フルール・ダンテルディ

管理人の日常から萌えまで、風の吹くまま気の向くまま

『遠い伝言―message―』 3

2008年09月13日 | BL小説「遠い伝言―message―」
 ヴォガに着いたときには、とっぷりと日が暮れていた。町、といっても、生まれ育ったサンフランシスコと、今住んでいるバークレーしか知らない都会育ちのエドにとっては、それこそ見渡す限りの牧草地か、小麦畑を突っ切る国道の途中にある小さな集落ほどにしか見えなかったが。それでも一応、外敵を防ぐためか境界を示しているのか、石を積み上げた壁に囲まれて、一個の独立した町の体裁を保っている。
 町へ入る門は閉ざされていたが、門というほどのものではないそれは、引けば簡単に開いた。出入りを制限するためのものではなく、やはり単なる境界にしか過ぎないのだろう。
 ぽつりぽつりと小さな家の中に灯った明かりしかない町は暗く、ひっそりとしていた。こんなところに泊まれるようなところがあるのかとエドは心配になったが、中心部らしいちょっとした広場までやってくると、人の姿もあり、飲食店や商店らしい建物が広場を囲み、ざわめきや明るい光が洩れていた。
 エドは、中世の村に迷い込んだような気がした。どことなく違和感はあるが、本や映画、でなければゲームで見た中世ヨーロッパの町並みや風俗にいちばん近いように見えた。
「……いいか、お前は口をきくな。おれが何を言っても適当にうなずくだけにしろ」
「あ、ああ」
 テスの緊張が伝わってきて、エドも、いよいよこれが、この異世界の文明とのファーストコンタクトなのだと思って心臓が高鳴った。緊張だけでなく、わくわく感が混じっているのは、まだ実感が本当には湧かないせいかもしれなかった。自分では、埋もれた文明を探し出し、明らかにしたいという志で考古学を学んでいるつもりだが、考古学者や探検家たちが活躍する映画や冒険小説に夢中だった子供時代を忘れたわけではない。
 テスは広場から伸びる路地の、一軒の食堂らしい店に入っていった。狭い店の中に客は男が二人、黙って食事をしていた。
 ドアに付けられたベルの音で、厨房から中年女性が出てきた。彼らを見て、愛想笑いを浮かべる。
「いらっしゃい。泊まりなら、空いてるよ」
「二人でいくら?」
 テスは、さっきまでの尊大な、厳しい口調とはうって変わった、声の高さまでも違う話し方をし始めたので、エドは思わず彼の横顔をまじまじと見てしまった。表情もにっこりと、実に可愛らしい少年ぶりである。
「朝食つきで二人部屋30サン。体を洗うのに湯を使うなら、一人につき1サン上乗せだよ」
「うーん、部屋を見せてもらえる?」
「いいよ」
 長いスカートをからげ、手燭を持って女が階段を上っていくあとに二人も続く。
 木のベッドが二つ並び、その間に小さな木の台があるだけの、質素極まりない部屋だった。が、今のエドには、この部屋がこの世界ではどの程度のものなのか、安いのか高いのか妥当なのか、さっぱりわからなかった。
「うん、決めた。一晩借りるよ。お湯ももらえるかな?」
「ああ、いいよ。すぐ使うかい?」
 テスはベルトにつけたポーチからコインを取り出した。
「うん。あと、食事も頼みたいんだけど、ここで食べてもいい?」
「構わないよ。定食でいいかい?だったらあと4サンおくれ」
 女は受け取ったコインを数え、スカートのポケットにしまった。
「食事はすぐに持ってくるよ。お湯はちょっとかかるから、あとで沸いたら呼んでやるよ」
「食事は取りに行くよ。…兄ちゃんは休んでて」
 テスは目顔でエドにそこにいろ、と合図して、女と一緒に出て行った。
 女が置いていった手燭一つの薄暗い部屋に残され、エドは緊張を解いて硬いベッドに腰かけた。
「…兄ちゃん、って……兄弟というにはちょっと苦しいよな…」
 東洋系のテスと、北欧系の金髪碧眼の彼とでは、人種的に違いすぎる気がするが、ここではそういうこともありなのか、それとも養子とか…などと埒もないことを考えていて、思い出した。下にいた男たちと案内してくれた女、それに広場で見た人々は南欧のラテン人種に近い顔立ち、体格だった。テスとは明らかに違う。ということは、テスは、少なくともこの近辺の出身ではないのだ。
「……エド、開けてくれ」
 テスの声に、急いでドアを開ける。テスは食事を載せたトレーを両手に持って入ってきた。
 彼は、一つを台の上、もう一つをベッドの上に置いた。腰に帯びたままだった剣をはずし、ベッドに立てかけてその横に座る。
「食べろよ」
 彼は膝の上にトレーを載せ、スプーンを手にしてさっさと食べ始めた。膨らんでいないパンのような、スコーンのようなものと、肉と野菜の煮込み、ピクルスらしいもの、それに水という食事を、テスは驚くほど上品に食べていく。こんな簡単な食事の仕方に差が出るとは思えないのに、しかもセッティングされたテーブルと椅子についているわけでもない。なのに上品としか言いようがなかった。思わずエドが見惚れていると、テスが思いっきり眉をひそめて顔を上げた。
「何だ?食べられないのか?」
「い、いや、そうじゃなくて…」
 エドは、暗くて自分が赤面しているのが見えないだろうことに感謝した。色素の薄い彼は、シャワーを浴びても興奮しても、すぐ首から上が赤くなってしまうのだ。
「ありがとう…こんな、俺みたいな得体の知れないやつに親切にしてくれて。たまたま俺を見つけたばっかりに、こんなやっかい事に巻き込んでしまって、すまないと思ってる」
「………」
 テスは、スプーンを置いた。
「……偶然……ではない」
「え?」
「お前は、街道を行く人間からは全く見えないほど離れたところに倒れていた。おれは、お前を探して街道を外れた。…正確には、お前がいると知っていたわけではないが、何かがあると思ってあそこへ行った。そしてお前を見つけた」
「……何かって……どうして……」
「…おれには、お前の言葉はわからない。だから、お前の気を読んで、お前が伝えようとしている意味を理解している。動物や植物、この大地や大気、水、すべての自然の気を読む能力の応用だ。……わからないか?お前だって、その方法でおれの言葉を理解しているんだぞ」
 エドは絶句した。
「そんなばかな…!君は英語をしゃべっているじゃないか!」
「頭の中で勝手に変換しているだけだ。おれの話す音だけに意識を集中してみろ。全くわからないはずだ。……だから、自分が知らない概念の言葉は理解できない。今、お前は『英語』と言ったが、おれはその言葉がわからない。たぶん、お前の母国の言語のことなのだろうと想像はつくが。例えば…距離や時間、物の単位を表す言葉は翻訳できない。おれが、このヴォガまでの距離を12フォルトと言ったとき、わからなかっただろう?」
「………」
 テスの言うとおり、彼は英語を話してはいなかった。頭の中で流れる意味と、耳がとらえている音とが二重に聞こえる。
「大気が、大きくねじれるのが視えた。これまで見たこともない大きな力……巨大な嵐や、激しい雷雨のときでさえ比べものにならないくらいの力が、動くのが視えた。それはほんの2分の1フォルも経たずに唐突に消えたが、そのあとに何かが出現しているのを感じた。まるで、小さなつむじ風のような気が地平に立ち上っていて……おれは確かめずにいられなかった」
 彼は深いため息をついた。
「……それに…よりによって、おれから視える範囲にお前が現れたことを、偶然で片づけることはできないだろうな……」
「……テス?」
 テスは、エドより十歳も年上のような、苦い笑みを浮かべた。が、彼の視線に気づくと、すぐに表情を消した。
「そのうちわかってくるだろうが…おれたちみたいな力を持っているものはほとんどいない。つまり、おれはお前の言っていることを理解できるが、他の人々には理解できない。だから、当分言葉を覚えるまでは、人前でしゃべるな」
「覚える……」
「おれが教える。他にも、我々の習慣や一般的な知識。おれもまだ世間知らずのうちに入るが、お前に教える程度なら十分だろう」
「……それって…しばらく俺と一緒にいてくれるってこと…?」
 エドは、信じられない気持ちで訊ねた。こんなお荷物、テスは放り出したってかまいはしないどころか、そうするのが当然なのに。
「仕方ないだろう。ここでおれが見捨てれば、一週間以内にお前は盗賊に殺されるか、餓死か病死、でなければ牢屋に入れられているだろう。それではさすがに寝覚めが悪いからな」
 そっけなく言い捨てて、彼はまたスプーンを口に運び始めた。
 意識せず、エドの口に微笑みがのぼった。どうやら、自分はとても運がいいらしい──こんなとんでもない目にあって、元の世界に戻れるかどうかもわからない状態を、運が悪いの一言で片づけることなどできそうにないが──と思って。関わりあいを避けて無視されたり、警察だか何だかに突き出されたり、そうでなくても言葉も分からない人々の中に放り込まれたりすることなく、テスが見つけてくれて、テスに出会うことができたなんて、百万ドルの宝くじに当たるより運が良かった。
 テスが彼をだましたり、密告したりするつもりかもしれないとは、これっぽっちも思わなかった。そのつもりならとうにそうしているだろうとか、命以外に取れるものなんかないだとか、そういう論理的な帰結ではない。テスの冷たくさえ思える物言いや、厳しい態度は、むしろ無意味なごまかしをせず、現状を直視させ、十分な判断の材料を与える、相手を対等に扱い尊重する彼の姿勢を表している。
 エドにはそれが感じ取れた。彼はこどもだが、その中身は幼くはない。知識も、人格も。
(きっと、俺なんかより苦労して、いろんな経験をしてきたんだろうなあ……)
 そう思うと、なんだか心が痛かった。宿の女性と接したときの「年相応」の演技も、生きていくための知恵なのだろう。生きることに困難を抱えている者ほど、いろいろな役を演じなければならない。無邪気なふり、傷ついていないふり、知らないふり、楽しそうなふり……。エドは、そのことを知っていた。彼もいつだってそうしてきたからだ。
 親の保護を受けられなくなったこどもが収容される施設で、彼は「適度に」職員を困らせ、ほどほどにいい子で、引き取られた先の家庭でも「普通に」養父母とぶつかりあい、それなりにいい親子となったあと、大学入学と同時に独立した。
 一人で生活するようになったからといって、何もかも思い通りにできるわけでもないし、必要とあらば「相手の望む姿」を演じることもあるけれど、少しずつ、自分が素のままでいられる場所を作りつつある。
 エドは思い出してしまった。あの場所に帰れるのだろうか?学びたいことを学ばせてくれる大学、狭くて古いが、彼の「城」であるアパート、いろいろな人がやってくるバイト先のカフェ、青い空と赤い土の発掘現場……。
 帰れないかもしれない。一生、ここで暮らすことになるかもしれない。何の手がかりもない。偶然ここへ来たのなら、それともどこかに帰る道があるのなら、偶然を待つか、道を探さなければならない。それまでここで生きていかねばならない。ここで生きていく方法を学んで、一人で生活できるようにならなくては。
「テス」
「…なんだ?」
 不機嫌そうに──そういえば、目が覚めて、初めて彼を見たときもこんな表情だった。もしかしたら、笑うと損だとでも思っているのだろうか?普段愛想笑いしている分──テスは顔を上げた。
「俺、君にものすごく迷惑をかけてしまってる。ありがとうなんて言葉じゃ済まないくらい。どうしたら君の役に立てるのかわからないけれど、俺に出来ることがあれば何でもする。早く言葉を覚えて、習慣も覚えて、一人でやっていけるように努力する。それで、君に恩返しをするよ」
「……」
 テスは、やや呆れたらしい沈黙を返した。
「……ずいぶんと、前向きだな」
「悲観してたって、やらなければいけないのは同じだろう?」
「まあな。おれとしてもその方が助かる。少なくとも、途中で頭に来てどこかに捨ててくる手間は省けるからな」
 口の端だけで意地悪げな笑みを彼は作った。そうすると彼の美貌はひどく大人びたものになり、なぜだかエドは直視できず、熱くなった頬をこすってごまかした。
「君に手間をかけさせないようがんばるよ。これからよろしく頼むよ。…こういうとき、どうするものなのかな?」
 エドの差し出した手を、テスはとまどったように見やった。
「握手の習慣はない?お願いしますって頼むとき、どうする?」
「……いや、たぶん、ほとんどの国でそうする。ただ、おれは…」
 テスの語尾は口の中に消えた。彼は食事のトレーを膝から下ろすと、ためらいがちに手を出した。
 自分よりひと回り小さな手を、エドは力を加減して握った。少し湿った熱い手のひら。
「……っ!」
 不意に、テスは手を引いた。
「テス?」
 彼は取り戻した手を胸に当てて握りしめ、驚愕を顔に貼りつけてエドを凝視した。
「……テス?」
 何か自分は禁忌にでも触れたのだろうかと、エドは不安になる。テスは気まずげに目をそらし、
「……すまない。人に触られるのは苦手なんだ」
「あ、ああ……そう、か……」
 それ以上取り繕うことも思いつかないように黙って食事を続けるテスに、エドも冷めかけた料理に手をつけた。テスの言い訳がごまかしでしかないことはわかっていた。だが、いったい何が彼をあんなに驚かせたのだろうか。いきなり手を?んだわけでもない。手が触れて、自分は熱さを感じただけだったが、テスは他のことを感じたとでもいうのだろうか?静電気とか?
 エドは自分で考えたことに苦笑した。そんなことより、考えるならこれからのことだ。生活のあらゆることを初めは彼に頼らなくてはならないとしても、どうしたって彼はまだ幼いこどもだ。本当は、自分が彼を助け、守らなければならない立場なのだ。自分に、何ができるだろう。テスのために、生きていくために。彼にはまだ、何もわからなかった。

おとなげない大人・R

2008年09月11日 | 極めて日常茶飯事
 こどもの頃はおとなというのは「大人」だと思っていたが、自分がおとな、しかも人生の半分を昇りきって、もうあとは坂を転がり落ちるしかない歳になって、自分を含め、世の中のおとなはちーとも「大人」でないことをしみじみ感じるのである・・・。
 夏の間、本屋へ行くたびに「おお、いっぱい出てるな~」と見ていた実録怪談本の数々。怖がりのくせにこういうのを読まずにいられない幸田は、もう今年はこれで出尽くしたかと、オカルトおたくでもある兄にメールを送った。
 幸田「新耳袋と、今年出た怖い本貸して」
 兄「レンタル料3千円に成増」
 幸田「高杉
 兄「上段だ」
 ・・・目には目を、誤変換には誤変換を。40過ぎたいい大人のやりとりとは思えんな・・・。
 というわけで、今私の手元には怖い本が紙袋一杯ある。怖さに耐え切れなくなったときのために、怖い本とマンガはセットで準備だ。(お笑い番組をつけながらでも可)
 という話をしたら、怖い話は大嫌い、私が体験談を話そうとしただけで「やめてーっ」と耳を塞ぐ(仕事中だぞ~・・・私もだが)Gちゃんが、「そこまでして読まなくても・・・」と呆れた。ごもっとも・・・夜中に目が覚めて冷や汗だらだら流すくせにねーっ
 歳をとると、月日が経つのはあっという間だが、逆に1週間は長い。なにしろ休み以外に楽しみがない。というか、会社に来なくていい週末があるから、なんとかまた1週間(正確には5日間。週休2日だからね)、会社に来れるってもんだ。
 そんな私とGちゃんの、毎度の会話。
「ああ~・・・今日、木曜かー・・・。なんか今日が金曜のような気がしててさー、今日はケーキ買って帰ろうとか思っちゃって、がっかりだよ」(1週間がんばった自分へのご褒美である
「私なんて昨日、会社にいる間はちゃんと水曜だとわかっていたのに、家に帰ったら、なんか明日は金曜だって思いこんでた。いつの間にか頭の中で日付が変わっていたみたい・・・」
 Gちゃんのところでは、17時と24時に日付が変わるらしい・・・。
 月曜日が来たとたんに金曜までの日数を指折り数えている上に、少々ボケも入ってきたらしい我々が、毎週のように交わす(この辺もボケ老人状態)会話であった・・・

 

『遠い伝言―message―』 2

2008年09月07日 | BL小説「遠い伝言―message―」

「いたっ!」
 彼は自分の声で目が覚めた。
「……大袈裟な奴だな。そんなに力は入れていないぞ」
 彼の目の前に、足があった。それを上にたどっていくと、雨でもないのに長いマントを体に巻きつけた少年が、不機嫌そうに彼を見下ろしていた。
「…あれ?君は……?」
 体を起こそうとして、彼は体中に走った痛みに「いたたた…」と情けない声をあげて転がった。
「けがをしているのか?」
「わ、わからない……」
 少年の声に戸惑いの色が混じった。
「出血はしていないと思ったんだが、骨をやられているのかもしれない。見せてみろ」
「大丈夫、たぶん……」
 彼は自分であちこちひどく痛む部分を探ってみた。
「単なる打ち身だと思う。骨折までの痛みじゃない」
 これならフクロにされたときに比べればたいしたことはない。だが、いったいいつこんなひどい打撲を負ったのだろう──そうだ、洞窟の穴に落ちたせいに違いない。すると、ここはどこだ?
 うずくまっていた彼は目を上げ、あたりを見まわした。
 そこは、何もかもが違っていた。渓谷の底では決して見ることのなかった地平線。首が痛くなるほど見上げなくても、目の高さに空がある──あいにく雲がひろがっていて、青空はところどころに覗いているだけだったが。そして、赤茶けて乾燥したアリゾナの大地とは正反対の、どこまでも続く草原。緑の中に黄色やピンク、青い色が混じるのは花だろう。
 そんな見知らぬ風景よりも、彼の視線を吸い寄せ、強く心を惹きつけたのは───
 本当に、まだ幼い少年だった。ジュニアハイスクール入学前と言ってもいいくらいだ。体のほとんどを覆い隠す厚地のマント越しでも、その成長期の手前らしい、優しい体の線と華奢さがわかる。けれど、唯一露わになっている顔の表情は、その見かけの年齢を裏切っていた。
 初対面の相手への警戒の色は当然としても、観察するような冷静な視線や、唇を引き結んだ厳しい表情は、十かそこらのこどものものではない。
 彼は、座り込んだまま、ぼうっと少年を見上げた。
 なんて瞳だろう──と、魅入られたように少年の目を見つめた。漆黒の瞳は、美しくカットされた黒曜石のように冴え冴えと輝き、やや眦のきついアーモンド形の大きな目のほとんどを占め、鋭すぎる印象を和らげている。目に比べると鼻や口は小ぶりで、筋の通った細い鼻梁もピンク色の薄い唇も、こどもの可愛らしさよりは陶器の人形の整ったそれを感じさせる。──その繊細な花びらのような唇がほころべば違うのかもしれないが、少なくとも今は、むしろ冷徹さすら漂わせていた。
 少年は絞りたての濃いミルクのような、白よりは黄みがかった肌で、そのわずかに癖のある黒い髪からも、東洋系ではないかと思われた。純粋な、ではないだろうが。
 なんにせよ、その少年の容姿が整っていて、しかも非常に印象的なことは間違いなかった。何しろ彼にとって、人に見惚れて目を離せなくなるという経験など、生まれて初めてだったのだから。
「…君は、だれ?」
 ぴくりと、少年の片眉が上がった。
「……人に名を訊くときは、自分から名乗るものだ」
 どうやら気分を害させたと知って彼は慌てて言った。
「俺はエドワード・ジョハンセン。エドか、エディと呼んでくれ」
「……テス」
「えっ?」
 小さな呟きを聞きとれず、エドは首を傾げた。
「テス、だ。ジョハンセンというのは姓か?」
 少年は、硬い表情を崩さず言った。
「ああ、そうだけど……」
「ここでは、特別な場合を除いてむやみに姓を名乗る習慣はない。覚えておくといい」
 ここ、ってどこだ?と訊こうとしてやっと彼は現実を理解した。ここは洞窟の底でも遺跡の谷でもない。いったい、どこにいるというんだ?
「……テス……ここは、どこなんだ?」
 真っ青になった彼の顔色に気づいたのだろう、テスは顔を曇らせ、言いにくそうに唇を湿した。
「…リベラの東端の町、ヴォガまで12フォルトというところだ」
「……なんだって?」
 ぽかんと訊き返したエドに、テスは大人びた吐息を洩らした。
「お前の生まれた国は?お前がいた場所はどこだ?」
「……アメリカ合衆国。さっきまで、アリゾナ州コロラド高原で…遺跡の発掘をしていたんだ……」
「…そんな国も、そんな名前の土地も存在しない。少なくともこの大陸には」
 そう告げながら、すでに現実を把握したテスの表情は暗かった。
「ここは、お前のいた世界じゃない。たぶん…。信じられないかもしれないが」
「……なんだって……」
 茫然としているエドを尻目に、テスはマントを脱いでエドに投げ渡した。
「お前には小さすぎるが、少しは寒さがしのげるだろう。行くぞ。ぐずぐずしていると日が暮れる」
「行くって…」
 エドは、ぶるっと震えた。言われて初めて、コロラドとの気温差に気づいた。見れば、Tシャツから剥き出しの腕に鳥肌が立っている。
「ヴォガの町へ行く。今夜、ベッドの上で寝たければ、痛むだろうが我慢して歩け」
 言うなり、彼は踵を返してすたすたと歩き始めた。
 背中に大きな袋を背負った後ろ姿をぼんやり見送りかけて、エドは我に返った。テスの腰にぶら下がるのは、長い剣。幼い彼がそんなものを持ち歩いているということは、人間だか獣だかはわからないが、それだけの危険があるということだ。
 立ち上がる動作だけで体中が悲鳴をあげたが、エドはそれをだましだまし、テスのあとを追った。

 


ショタでやおって何が悪い

2008年09月07日 | オタクな日々
 今日(あ、もう昨日だ)からBL小説をブログにUP開始したわけですが、その前に「ぷららはアダルトブログ禁止だったような」とぶつぶつ言っておきながらどうも記憶があいまいで、「どの程度ならいいのかな・・・」と改めて規約を読んだところ、「公序良俗に反する内容」でなければいいらしいことがわかりました。
 じゃ、「公序良俗に反する」ってどの程度よ・・・。本屋に並んでるビニールに包まれてもいなければ「アダルトコーナー」とかに隔離していないポ○ノ小説の数々、あの程度はOKか・・・と言っても、どれくらいだと「わいせつ」になるのか小説は基準がわからん!昔「四畳半なんたら」とか「なんたら夫人の恋人」とかいう小説がわいせつ表現にあたるとされた裁判があったけど、わたしゃその小説読んでないし!だいたい市販のエロ雑誌の小説なんて私から見るとエロくもなんともないっつーか、単なるグロじゃん、気持ち悪いだけし(まあ、男向けを女が読んだっておもしろくないわな)、それこそページの9割がHシーンの小説なんて、途中で飽きて眠くなるだけだしさ。画像と違って文字のエロの基準はあいまいすぎる・・・。
 とりあえず、「公序良俗に反する」にひっかかりそうなのは多分「わいせつかどうか」と年齢設定くらいだろうけど、私の書くHシーンなんて、「公序良俗うんたら」言うほどの代物ではない・・・。私がラブシーンを書くときのポリシーは、「話全体のバランスを考えて」だ。切ない恋愛を書いた話で、たとえ読者サービスでもやたらエロく書いたら話の雰囲気が壊れる場合は抑えるし、やたら長々書いて、全体の分量に対して多くなりすぎてもだめ。
 なので、この話ではHするかしないかは重要なポイントなので行為の最初から最後まで書いている上描写も細かめだが、いやらしくは書いていない(つもり)。「公序良俗」云々いわれるほどでは全く(多分)ない。が、Hシーンがあることには違いないので、その時は注意書き入れようっと。
 あとは・・・カップルの一方が推定外見年齢13、4歳ってことがアレですかね・・・。要するにややショタ・・・。しかし、自分が13、4歳のときどうだったかを思い出すと、確か初めて小説でHシーンを書いた頃ではなかろうか・・・(男女だけど!いやー、私ってまともじゃん!)。そもそも日本は、昔は12、3で結婚するのもアリだったわけだし。・・・まあそれはそれとして、今のところ児童ポ○ノの定義は「画像」に限られてるので、(その画像がアニメやマンガのキャラでもダメにしようというアホバカ法律の制定には絶対反対だぞ!)問題なしだ。
 というわけで、宣言(?)。話が進んでいってHシーンに入っても、警告だけはちゃんとするけど、描写をぬるくするのはやめることにする。ぬるくする必要性がないという結論に達したからね。
 ああ、すっきりした。これで「なんとなく自主規制・・・」なんてことせずにやることができる・・・。やれやれ。

 

『遠い伝言―message―』 1

2008年09月06日 | BL小説「遠い伝言―message―」

 吸いこまれそうな濃紺の空。カラカラに乾いた空気は喉だけでなく眼球から涙まで干上がらせていくようで、目がシカシカする。唯一の救いは、張り出した崖が容赦ない日射しを遮ってくれていることだった。おかげで発掘現場はとりあえず、人間が耐えられる温度でとどまっていた。
「グランドキャニオン」の名で知られる大渓谷を、数万年かけて削り出し、アメリカの中西部から太平洋へ流れ込むコロラド川。その支流を遡り、遥か昔に涸れた更にその支流跡の近くで、ネイティブアメリカンの祖先たちのものと見られる遺跡が、国定公園のレンジャーによって偶然発見されたのは、ほんの三年前のことだった。あまりにも辺鄙で厳しい場所のため、予備調査と予算獲得に三年の準備期間が費やされ、ようやく今年、カリフォルニア大の人類学研究室に発掘チームが結成され、本格的調査が始まったのだ。
 キャンプの貯水タンクから詰め替えてきた水筒の生ぬるい水で、砂でざらつく喉を潤しながら、彼は、崖下に造られた住居跡や祭壇を、飽きず眺めやった。
 彼──エドワード・ジョハンセンは、カリフォルニア大学の歴史人類学科二年に在籍し、将来は学者を目指していた。だから、自分が在籍中にこんなプロジェクトが行われると知ったときは、信じられない幸運に興奮して、喜び勇んで総指揮者のキンバリー教授に売り込みに行ったのだ。発掘メンバーに選ばれたときは天にも舞い上がる心地だった。同じ学科の友人たちは、マスターコースの先輩たちと違って、調査報告書に名前を載せてもらえるわけでもない、ただの作業要員じゃないか、と彼を止めたが、そんなことは問題ではなかった。もう発掘されつくした遺跡を柵や金網越しに眺めるのではなく、まだ誰も見ていない未知の遺跡を、この手で掘り出し、この手で触れ、その空気を嗅ぐことができるのだ。カフェのウェイターより安い日給でこき使われることなど、その経験と引き換えなら構いはしなかった。正直言って、奨学金とバイトで生活をまかなっている彼としては、前期試験後の二週間の秋季休暇が全部潰れるのは痛かったが。
 この集落跡は何世代にもわたって使用されたらしく、石積みの建物の下にも石床の層が掘り出され、調査は予定を延長される方向に傾いているのが彼には悔しくてならなかった。彼が参加できるのは休暇中だけ。この先どんな発見があるかもしれないのに、それに立ち会うことはできないのだ。
 今、遺跡にいるのは彼ひとりだった。最も暑い正午から二時間は食事と休憩の時間なので、皆、発電機で冷房を入れたテントで昼寝をしているところだろう。もちろん、彼も午後の作業に備えてひと眠りするつもりだったが、テントの中より、もっと気持ちよく眠れるところを知っていた。
 崖には人工的に掘られた穴や、自然の窪みがあちこちに口を開けている。それらの多くは食料などの貯蔵庫として利用されていたらしいが、その理由はそこが涼しいからに他ならない。水分を多く含む地質なので、昼間はその水分が蒸発することによって気化熱が奪われる。だからこの場所は、日陰という条件以上に、過ごしやすくなっているのだ。
 すでに調査が終わり、遺物が運び出されて空っぽとなっている穴にもぐりこみ、岩壁に体をくっつけて寝るというのが、彼の発見した最高の昼寝法だ。
 今日も彼は、昼寝場所と決めた穴へ向かってぶらぶら歩いていった。
(ん?)
 彼は足を止めた。目的の場所より更にずっと向こうの壁の、不自然に黒々とした影が、彼の目を引いた。
 単なる岩の影とは思えなかった。その闇色は、光の届かない深い穴があることを感じさせた。それに、その形はこの辺りにあるような横に拡がったものではなく、縦に細長かった。
 水によって岸壁が削られてできた穴や窪みは、削られた表面は滑らかで、入口が横に広く、奥行きは浅い。なのに、その穴は(穴だとすれば、だが)縦長で、ごつごつした輪郭だった。第一、昨日までそんな穴はなかったはずだ。
(夜のうちに…岩が崩れて、隠れていた洞窟が出てきたとか?)
 確かめようと、彼はいつもの場所を通り過ぎ、崖に沿って歩いていった。それほど遠くなく見えたのに、穴にはなかなかたどり着かない。彼は張りついた前髪ごと、額を腕で汗をぬぐった。
(気のせいか…?全然近づいてこないように見える……)
 彼は振り向いて、さっきまでいた遺跡からたいして来ていないように思え、首を捻った。そして前に向き直り、あっと叫びそうになった。穴は、すぐそこにあった。
 不思議な気がしたが、崖が大きく弧を描いているせいで錯覚したのだろうと考えた。
 人ひとりがやっと通れるくらいの割れ目が、唐突に口を開けていた。前に立つと涼しい風が吹き出して、彼の伸び気味の前髪を揺らした。入口は狭いが、中は相当深そうだった。覗き込んでも全く何も見えない。
(空気が流れているということは、どこかに繋がっているはずだ)
 彼は、懐中電灯を持ってこなかったことを悔やんだ。遺跡と関係あるかどうかはなんとも言えないが、もしこの入口が昔は開いていたとしたら、先住民たちが利用していた可能性はある。その痕跡くらいないだろうかと、彼は壁に手をついて中へ足を踏み入れた。
 風が真正面から吹きつけてくる。どこまで続いているのか、奥はもちろん足元も、手を触れていなければ壁の存在さえもあやふやになるほど、洞窟の内部は闇に閉ざされていた。
 一向に暗さに慣れてこない目に、彼はこれ以上進むのをあきらめ、引き返そうとした。だが、動かした視線の先に、彼はぼうっと浮かぶ光を見つけた。
 隙間から光が射しこんでいるのとは違う。すりガラス越しに弱い電球の光が漏れているような感じだった。
(向こうに枝道があるのか?)
 相変わらず鼻先すら見えなかったが、その光に誘われて彼は壁から手を離した。
 明かりの落ちた、夜のビルの非常灯のように、闇に滲む光の中に文字か記号らしきものがあるのに彼は気づいた。
 それはアルファベットに似ているようでいて、アルファベットに当てはめようとすると全く違うようにも見え、読めそうで読めないもどかしさを彼に与えた。彼は「音」で読もうとするのをやめ、その形全体を頭に入れようとした。
(また……)
 近づいているはずなのに、その光は少しも近づいてこない。先ほどこの洞窟を目指したときのように。
 ──……と出会え。
 ふっ、と言葉が浮かぶ。彼は目を凝らした。読めたわけではない。何の連想だろうと思い、足元の危うさを忘れた。
 ──と出会え
 その文字を音ではなく、翻訳された意味で理解したのだ、と彼が驚きに打たれた瞬間、止まらなかった最後の一歩は、着くべき地面を見出せなかった。
「!!」
 声にならない叫びをあげ、まっさかさまに暗闇に落ちていく彼の目が、その文字が遠く小さくなっていくのを見届ける前に、彼の意識は闇に包まれた。 


 


オリジナルBL小説再録?予告~♪

2008年09月03日 | BL小説「遠い伝言―message―」

 何年前だったかに発行したオリジナルBL小説。もう売ることもないので自分のサイトにアップしたいが、フロッピーに入れておいたデータがぶっ壊れて(正確には壊れてはいないようだが、読み出しができなくなっているのだ。マイク○○フト社のサイトでそういう場合の対処法を見ていろいろ試したが、どれもこれもだめだった・・・)、見本誌を見ながら打ち直すしかないという羽目に。
 だったらついでというか、サイトに載せるにはあまりにもページ数が多すぎて誰も読んでくれないかもしれないし、打った分だけブログにアップすることにしました。他の記事のついでに読んでくれるかも、というせこい考えもありますが(笑)
 というわけで、今週末から少しずつ連載(つーかテレビでいえば再放送かねー。映画でいうとデジタルリマスター版(爆)みたいなもんですか?)開始します。本日は「読みに来てねv」という宣伝です
 そういえばHシーンもあるんだよな・・・。ぷららはアダルトブログ禁止だったよなあ?そこだけぬる~く変えるか、ほかにリンクさせるか・・・?(それもまぬけ・・・
 それでは是非是非お読みくださいますよう、よろしくお願い致します!


秋来ぬと・・・

2008年09月02日 | 極めて日常茶飯事
 梅雨入り前にやったきりの庭の手入れ・・・という名の雑草取り&伸び放題の枝切りをやった。巨大なタンポポの葉の下に生息していた大量のダンゴムシと丸くならないダンゴムシ(名前わからん・・・)はわらわらと逃げ出し、どけた枯葉の下のミミズはギンギラの太陽にさらされてもまったり伸びたまま、騒がしさにカラフルなトカゲが大急ぎで這い逃げ、この猫の額ほどの庭にどんだけ居候がいるのだ・・・と文句垂れつつやりましたとも!・・・やってもちーっとも綺麗になったように見えないけど
 暑さがぶり返して、また夏に逆戻りかよ、と思いつつも、ふと気づくと通り道の柿の実が色づき、それが柿の木だと初めて気づいたり、ネコジャラシだらけだった線路脇の草むらに野萩がまじっていたり、ちゃんと秋が来てるんですなー。
 萩といえば、京都に萩で有名な寺があるけど、京都は2年に1回は行っているような気がするが、いつも時期がずれていて、何度もその寺に行っているのに萩の季節に行けたためしがない。今年こそ行こうか・・・いや、京都に何度も行くより行ったことのないところに行きたいな。そういえば「ドライブするぞ~!」とせっかくETCをつけたのに、まだ1度しか活用していない。ちょうど去年の秋、紅葉を見に談山神社に行ったきりだ。ううむ、秋の花を求めてどこかへ出かけるか・・・。ガソリン高いから近場で探そ~っと。
 さて、秋は人事異動の季節でもある。うちは10/1が定期異動日なのだ。なんと・・・1年前にやって来た最愛のS部長が、あっという間にまた異動!なんでや!!普通3年はいないか?!しかもその後任が関西のM部長だと?春の内務主任研修で、関西の子から悪評聞いたばっかだぞ。うがっあ~あ・・・
 
 昨日は最後の夏休みをとった。届いたばかりのリ○ーンのPS2用ゲームをやり続けていて、右手の親指が腱鞘炎・・・。痛え・・・。しかしこのゲーム、まじで乙女ゲーだな!なんてったって、パートナー・・・いやいやいや、トレーナーとの友好度や、修行によって習得する「属性レベル」・・・「遥か」だと、とか五行属性かしら。友好度なんて、ハートマークがピンクに変わっていくんだぜい。まさに「心のかけら」と「信頼度」って感じ・・・でイベントや展開が変わるマルチエンディング!・・・まさに腐女子がターゲット!!私はまだ並盛編をうろうろしてますけどね・・・。ああっ、ヒバリ様とはまだ1回しか言葉を交わせていないわっ!あとは崖の上からヒバリ様と骸様のにらみ合いを見かけただけ・・・早く黒曜編にたどり着きたい・・・