今夜観に行った舞台は、新国立劇場の『わが町』だった。
昨年夏に3タイトルのセット券を購入した、その最後の作品だ。
正直なことを言えば、出演者に対する思い入れがない分、最も期待値が低い作品だった。
3幕から構成される舞台で、1幕が始まった時は、ほとんど何もない舞台などに戸惑っていた。この作品に関する予備知識を全く持っていなかったからこうした気持ちを持ったのだろう。
その後、2幕の終盤を迎えるころからどんどんと心が掴まれ、結婚式のシーンでは実際の結婚式に立ち会っているような感覚に陥り、涙が溢れてきた。
ここで20分の幕間休憩が入り、いつものようにアルコールを口にした。劇場内が少し暑かったこともあり、ビールを選んだ。アメリカの片田舎の町が舞台ということで、銘柄がバドワイザーだというこだわりも、ビールを選んだ理由である。
さて、3幕は墓地の設定で、そこで描かれた世界、そして最後に浮かぶ星空に、涙が止まらなくなってしまった。若いカップルを演じた中村倫也さん、佃井皆美さんの目にも涙が浮かんでいた。それくらい、本気が伝わってくるエンディングに、観客の拍手が鳴りやまなかった。
劇場を出ると、この作品の演出を手掛けられた、劇場の演劇部門芸術監督である宮田慶子さんがお客さんを見送っていた。この作品を楽しんだ人たちの顔をじかに見たいという気持ちもあったのだろうか。僕もそうだが、満足顔の割合は高かっただろう。
劇場の外に出て、エントランス脇のイルミネーションを眺めながら、舞台の上の星空を再び思い出し、余韻に浸っていたいと思ったのだが、外を歩いて店を探す気にまではならず、家に向かった。
今夜の月も美しく、舞台を観て心洗われた僕に優しく微笑んでくれているように感じた。
さて、来月の『焼肉ドラゴン』の再演もチケットを確保し、その次の『ゴドーを待ちながら』も楽しみだ。さらに、『鳥瞰図』、『雨』、『おどくみ』と、興味をそそる作品が続く。そして、この3作品はセット券が販売される。このセット券を手に入れたい。そして、できれば誰かと観に行ってみたいと思うが、泣き顔を観られるのは…