２月 １０日

　　　　　　　　　　　　　　　　　　（　木の芽・芽ぐむ・芽吹き・名木の芽　）



観音に瀬音高まる芽木の里　　　　　　　　　　　　　　　　　栗田やすし


海越えて芽ぐむものなき野のひかり　　　　　　　　　　　　　沢木欣一


母の忌の木の芽の笹子峠越ゆ 　　　　　　　　　　　　　　　　細見綾子


明るさに径うすれゆく芽吹山 　　　　　　　　　　　　　　　　能村登四郎


無人なる虚子山荘や芽木明り 　　　　　　　　　　　　　　　　小原菁々子


金髪の如く美し木の芽伸ぶ 　　　　　　　　　　　　　　　　　阿波野青畝


音ありと幹に掌を置く芽吹前 　　　　　　　　　　　　　　　　藤田湘子


頬白や下枝下枝の芽ぐむ間を 　　　　　　　　　　　　　　　　中村汀女


井戸掘るとみんなあつまる木の芽どき 　　　　　　　　　　　　穴井太

２月 ９日

　　　　　　　　　　　　　　（　春の雪・春雪　）


春雪を被し伊吹嶺に夕茜　　　　　　　　　　　　　　栗田やすし


竹林に梅も咲きをり春の雪　　　　　　　　　　　　　細見綾子


春雪や村のほとけに朱唇あり 　　　　　　　　　　　　小川軽舟


くれなゐに仏の暮れる春の雪 　　　　　　　　　　　　吉田鴻司


春雪のあとの夕日を豆腐売 　　　　　　　　　　　　　大串 章


春の雪降りつつ早む夜の刻 　　　　　　　　　　　　　飯田龍太


ペンシヨンの早き目覚めや春の雪 　　　　　　　　　　嶋村美知子


春雪の忽ち溶けぬ水菜畑 　　　　　　　　　　　　　　鈴鹿野風呂


にわとりの卵あたたか春の雪 　　　　　　　　　　　　小西昭夫


春の雪犬は腹まで濡れてきた 　　　　　　　　　　　　宇多喜代子

２月 ４日

　　　　　　　　　　　　　　（　立春・春立つ・立春大吉・春来る　）


春立つや鵜川に青きもの流る　　　　　　　　　　　　　栗田やすし


万燈のまたゝき合ひて春立てり　　　　　　　　　　　　沢木欣一


春立てり鑑真像を壁にはり　　　　　　　　　　　　　　細見綾子


立春の米こぼれをり葛西橋 　　　　　　　　　　　　　　石田波郷


立春大吉髪切つて耳あらはるる　　　　　　　　　　　　 内田美紗


機糸の色の束より春立てり 　　　　　　　　　　　　　　清水節子


立春大吉神田の町に手風琴　　　　　　　　　　　　　　 加古宗也


立春のどこも動かず仔鹿立つ 　　　　　　　　　　　　　秋元不死男


奉納の子泣き相撲や春立てり　　　　　　　　　　　　　 町田千鶴子


立春や月の兎は耳立てゝ 　　　　　　　　　　　　　　　星野　椿


立春大吉音立てている茹卵 　　　　　　　　　　　　　　森田智子

２月 ３日

　　　　　　　　　　　　　　（　節分・追儺・鬼やらい・福豆　）



追儺豆帽子をぬぎて受くるあり 　　　　　　　　　　　　　　細見綾子


鬼の子のはしやぎて逃げる節分会 　　　　　　　　　　　　平岡喜美子


口ボツトの犬吠えている鬼やらい 　　　　　　　　　　　　　大口元通


節分や海の町には海の鬼 　　　　　　　　　　　　　　　　　矢島渚男


福豆を炒る宮島の大しやもじ 　　　　　　　　　　　　　　　大塚禎子


追儺の夜餓鬼の如くに出て歩く 　　　　　　　　　　　　　　福永 耕二


高張に続くお練や節分会 　　　　　　　　　　　　　　　　　林 尚子


節分の僧の振舞ふ般若湯 　　　　　　　　　　　　　　　　　渡辺政子


病む父に打ちてしまひぬ追儺豆 　　　　　　　　　　　　　　大石悦子


カツサンド見れば食べたし福豆も 　　　　　　　　　　　　　藤田湘子

２月 ２日

　　　　　　　　　　　　　（　二月・如月　）


夕映えて如月の富士ばら色に　　　　　　　　　　　　栗田やすし


野のすみれコップに二月句会かな　　　　　　　　　　細見綾子


二月来るぶつかりあへる風童子 　　　　　　　　　　　村越化石


如月の雲は榛より低く凝る 　　　　　　　　　　　　　富安風生


竹林の月の奥より二月来る 　　　　　　　　　　　　　飯田龍太


如月の水にひとひら金閣寺 　　　　　　　　　　　　　川崎展宏


木曽馬の黒瞳みひらく二月かな 　　　　　　　　　　　大峯あきら


如月や子規の机のうすき傷　　　　　　　　　　　　　 山本洋子


如月の梅林といふ停留所 　　　　　　　　　　　　　　清崎敏郎