万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

新型コロナウイルス禍を機に内需ベースのグローバリズムへ

2020年03月18日 14時08分10秒 | 国際政治

 中国武漢発の新型コロナウイルスは、ニューヨーク証券取引所でのダウ平均の大暴落を引き起こす元凶となり、中国経済の世界大での影響力を全世界に見せつけることともなりました。‘ウイルス恐慌’なる表現も登場していますが、この現象は、80年代以降に急速に進展したグローバリズムが、その名とは裏腹に実のところ‘チャイニズム’であったことを示しています。グローバリズムとは、中国の改革開放路線への転換と凡そ軌を一にしており、中国の国家戦略と安価な労働力、輸出に有利な為替相場、並びに、緩い規制を求めた企業の利益が合致した中国の‘世界の工場化’こそその実態であったのかもしれません(もちろん、その背後では、投資リターンの最大化を求める金融界も推進…)。

 経済活動を介した一つの世界規模の自由市場を目指したグローバリズムの実態が‘チャイニズム’であったとしますと、新型コロナウイルス禍によって露わとなった中国の国家体制とその本質的な欠陥は、同国が、世界経済の中心にあってはならない、あるいは、同国に依存してはならないとする認識を深めさせるきっかけとなりました。そしてそれは、トランプ政権の誕生によって既に潮流となりつつあったグローバリズム見直し論を後押しするように思えます。同路線をそのまま進みますと、全世界が一つの‘勝者総取り’の市場となり(現状ではグローバル市場には独占等を取り締まる国際競争機関は存在していない…)、人口規模に優る国の企業が圧倒的に有利となることは目に見えています。また、そもそも全世界レベルで完璧な国際分業が成立するはずもなく(日本国は中国富裕層向けの観光地か高級農水産物、森林や水資源の提供地?)、一帯一路構想の元で全世界が単一の‘中華圏’に併呑されてしまう展開も予測し得るからです。あるいは、GAFAとの世界二分割となるか、最終的には一騎打ちとなるのでしょうか。

 グローバリズムの行く先が見えてきた段階にあって、新型コロナウイルス禍によるサプライチェーンの分断や中国製品の輸入減少は、それが一時的なものであれ、一国の経済が他国に依存するリスクを現実のものとしました。しかも、今日のグローバリズムには、古典的な自由貿易とは異なり、サービスの自由移動も伴いますので、インフラを掌握した米中のプラットフォーマーによる経済・社会支配も絵空事ではなくなっています。特に情報・通信分野において基盤システムが海外企業に抑えられてしまいますと、国家の機密情報を含め、あらゆる情報が海外に筒抜けとなり、それは、自国の独立性をも危うくする政治的リスクにもなりかねないのです。

加えて、の問題は、軍事面にも当てはまります。経済的な相互依存は戦争を不可能とし、自ずと平和をもたらすとする説がありつつも、逆から見ますと、他国への経済的な依存は、相手国に自国の運命を握られることを意味します。かつて、中国の軍備は日米といった先進国の先端技術や部品輸入に頼っているため、貿易が遮断されれば戦争はできないとされていましたが、中国がこれらをおよそ内製化した今日、自由主義国の防衛兵器も中国製品なくして製造ができない状況となりますと逆の状況が発生し、中国からの攻撃の前にして敗戦は必至となりましょう。戦争遂行能力とも言える生産力が削がれるのですから。

 新型コロナウイルスの前後では人々の意識も大きく変化しており、各国の中国に対する警戒感は以前に増して強まっております。そして、グローバリズムの実態が‘チャイニズム’である点を踏まえますと、今後の国際経済システムは、まずは内需をベースにする方向に転換すべきではないかと思うのです。内需ベースとは、外需や外国企業に依存しなくとも、一先ずは国民生活が維持し得る状態を意味します。つまり、基本的には安定的な内需の土台の上に外需を乗せる二段構造となります。このためには、WTOの枠組みにおける通商ルールの大胆な転換を含めた新たな国際経済体系の構築を要します。

例えば、農産物分野、とりわけ、食糧安全保障の基礎となる主食穀物を自由化対象から外す、生活必需品など国民の生活基盤となる製品市場に対しても保護政策を認める、輸出競争力強化ではない、政府の情報管理や幼稚産業の育成を目的とした情報・通信分野での自国企業優先や政府補助を許容する、政府調達分野については海外企業を内国民待遇から外すといった方策が考えられます。加えて、競争法の分野にあっても、国内シェアの50%を超える海外企業による自国企業の株式取得や買収には制限を設けるといった方法も検討されましょう。これらの措置はほんの一部でしょうし、細かい点では調整を要するのでしょうが、政策目的としては内需ベースの基礎固めにあります。

第二次世界大戦後、自由貿易原理主義がスケール・メリットを追求するグローバリズムへと合流していった結果、今日、全世界の諸国は、経済大国と化した中国による世界支配の脅威に直面すると共に、ITによる世界の『1984年』化や『マトリックス』化のリスクに苛まれることとなりました。人類がこれらの恐怖から解放されるためには、弱肉強食を正当化しかねないグローバリズムの牙を上手に抜き、人類の多様性と親和する国民国家体系と調和させる必要があります。そして上記の保護措置は、個人レベルで言えば、‘基本的自由と権利’の保護、あるいは、独立した一個の人格の尊重に該当するのです。これまでの国際ルールは、‘ルールがないのがルール(自由化一辺倒…)’でしたが、国家としての存立基盤の維持を相互に認めることこそ、国際社会における真の意味でのルールなのではないかと思うのです。

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