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脳の細胞外スペースと神経修飾物質

2022-05-17 10:33:00 | 自然
よく「人間らしさ」という言葉を使いますが、人間は他の動物と異なる知性や感情を持っています。

脳の情報処理はニューロンが主役となっていますが、情報を統合し、活動電位を発生し、次のニューロンに情報を伝達するといった役割は、強く保存されていますので、ショウジョウバエからマウス、ヒトに至るまでほぼ同じメカニズムを持っています。

つまりニューロンの働きそのものは、生物によって大きな変化はありません。そうなると人間らしさを生み出しているのは、ニューロンの役割そのものではなく、それを受け入れる「空間」と「場」ではないかと考えられています。

脳の中にもさまざまな場を作り出す舞台があり、それが「細胞外スペース」です。体組織の間質と同様に脳の細胞外スペースの存在は古くから知られていましたが、脳を衝撃から守る緩衝材としての役割以外には、そのはたらきは長らく見逃されてきました。

これは脳を観察しようとすると細胞内部に水が入り込み、細胞外スペースが小さくなるという技術的な問題もありました。これが低温電子顕微鏡(クライオ電子顕微鏡)が開発され、水の成分を保ったまま観測することが可能となり、細胞外スペースも観察できるようになりました。

最新の研究では成人の脳の細胞外スペースは体積の15〜30%で、体組織の間質と同様に平均すると20%程度と見積もられています。細胞外スペースの役割は大きく2つが考えられており、脳を衝撃から守る緩衝材としての役割と、物質の通り道としての役割です。

神経細胞は細胞外スペースで繰り広げられる変化の上で活動をしており、細胞外スペースの環境の変化が脳の活動に大いに影響を与えています。細胞外スペースの中で拡散して、脳の広範囲の活動を調節する物質のことを「神経修飾物質」と呼んでいます。

広範囲調節系を担うニューロンは、「脳幹」と呼ばれる部位に集まっていて、神経修飾物質の産生と放出を担っている特殊な細胞です。

神経線維の末端のシナプスにおいては、調節系ニューロン1個が約10万個以上のシナプスと接触していて、脳の広い領域を同時に活性化することができます。調節系ニューロンの中には、不特定多数の細胞に対して信号を送る拡散性伝達という形式をとるものがあります。

神経修飾物質は、調整系ニューロンの軸索繊維上にあるこぶ状のふくらみの中に蓄えられています。シナプスを形成せず細胞外スペースに直接拡散することで、シナプス間隙に限定されない、持続時間の長いゆっくりとした調節的な伝達を行うことができるのです。

前置きが長くなりましたので、この細胞外スペースと神経修飾物質が「人間らしさ」に関与するかは次回に続きます。


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