６月 １９日

　　　　　　　　　　　　　　（　　雨蛙・青蛙・枝蛙・森青蛙　　）



雨蛙が雨呼ぶ梅の青さにて　　　　　　　　　　　　細見綾子



朝の試歩杖先に来る青蛙　　　　　　　　　　　　　谷口千賀子



ぴよんと飛び保護色美しき青蛙　　　　　　　　　　神尾朴水



国府跡跳ぶ生れたて青蛙　　　　　　　　　　　　　磯田なつえ



青蛙天水桶に棲み付けり　　　　　　　　　　　　　矢野愛乃



胎教のピアノ聞きゐる青蛙　　　　　　　　　　　　中川幸子



青蛙鳴くだけ鳴いて水に浮く　　　　　　　　　　　矢崎富子



堂守の当番札に青蛙　　　　　　　　　　　　　　　野島秀子



マリヤ寺金環の眼の青蛙　　　　　　　　　　　　　山下智子



水撒けばあちこちに飛ぶ青蛙　　　　　　　　　　　山鹿綾子



墓石の文字の深きに雨蛙　　　　　　　　　　　　　中山ユキ



干し竿の穴に眠れる雨蛙　　　　　　　　　　　　　佐久間寿子



福助のやうに手をつき雨蛙　　　　　　　　　　　　内田蒼天



土にゐて土の色なる青蛙　　　　　　　　　　　　　服部鏡子



蓮の葉にまだ尾のとれぬ雨蛙　　　　　　　　　　　森　靖子



夕闇の迫る貴船や河鹿笛　　　　　　　　　　　　　山本玲子

６月 １７日

　　　　　　　　　　　　　　　（　　父の日　　）



夜勤の父待つ街裏に椎匂う　　　　　　　　　　　　沢木欣一



父の日の娘と酌み交はす赤ワイン　　　　　　　　　栗田やすし



父の日の何事もなく終はりけり　　　　　　　　　　江口ひろし



父の日や軍服の父若かりし　　　　　　　　　　　　安藤幸子



父の日や回転寿司の皿重ね　　　　　　　　　　　　山本光江



父の日も父は始発で魚買ひに　　　　　　　　　　　横森今日子



父の日に娘好みのシャツ届く　　　　　　　　　　　森垣一成



父の日や嫁ぎ来る子に貰ふ酒　　　　　　　　　　　武藤光晴



父の日や飴噛んで子に叱らるる　　　　　　　　　　丹羽康碩



父の日や昭和一桁集ひ酌む　　　　　　　　　　　　山下帰一



父の日や寝椅子に夫のコンサイス　　　　　　　　　内田陽子



父の日や少し派手目のシャツ選ぶ　　　　　　　　　鈴木信子



父の日にごろ寝枕の届きけり　　　　　　　　　　　矢野愛乃

６月 １５日

　　　　　　　　　　　　　　（　　睡蓮・未草（ひつじぐさ）　）



石臼に今朝一輪のひつじぐさ　　　　　　　　　　　栗田やすし



すいれんの池にひき鳴き雨誘ふ　　　　　　　　　　細見綾子



睡蓮の瞳に狂院の石畳　　　　　　　　　　　　　　沢木欣一



土砂降りや蕾の固きひつじ草　　　　　　　　　　　中山敏彦



睡蓮の池針ほどの稚魚の群　　　　　　　　　　　　夏目悦江



睡蓮の花つつき合ふ鯉の稚魚　　　　　　　　　　　吉岡やす子



睡蓮の鉢に笹舟浮かしけり　　　　　　　　　　　　長崎真由美



姑祝ふ鯉のはねたり未草　　　　　　　　　　　　　金原峰子



睡蓮やモネの館に写楽の絵　　　　　　　　　　　　堀内恵美子



弁天池浚ふ睡蓮片寄せて　　　　　　　　　　　　　奥山ひろみ


　
大甕に睡蓮咲かせ蛇笏の居　　　　　　　　　　　　中村たか



睡蓮の花閉ぢてより夕長し　　　　　　　　　　　　上杉美保子



絞り屋の庭睡蓮の開き初む　　　　　　　　　　　　日野圭子



こまやかな雨の水輪や羊草　　　　　　　　　　　　近藤文子



純白の睡蓮咲けり休耕田　　　　　　　　　　　　　山口秀子



睡蓮の花掻き分けて鯉進む　　　　　　　　　　　　滝沢昇二

６月 １４日

　　　　　　　　　　　　　　　　（　　蝸牛・でで虫・でんでん虫　　）



妻の疲れ蝸牛はみな葉の裏に 　　　　　　　　　　　沢木欣一



かたつむり婚十年の二階住み　　　　　　　　　　　栗田やすし



医務室の曇りガラスに蝸牛　　　　　　　　　　　　河原地英武



山頭火句碑に角出すかたつむり　　　　　　　　　　下里美恵子



かたつむり一揆の塚を這ひ上る　　　　　　　　　　国枝洋子



肉伸ばしきりて雨中の蝸牛　　　　　　　　　　　　櫻井幹郎



身を屈め児が捕まへるかたつむり　　　　　　　　　藤吉　博



蝸牛ころりと落つる晴れつづき　　　　　　　　　　小原米子



師の句碑にすがれり小さき蝸牛　　　　　　　　　　桜井節子



でで虫の背伸びしてゐる小糠雨　　　　　　　　　　八尋樹炎



でで虫が角出す秋篠窯の木戸　　　　　　　　　　　小島千鶴



かたつむり新聞受に首伸ばす　　　　　　　　　　　関根近子



かたつむり天の岩戸を這ひ上る　　　　　　　　　　武田稜子



かたつむり甲斐も信濃も雨の中 　　　　　　　　　飯田龍太



でで虫や石積むだけの祝女の墓 　　　　　　　　　玉城一香

６月 １３日

　　　　　　　　　　　　　　（　　風鈴・鉄風鈴・硝子風鈴・風鈴売・風鈴市　　）



母恋へば軒の風鈴一つ鳴る　　　　　　　　　　　　栗田やすし



風鈴があればかなしき時あらん　　　　　　　　　　細見綾子



風鈴やひそと過ぎたる夜の風　　　　　　　　　　　梅田　葵



鍛冶町に音色たがへし軒風鈴　　　　　　　　　　　鈴木みすず



風鈴の下のびきつて仔犬寝る　　　　　　　　　　　栗田せつ子



風鈴や茅の匂ひの合掌家　　　　　　　　　　　　　谷口悦子



今年また陶の風鈴軒に吊る　　　　　　　　　　　　大平敏子



風鈴となる灼熱のガラス玉　　　　　　　　　　　　篠田法子



ふいに鳴るしまひ忘れし江戸風鈴　　　　　　　　　菊池佳子



妻逝きて風鈴の舌取れしまま　　　　　　　　　　　田畑　龍



短冊は伊勢型紙や江戸風鈴　　　　　　　　　　　　笹邉基子



プレハブの飯場の軒に貝風鈴　　　　　　　　　　　渋谷さと江



父逝きて空きし父の座軒風鈴　　　　　　　　　　　市原美幸



みちのくの風鈴居間に馴染みたり　　　　　　　　　神尾朴水

６月 １２日

　　　　　　　　　　　　　　　　（　　葵・立葵・銭葵・這葵・花葵　　）



峡深し墓をいろどる立葵　　　　　　　　　　　　　沢木欣一



ばたゝと田植すみけり立ち葵　　　　　　　　　　　細見綾子



野鍛冶屋の煤け看板銭葵　　　　　　　　　　　　　足立サキ子



立葵下校の鐘の響きけり　　　　　　　　　　　　　花村登美子



家訓記す大福帳や銭葵　　　　　　　　　　　　　　市江律子



猫歩く落第横町立葵　　　　　　　　　　　　　　　斉藤眞人



立葵下校の子等のよく笑ふ　　　　　　　　　　　　佐藤博子



立葵すつくと伸びし城の址　　　　　　　　　　　　多々良和世



伸子張る染師の庭の立葵　　　　　　　　　　　　　近藤文子



立葵揺れて静かな島の路地　　　　　　　　　　　　日野圭子



立葵染屋に古りし糸秤　　　　　　　　　　　　　　武田稜子



立葵子等が背くらべして通る　　　　　　　　　　　こころ



　　　　　　　　　　

６月 １１日

　　　　　　　　　　　　　　　　（　　月見草・待宵草・大待宵草　　）



月見草茎震はせて花ひらく　　　　　　　　　　　　栗田やすし



月見草湾を距てて山灯る 　　　　　　　　　　　　　中村草田男



色深し波荒き日の月見草　　　　　　　　　　　　　下里美恵子



夜泣きの子あやす声あり月見草　　　　　　　　　　榊原昌子



潮満つる自決の浜や月見草　　　　　　　　　　　　澤田正子



むらさきによぢれて朝の月見草　　　　　　　　　　今泉久子



月見草川原の石に陽の温み　　　　　　　　　　　　小長哲郎



被災地の風にそよげり月見草　　　　　　　　　　　渡辺かずゑ



月見草足裏に痛き川原石　　　　　　　　　　　　　菊山静枝



月見草白き一輪夕暮るる　　　　　　　　　　　　　今泉久子



月見草大きく月へひらきけり　　　　　　　　　　　米元ひとみ



閉ざされし灯台囲む月見草　　　　　　　　　　　　大石久雄



月見草ふるさとの川細りたる　　　　　　　　　　　中山ユキ



月見草霧の中より波つぶて 　　　　　　　　　　　　今瀬剛一



汽車煙熱きがかかる月見草 　　　　　　　　　　　　鷹羽狩行



　　　　　　　　　　

６月 １０日

　　　　　　　　　　　　（　　　萱草（かんぞう）の花・忘草・野萱草・藪萱草　　）



萱草が御裳の裾の花と咲く　　　　　　　　　　　　細見綾子



御前崎浜萱草の濃かりけり　　　　　　　　　　　　中村たか



野萱草（かんぞう）ポトマス河畔うめつくす　　　　河村恵光



湿原に朽ちし木道野萱草　　　　　　　　　　　　　高橋ミツエ



野萱草明し観音像の裾　　　　　　　　　　　　　　巽　恵津子



蝦夷萱草岬に海人の墓二つ　　　　　　　　　　　　山本悦子



氷室跡藪萱草の野となれり　　　　　　　　　　　　上田博子



萱草や林はづれに牧師館 　　　　　　　　　　　　友岡子郷



狐啼く神威岬の花萱草 　　　　　　　　　　　　　井村和子



野に咲いて忘草とはかなしき名 　　　　　　　　　下村梅子



萱草に立つ浪音や桂浜 　　　　　　　　　　　　　高木晴子



萱草の夕花明り熊野川　　　　　　　　　　　　　 森 澄雄



　　　　　　　　　　



　　　　　　　　　　藪萱草

６月 ８日

　　　　　　　　　　　　　　（　　花茨・花うばら・野ばらの花・茨の花　　）

青山河茨の花を折り持てば　　　　　　　　　　　　細見綾子



花茨散らし鷲翔つ明日香川　　　　　　　　　　　　清水弓月



花うばら児への片仮名軍事便　　　　　　　　　　　矢野孝子



水見色の瀬音ゆかしき花茨　　　　　　　　　　　　矢野愛乃



湯の町を分つ渓流花うばら　　　　　　　　　　　　小原米子



見はるかす津波禍の土手花茨　　　　　　　　　　　国枝洋子



とうさんとつぶやいてみる花うばら　　　　　　　　幸村志保美



花茨軍艦島の闇深し　　　　　　　　　　　　　　　玉井美智子



湖見ゆる姫街道やうばら咲く　　　　　　　　　　　掛布光子



大鼠横切る疾さや花茨　　　　　　　　　　　　　　水野時子



野茨の花が枝張る舟着場　　　　　　　　　　　　　伊藤範子



寝釈迦への近みち細し花茨　　　　　　　　　　　　森田とみ

６月 ７日

　　　　　　　　　　　　　　　　　（　　梔子の花・花山梔子　　）



くちなしの花がかぶさる墓参り　　　　　　　　　　細見綾子



梔子の花や帯屋の長暖簾　　　　　　　　　　　　　河原地英武



くちなしの黄ばみし花や甃の上　　　　　　　　　　清水弓月



くちなしの香りほのかや小町塚　　　　　　　　　　服部鏡子



くちなしや一人暮しの勝手口　　　　　　　　　　　鈴木真理子



夜の公園梔子の香の濃いかりけり　　　　　　　　　山下　護



くちなしの匂ふ夕べや雨近し　　　　　　　　　　　加藤雅子



厨窓花くちなしの匂ひ立つ　　　　　　　　　　　　榊原昌子



梔子の香によみがへる母の顔　　　　　　　　　　　牧田　章



月光に浮きて梔子匂ひ濃し　　　　　　　　　　　　金田義子



梔子の渦にとどまる昨夜の雨　　　　　　　　　　　伊藤範子



雨後の庭山梔子の白匂ひ立つ　　　　　　　　　　　中山ユキ



くちなしの花の真白や兵の墓　　　　　　　　　　　奥山ひろみ



朝刊を手にくちなしの香に寄れり　　　　　　　　　石原進子