中国外交部の耿爽報道官は、定例記者会見で新型コロナウイルスは米軍が武漢にもたらしたものだという見方もある」との見解を示したと報じられています。この発言、アメリカのポンペオ国務長官による中国批判に反発してツイートした、同外交部趙立堅副報道局長の主張を下敷きにしております。いよいよ中国は本格的に新型コロナウイルス禍の責任をアメリカに押し付け始めたのですが、米軍起源説は矛盾に満ちています。
中国の描く理想的なシナリオとは、手段を択ばずに自国内での感染を凡そ終息させた後(もちろん、表向きですが…)、WHOにパンデミックを宣言させ、その責任をアメリカに転嫁するというものなのでしょう。全世界的に感染者が増加すれば、中国としては、医療チームの派遣や不足がちの医薬品を提供することで‘救済者’の立場に自らを置くことができますし、既に膨大な数の感染者データを収集していますので、他国に先駆けて一早く治療薬やワクチンなどを開発すれば、中国系製薬会社が一気に世界市場のシェアを占めるチャンスとなるかもしれません。このシナリオを実現するためにこそ、他国からの糾弾や対中感情の悪化を回避し得る責任転嫁が必要なのです。
そこで、同ウイルスの感染が武漢から広がったことは誰もが否定し得ない事実ですので、‘感染地’と‘出生地’を分けるという詭弁を思いついたのでしょう。同ウイルスの感染拡大は武漢から始まるものの、それがこの世に出現した場所は武漢ではない、と主張すれば、もはや中国は責任を問われることはない、と考えたのかもしれません。趙立堅副報道局長に先立って、2月末ごろから中国共産党幹部から同様の声が聞こえてきており、既にその兆候は見られました。かくして中国政府の至上命題は武漢と同ウイルスとの分離に定められ、米軍起源説もその一環として理解されます。
それでは、米軍起源説には信憑性があるのでしょうか。同説の背景となるのは、おそらく、10月18日に武漢で開催された軍事オリンピック(世界軍人運動会)にあるものと推測されます。同オリンピックは4年に一度開催され、今般の武漢大会は中国が初めて開催国となった大会です。全世界の諸国から選りすぐりの軍人達が集まりますので、当然に、米軍チームも参加しています。中国としては、アメリカにおいてインフルエンザが流行していましたので、インフルエンザによる感染者や死亡者の中には新型コロナウイルスによるものが混じっており、同ウイルスに感染していた米軍チームの一員が持ち込んだと主張したかったのかもしれません(むしろ、逆に、軍事オリンピックにおいて、中国軍が米国軍のチームに対して、新型コロナウイルス、もしくは同ウイルスに近いインフルエンザウイルスを密かに使用、あるいは、感染させたため、帰国した米国軍人を通してアメリカにおいて感染拡大が起きた可能性もあるのでは?)。
いずれにいたしましても、中国による米国持ち込み説、自らの公式見解が虚偽であったことを認めざるを得なくなります。何故ならば、新型コロナウイルスの遺伝子を解析した結果、同ウイルスは、RaTG13、すなわち、中国の固有種である雲南菊頭コウモリに寄生するウイルスと塩基配列が96%一致しており、中国政府は、新型コロナウイルスは野生度物を宿主、あるいは、中間宿主とするものと凡そ断定してきたからです(武漢の海鮮市場において取引されている野生動物から感染…)。南北アメリカ大陸の野生動物が起源であったとする説もありましょうが、そうであれば、同大陸で最初に爆発的な感染が起きるはずです。つまり、米軍の感染者が中国原産の野生動物に起源を有するウイルスを持ち込むはずもなく、同説の主張は、結果として公式見解である野生動物起源説を自ら否定しているのです。
おそらく、新型コロナウイルスが人工ウイルスであることは凡そ確定的であるために、何としても、武漢のウイルス研究所からの流出説を打ち消したかったのでしょう(英国で製作された『刑事フォイル』という第二次世界大戦中の英国軍の内部状況を描いたTVドラマでは、細菌兵器の研究所からのウイルスの流出によって、近隣の住民が感染してしまった問題を扱っており、このようなことが絵空事ではない可能性を示唆している…)。実際に、中国で実施された民間世論調査の結果では、同説への支持が最も高いそうです。
そして、中国が米軍持ち込み説を唱えたことは、もう一つの可能性をも浮上させてきます。それは、武漢のウイルス研究所から直接に流出したのではなく、軍事オリンピックの一か月前に当たる9月18日に実施されたとされる人民解放軍による対生物兵器軍事演習との関連です。武漢封鎖に先立って中国政府は人民解放軍を投入しましたが、敢えて演習を実施した背景には、中国政府はバイオセーフティーレベル4の研究所が設置されている武漢でのウイルス流出を予測していた可能性はあります。もしくは、演習にあって‘本物のウイルス’が使用されたとは考えられませんが、何らかの‘演習用ウイルス’が人民解放軍兵士、あるいは、近隣の住民に感染した可能性もないわけではないように思えます(香港紙によれば、最初に感染者が確認されたのは11月17日…)。
その一方で、中国が米軍による外来説を唱えるならば、アメリカの研究所で保管・研究されてきた中国由来の人工ウイルス、あるいは、有毒ウイルスが武漢に持ち込まれことを主張することになります。持ち込みの経路としては、中国によるアメリカの研究機関からのウイルス盗取、もしくは、米軍が故意に散布したかの何れかとなりましょう。既にアメリカやカナダ等からの中国人研究者によるウイルス盗取が報告されていますので、後者よりも前者の可能性の方が高いのでしょう。あるいは、海外から盗み取ったウイルスをさらに強毒化すべく、高度なバイオ技術を駆使した遺伝子操作が加えられたのかもしれません。そして、仮に、後者であった場合には、事態は別次元の段階へと移行します。何故ならば、中国は、アメリカが自国に対して生物兵器を使用したと主張するに等しくなるのですから。
中国網日本語版(チャイナネット)では、「中国側は、これは科学問題であり、科学的で専門的な意見を聞く必要があると終始考えている」としていますが、科学の強調は、中国でさえもはや新型コロナウイルスの出現を自然現象とは捉えていない証左でもあります。中国によるアメリカに対する責任転嫁は、同ウイルスをめぐる様々な自己矛盾や事実を明るみにし、藪蛇となって自らに返ってくるように思えるのです。