万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

何れにしても‘中国の原状回復’はあり得ない理由

2020年03月23日 13時35分14秒 | 国際政治

新型コロナウイルスの起源をめぐっては、人工ウイルス説対自然発生説との対立をはじめ、様々な憶測が飛び交っています。意図的な散布とする陰謀論においても、中国共産党による少子高齢化を前にした高齢者人口の削減、感染予防を口実とした5Gを基盤とする新たな国民監視システムの導入、体制維持のための反体制の拠点潰し、アメリカ軍による生物兵器の使用、第三次世界大戦への誘導を目的とした影の国際組織による犯行などなど、諸説が入り乱れています。何れも小説や映画の世界でのお話のように聞こえるのですが、実のところ世界史の裏側が陰謀や謀略の連続であった現実に思い至りますと、人工ウイルス説も陰謀論も無碍には否定できないようにも思えます。

情報が隠蔽、あるいは、改竄されている状態にあって、真相に行き着くことは容易ではないのですが、中国国内では、人工ウイルス説が最も信憑性の高い説として支持を得ているそうです。しかも興味深いことに、中国国民の大多数が武漢のウイルス研究所による漏洩説を信じる一方で、方や中国政府は、当初の野生動物由来説から陰謀説―米軍起源説―に乗り換えており、人工ウイルス説では両者は一致しながら、政府と国民の間でその‘犯人’については見解が一致していません。この相違は、中国国民の自国政府に対する強い不信感を表しており、中国政府が自らの前言を翻しても外部者への責任転換を試みる動機の一つなのでしょう。

諸説紛々の状態でありながら今般のパンデミックにあって一つだけ言えるとすれば、それは、中国が新型コロナ以前の状態に戻ることは極めて難しいということです。習政権としては早期に事態を収拾し、中国経済を再び高度先端技術主導の成長軌道に戻したいと考えているはずです。早くも今月3日には生産再開を指令しており、未だ封鎖状態が続いていた武漢でもようやく移動制限が緩和されたと報じられています。ネットチェック・システムによる外出許可を要するものの、武漢市民も職場に戻る運びとなり、正常化への一歩を踏み出そうとしているのです。

しかしながら、中国政府が発表する武漢での新規感染者ゼロの数字には内外から疑問が呈されており、統計上はゼロにカウントする‘感染者隠し’が指摘されています。また、陽性と判定されながら症状の出ていない人も感染者数には数えられておらず、潜伏期や無症状による感染も報告されています。加えて、回復した感染の中には症状が再発した人もおりますので、生涯にわたり体内にウイルスが残存する潜伏型である可能性も否定はできません。この状態で経済活動を全面的に再開すれば、再度、各地で感染の拡大が起きることは目に見えています。たとえ中国政府が‘安全’を宣言したとしても、中国に製造拠点等を有する海外企業が中国での生産体制の維持に不安を抱くのは当然の反応です。

また、発生当初、中国政府が主張し、かつ、日本国内では‘公式見解’と見なされている野生動物由来説が事実であったとしても、中国に対する見方はプレ・コロナとポスト・コロナとでは違ってきます。2003年のSARSも、中国の広東省に始まっています。また歴史を遡れば、14世紀におけるヨーロッパにおけるペスト禍はモンゴルの世界帝国建設と無縁ではなく(中国大陸で発生していたペスト患者を、いわゆる“生物化学兵器”としてモンゴル軍がヨーロッパにて使用)、1918年に始まるスペイン風邪の大流行についても、中国北部起源説も唱えられています。つまり、中国は、過去における‘グローバル化’の過程にあっても世界的なパンデミックを引き起こしてきた疫病の発生地であり、感染症のリスクが飛びぬけて高い土地柄なのです。しかも、SARS禍から新型コロナウイルス禍の発生までの期間はわずか18年しか経過していません。中国系の科学者が主張するように自然界における遺伝子の突然変異によってかくも短期間にウイルスが強毒化するならば、今後、こうした事態は何度となく繰り返されることでしょう(人工ウイルスであればなおさらのこと…)。

真実が如何なるものであれ、新型コロナウイルスのパンデミック化は、中国という国のカントリー・リスクを格段に高める結果となりました。命に関わるほどの高いカントリー・リスクは、中国に進出した企業が同国からの脱出を図ろうとする合理的な理由となりますので、これらの企業にとりましては、サプライチェーンの再編や国内回帰への、重大な転換点となるものと予測されるのです。しかも、中国の過度な生産設備への投資や巨大IT企業の育成が全世界レベルで値崩れや供給過剰、さらには、軍事面や政治面での脅威をもたらした点を考慮しますと、14億の市場も海外企業にとりましては期待薄です(海外企業は技術だけ吸収されて‘使い捨て’にされてしまうかもしれない…)。新型コロナウイルス禍がグローバリズム修正の転機となるならば、米国同様に日本国政府も、中国脱出路線を政策の基本方針に据えるべきではないかと思うのです。


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