万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカの移民規制は中国を利すのか?

2018年03月04日 15時45分47秒 | 国際政治
 移民規制の強化を訴えてきたトランプ大統領の誕生は、全世界から人材を集めて成長してきたシリコンバレーにも衝撃を与え、情報・通信企業の幹部は、口を揃えて懸念を表明しました。最近では、AI分野における中国の急成長と相まって、アメリカの移民規制は同産業分野における中国による追い抜きを許すとする批判も見受けられます。

 しかしながら、移民規制の強化によって、アメリカは、今後、AIや情報・通信分野において中国に首位の座を明け渡すのでしょうか。人材確保の側面を見ますと、海外からの高度人材の獲得機会が減少するのですから、アメリカの次世代のテクノロジー開発に凌ぎを削る企業にとりましては頭の痛いお話なのでしょう。しかしながら、技術流出の面に注目しますと、必ずしも、アメリカ産業にマイナス影響を与えるとは限らないようにも思えます。

 中国が、今日、AIや情報・通信等の先端分野においてもトップランナーを狙う位置につけた要因の一つは、アメリカからの技術移転です。改革開放路線を選択して以来、中国は、アメリカをはじめとした先進国からの技術獲得に積極的に取り組んできました。正式な契約によるもの以外にも、産業スパイや知的財産権の侵害事件等が多発し、国際問題化しましたが、アメリカとの人的交流から技術が流出するケースも少なくはありません。アメリカの大学や研究機関、さらには、企業の開発部門でも、相当数の中国人留学生や研究者が在籍していますし、近年では、中国企業がこれらの高度人材に対して積極的なヘッドハンティングにも乗り出しています。人を介した技術流出は侮れず、アメリカの従来の寛容で開放的な移民政策は、同時にアメリカの技術的対中優位と国際競争力を削いできたとも言えます。

 移民推進派の人々は、兎角に流入面におけるメリットのみに注目し、経済に与えるプラス効用を説いていますが、現実には、流出面におけるデメリットも少なくありません。否、長期的には、流出面におけるマイナス効果の方がプラス効果を打ち消す、あるいは、上回る場合もあるのです。国境を開放すれば、当然に、流入するものもあれば、流出するものもあるのですから。中国は、今のところ、トランプ政権の移民規制対象国には含まれておらず、あるいは、従来通り、アメリカの技術が中国に吸収される状態が今後とも続くかもしれません。しかしながら、アメリカのみならず、中国が先端技術を軍事や国民統制に注ぎ込んでいる現実を直視すれば、移民規制の強化が自国を衰退に導くとは言えないように思えるのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへにほんブログ村

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする