万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

商船三井事件―”民間賠償請求権”を創設しようとする中国

2014年04月26日 15時41分45秒 | アジア
供託金支払い「特異事例」=菅官房長官(時事通信) - goo ニュース
 商船三井が中国の上海海事法院に差し押さえられていた船舶に対して供託金を支払った件に関して、菅官房長官は、特異な例となるのではないかとする見解を表明しております。仮に特異な事例であるとすれば、当訴訟が、民間船舶の賃貸料の未払いを理由として、中国の民法における時効成立以前に提訴されたことを挙げることができます。

 このことは、今後、中国が、この一件を突破口として新たに同様の訴訟を起こそうとしても、既に時効成立期間を経過しているので、債権は時効消滅したと判断されることを意味しています。中国外務省は「戦争の賠償問題とは無関係」と述べたのを受けて、菅官房長官が、”今後は、時効等で処理してほしい”と述べたのは、この点を期待してのことでしょう(もっとも、戦争で船舶は滅失しているので、その実態は、戦争賠償…)。しかしながら、その一方で、中国共産党機関紙の環球時報は、25日付の社説で「対日民間賠償での重大な勝利」と報じており、”特異な事例”で留まるのか、不透明感が漂うようになりました。

 因みに、サンフランシスコ講和条約では(中華民国も中華人民共和国も不参加…)、請求権について(1)戦争賠償(日本国が戦争中に連合国に与えた損害および苦痛に対する賠償)、(2)連合国財産の返還(日本国内にあるもの)、(3)戦前からの債務、(4)戦争請求権(連合国が日本国に与えた損害に対する賠償請求権)…に分けて扱っています。この区分に従うならば、戦争賠償は、日中共同声明で中国側が放棄しており、国際法上、戦争賠償には、個人の請求権は存在していません。また、賃貸料の未払いは戦前からの債務として扱われますので、ここでも原告側は、時効の壁にぶつかります。それでは戦争請求権は?となりますと、これは、連合国側が日本国に与えた被害に対する請求権です。サンフランシスコ講和条約では放棄している戦争請求権を、日中共同声明において日本国は、官民ともに放棄したはと明言していないのです(中国の横暴に対する日本国の対抗策にはなりり得る…)。

 以上に述べたように、国際法の常識に従えば、戦争賠償、財産返還、戦前からの債務、並びに戦争請求の何れにおいても、中国側には、日本企業に対する正当な請求権はありません。そこで、”民間賠償”なる新たな請求権を創設し、日本企業の資産の差し押さえによって強制的に賠償金を取り立てようとしたのでしょう。新たな権利が、突然に国際社会に登場するとなりますと、国際社会の混乱は必至です。日本国政府は、ICJへの提訴も視野に入れているとも報じらていますが(中国が共同提訴に応じない可能性は高い…)、中国が創設を試みている”民間賠償請求権”なるものは、日本国のみならず、他の諸国間においても、解決済みの請求権問題を蒸し返すことになると思うのです。

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コメント (2)
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