今日、外国為替市場で英国ポンドは円に対し125円台となり、市場最安値を記録した。英国の大手銀行であるロイヤル・バンク・オブ・スコットランドが過去最大の赤字になる見通しとなり、英国が金融危機に陥る懸念がにわかに高まったことが背景にあるとの報道があった。
これまでポンドで給料を受け取っており、今月分は日本で働いているのにポンドで支給された。ポンドはロンドン着任当時の半値近く、つまり円換算の私の給料も半値になっているのである。今のご時世では給料を頂けるだけでもありがたいということはわかっているつもりなのだが、こうしたことも私のロンドンに対する印象を悪いものにしていることは否定できない。
外国為替相場というのは実体があるようでいて無い。もちろん、貿易の決済や投資に絡む金銭の遣り取りのような実需はある。しかし、市場で取引されている資金の殆どは投機資金といわれている。
外国為替相場のあるべき水準を語るもののひとつに購買力平価というものがある。これは、仮に世界中の誰もが同じ生活を営んでいるとして、その生計費を比較する場合の通貨の交換レートである。たとえば、世界の誰もが同じような家に住み、同じようなものを着て、同じようなものを食べているとする。その場合に、日本では1日に1万円かかり、米国では100ドルかかるとする。これは1万円と100ドルが生計費という尺度で見た場合に等価であるということだ。10,000円=100ドル、つまり100円=1ドルだ。
理屈はわかるが、生計費の一つ一つの費目を計算するのはたいへんなことである。そこで、この概念をもっとコンパクトに表現したものが現れた。英国の経済誌「The Economist」が毎年夏に発表しているBig Mac Indexである。
マクドナルドのハンバーガーはバンズもパテも野菜類もすべて規格化され、世界中どこの店舗でも同じ商品を供給していることになっている。そこで、世界中のマクドナルドで販売されているビックマックの値段を基に外国為替相場を表現したのがBig Mac Indexである。同誌の昨年7月24日号によると日本でのビックマックの価格は280円、英国では2.29ポンドだ。つまり、1ポンド=122.27円である。当時の実際のレートは210円前後で上下していたので、ビックマックを基準にした水準からはポンドが対円で過大に評価されていたということになる。ちなみに、米国でのビックマック価格は3.57ドルで、これに基づけば1ドル=78.43円である。
ハンバーガーの価値というのは文化によって異なる。毎日ハンバーガーを食べても全く平気という人が多く暮らす国もあるだろうし、あんなものは見るのも嫌だという人が多く暮らす国もあるだろう。ビックマックの280円が適正価格だと思う日本人の割合と、2.29ポンドが適正だと考える英国人の割合は、おそらく同じではないのである。購買力平価というのは、そうした価値観の価値までは反映されていない。あくまでも数多くある尺度のひとつでしかない。
しかし、いざ現実の為替レートがBig Mac Indexとほぼ同水準になってみると、妙に納得してしまったりする。巨額の富を抱えていれば話は別だが、私のような貧乏人にとっては、相場というのは与件であり、自分の努力でどうこうなるものではない。ポンドを円に換えてもらうのに、1ポンド200円ですといわれれば、はぁそうですかといって両替してもらい、120円ですといわれれば、はぁそうですかといって両替してもらうしかない。なにもこんなことは相場に限ったことではなく、生活のなかにはいくらでもあることだ。
人の生活のなかには自分で決めることができることとできないことがある。現実のなかでは、決めることができるのに、ろくに考えもせずに習慣に従ってしまっていることが多く、自分ではどうすることもできないのに、あくせくと無駄な努力を重ねていることが多いのではないだろうか。自分で決めるべきことは自分で考えて決め、そうでないものは潔くあきらめる。そういう真っ当なことの割合を自分のなかで少し増やしてみたら、それだけでもっと気持ちよく生活できるようになる気がする。
そう思いながらも、手持ちのポンドを見れば、あの時に円に換えておけばと後悔の念が頭をもたげるのも生活の中の現実だ。
これまでポンドで給料を受け取っており、今月分は日本で働いているのにポンドで支給された。ポンドはロンドン着任当時の半値近く、つまり円換算の私の給料も半値になっているのである。今のご時世では給料を頂けるだけでもありがたいということはわかっているつもりなのだが、こうしたことも私のロンドンに対する印象を悪いものにしていることは否定できない。
外国為替相場というのは実体があるようでいて無い。もちろん、貿易の決済や投資に絡む金銭の遣り取りのような実需はある。しかし、市場で取引されている資金の殆どは投機資金といわれている。
外国為替相場のあるべき水準を語るもののひとつに購買力平価というものがある。これは、仮に世界中の誰もが同じ生活を営んでいるとして、その生計費を比較する場合の通貨の交換レートである。たとえば、世界の誰もが同じような家に住み、同じようなものを着て、同じようなものを食べているとする。その場合に、日本では1日に1万円かかり、米国では100ドルかかるとする。これは1万円と100ドルが生計費という尺度で見た場合に等価であるということだ。10,000円=100ドル、つまり100円=1ドルだ。
理屈はわかるが、生計費の一つ一つの費目を計算するのはたいへんなことである。そこで、この概念をもっとコンパクトに表現したものが現れた。英国の経済誌「The Economist」が毎年夏に発表しているBig Mac Indexである。
マクドナルドのハンバーガーはバンズもパテも野菜類もすべて規格化され、世界中どこの店舗でも同じ商品を供給していることになっている。そこで、世界中のマクドナルドで販売されているビックマックの値段を基に外国為替相場を表現したのがBig Mac Indexである。同誌の昨年7月24日号によると日本でのビックマックの価格は280円、英国では2.29ポンドだ。つまり、1ポンド=122.27円である。当時の実際のレートは210円前後で上下していたので、ビックマックを基準にした水準からはポンドが対円で過大に評価されていたということになる。ちなみに、米国でのビックマック価格は3.57ドルで、これに基づけば1ドル=78.43円である。
ハンバーガーの価値というのは文化によって異なる。毎日ハンバーガーを食べても全く平気という人が多く暮らす国もあるだろうし、あんなものは見るのも嫌だという人が多く暮らす国もあるだろう。ビックマックの280円が適正価格だと思う日本人の割合と、2.29ポンドが適正だと考える英国人の割合は、おそらく同じではないのである。購買力平価というのは、そうした価値観の価値までは反映されていない。あくまでも数多くある尺度のひとつでしかない。
しかし、いざ現実の為替レートがBig Mac Indexとほぼ同水準になってみると、妙に納得してしまったりする。巨額の富を抱えていれば話は別だが、私のような貧乏人にとっては、相場というのは与件であり、自分の努力でどうこうなるものではない。ポンドを円に換えてもらうのに、1ポンド200円ですといわれれば、はぁそうですかといって両替してもらい、120円ですといわれれば、はぁそうですかといって両替してもらうしかない。なにもこんなことは相場に限ったことではなく、生活のなかにはいくらでもあることだ。
人の生活のなかには自分で決めることができることとできないことがある。現実のなかでは、決めることができるのに、ろくに考えもせずに習慣に従ってしまっていることが多く、自分ではどうすることもできないのに、あくせくと無駄な努力を重ねていることが多いのではないだろうか。自分で決めるべきことは自分で考えて決め、そうでないものは潔くあきらめる。そういう真っ当なことの割合を自分のなかで少し増やしてみたら、それだけでもっと気持ちよく生活できるようになる気がする。
そう思いながらも、手持ちのポンドを見れば、あの時に円に換えておけばと後悔の念が頭をもたげるのも生活の中の現実だ。