このブログを遡って読んでいただければわかるように、かなり頻繁に美術館や博物館を訪れる。そういうものを眺めるのが好きなのである。しかし、自分で書画骨董の類は一切所有していなかった。まかりまちがって自分の手に届くもので適当なものはないかとアートフェアのようなものに足を運んだこともあったのだが、ついぞ縁に恵まれることなく今日に至ってしまった。
先日、なにか調べもののついでに朝日新聞のサイトでこの作品を知った。そこにあった動画の収録場所がアダチ版画研究所だったので、そのサイトを見たらこの作品が売りに出ていた。最初の30点は割引価格ということでもあったので、思い切って予約をしてみた。今日実物と対面して、思い切ってよかったとしみじみ思っている。なにがどういいというような個別具体的なことではなしに、色にも線にも彫った人や摺った人や描いた人の息づかいが響き合っているように感じられるのがよい。そういうものが生活空間のなかに在ることで、空気の流れのようなものがそれまでとは違って感じられる。そういう変化が素朴に楽しい。ついでながら、自分が手にしたもののエディションナンバーも好きな数字だったので、宝くじに当たったような嬉しさもある。
その昔、江戸では庶民でも部屋に浮世絵を飾って楽しんでいたという。長屋の暮らし向きは落語や博物館の展示でわかるように、決して余裕のあるものではない。それでも壁や柱に場所を見つけて絵を楽しんでいた人も少なくないらしい。部屋が狭いとか場所が無いというのは、そういうものを飾らない理由にはならないのである。本当に好きならば、思い切るものなのだ。
今回、思い切る後押しをしたのは記事のなかの動画で原画の作者である山口晃が口にした一言だった。それが今日のブログの表題だ。