哀しいこと、耐えられないような苦しみは、
歳月によっていつの間にか浄化されている。
今、それにようやく気づいた、
死は浄化の領域に入ることだと。(10頁)
人間はすべて白のままでは生きられない。(17頁)
年老いて繊細な感覚がにぶってはなるまい。
知性が衰えてはなるまい。
燃えるのはいい、
心を熱くして生きなくて何の老があろう。(24-25頁)
こちらの心が澄んで、植物の命と、自分の命が合わさったとき、
ほんの少し、扉があくのではないかと思います。
こちらにその用意がなく、植物の色を染めようとしても、扉は
かたく閉ざされたままでしょう。(44-45頁)
一つの線を引く。生きる上でそれをしなくてはならない時がある。(63頁)
線のむこうに去ってゆくいとしいものがあっても、それをしなくては、
新しい色はやってこない。(65頁)
歳月というもののふしぎさ、受けた傷のいかに深くとも、
そのあとに生きた生命の放射のはげしさにくらべては、
見事に癒されているものだと知る。(119頁)
そこに在るものと、在るべきものとの間には深淵がある。(123頁)
本当に見たいということは、見えないから見たいのだ。(124頁)
「心慕手追」という言葉があるという。
もし手が追ってこなければどうなるか、といえば、
その願いごとが、「強固していない」または「熟していない」「低い(次元が)」
ということになるのだそうだ。(134頁)
私は年をかさねるごとに全く新しい断面を『源氏物語』に発見する。(165頁)
白のままでは生きられない―志村ふくみの言葉 (生きる言葉シリーズ) | |
志村 ふくみ | |
求龍堂 |