリエーションが生じることで、感染の持続に有利になったとみられています。

HPnc4160とは、タンパク質の設計図にあたる「メッセンジャーRNA」と結合して遺伝情報のタンパク質への翻訳を助けるスモールRNAの一種で、それ自体は翻訳されません。ピロリ菌では、外側にある膜のタンパク質が胃の粘膜への定着に関わっています。

一連の研究から、HPnc4160がこのタンパク質やCagAの発現を調節していることを解明しました。どうもこの説明では、長時間定着するということとの関連がよく分からない感じがします。

この結果では感染した後、長期間かけて遺伝子が変異し、毒性を発揮するメカニズムのような気がします。本来ヒトの体内には多くの常在菌が存在し、長期間定着することが知られていますので、ピロリ菌もその一種と考えられます。

常在菌は通常は何の悪さもしないのですが、体調を崩して免疫が弱ったりすると増殖して症状が出てきます。ピロリ菌も同様に考えていましたが、変異により毒性が発現するというのは面白い発見と言えるのかもしれません。