万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国は‘転んでもただでは起きぬ国’―‘マスク戦略’の罠

2020年03月26日 13時26分25秒 | 国際政治

 中国という国は、‘転んでもただでは起きぬ国’のようです。一時は瀕死の状態に陥った中国経済も、今では封鎖措置が徐々に解かれ、稼働停止状態にあった工場での生産再開も報じられています。習近平国家主席は、国内にあっては落ち込んだ経済を回復基調に乗せようと急ぐ一方で、対外的には責任追及から逃れるべく反転攻勢に転じたと指摘されているのです。

 同戦略を遂行するに当たり、中国は硬軟入り混ぜた手法、即ち、‘アメとムチ’を使い分けているようです。‘ムチ’としては、国際社会において新型コロナウイルス米軍起源説を積極的に流布して情報を操作しつつ、トランプ大統領等による‘武漢ウイルス’や‘中国ウイルス’の発言に噛みついて激しい批判の言葉を浴びせるなど、‘逆切れ戦法’で臨んでいます。その一方で、反転攻勢戦略の‘アメ’、即ちソフト路線を担っているのが、‘マスク戦略’、あるいは、‘医療品’のようなのです(‘マスク外交’よりレベルアップ…)。それでは、‘マスク戦略’のからくりとは、どのようなものなのでしょうか。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって中国国内での生産活動が停止していた時期にあっても、マスクを含む医薬品等の生産のみは継続していたはずです。この時期、中国は、輸出向けに生産していたマスクを国内向けに切り替えており、実際に、中国政府当局はマスクの輸出規制を実施しています。本日の日経新聞によると、2月上旬には中国メーカーに生産委託していた医療用マスク企画・販売会社の仕入れもストップしたそうです。14億の人口規模を考慮しますと、中国政府の内需優先の措置も理解に難くはありません。

 日本国内のマスク市場を見ますと、コロナ以前にあって市場の7割が中国製品で占められており(輸品入は全体の凡そ8割…)、国内生産分も原料となる不織布の2割は中国からの輸入に頼っていました。中国依存度がとりわけ高い市場であり、中国からの輸入停止が即国内の品薄に直結したことは疑い得ません。その後、3月上旬には上述した日本の医療用マスク企画・販売会社に対する中国からの出荷が再開されましたが、仕入れ量はコロナ以前の20分の1の水準に留まっているそうです。かくして今日に至るまで、日本国内ではマスク不足の状態が続くこととなるのです。

 中国政府の公式発表によれば、既に中国では新型コロナウイルス禍は一先ずは終息しており、マスク需要も減少傾向にあるはずです。中国政府が輸出規制を緩和させたのも、国内状況の変化による判断なのでしょう。こうした中、新聞やネット記事において目につくのが中国の地方自治体や大手企業等によるマスクの日本国を含めた諸国に対する寄贈です。このことは、既に中国では、他国に寄付できるほどのマスクの供給量に余剰が生じていることを意味しています。そしてこのことは、それでは何故、輸出量が回復しないのか、という疑問を生むこととなるのです。

 報道によりますと、スペインは、中国との間に総計520億円にも上るマスクや人工呼吸器等の医療器具を購入する契約を結んだそうです(内訳は、マスク5億5千万枚、人工呼吸器950台、550万回分の迅速なウイルス検査キット、手袋1100万枚…)。また、中国国内での生産過剰を背景に、ステラのイーロン・マスク氏も中国製人工呼吸器のアメリカの医療機関への寄贈を表明したとも伝わります(同氏は、かつて「テスラの本社は将来中国に置かれ、将来のCEOも中国人になる」と述べたとも…)。

 こうした矛盾した現象を読み解きますと、中国の‘マスク戦略’、あるいは、‘医療品戦略’が浮かび上がってきます。それは、マスク等の医療器具の‘世界の工場’であった強みを生かし、無償提供であれ、輸出であれ、自国製品の対外供給をコントロールすることで、他の諸国を親中に誘導しようとするものです(中国の終息が虚偽であれば、中国国民を犠牲にするかもしれない…)。日本国に対しては、輸出を低いレベルに制限する、あるいは、後回しにすることでマスク不足の状況を長引かせつつ、同時に寄付攻勢をかければ日本国側に恩を売り、かつ、日中友好をアピールすることができます。また、イタリアやスペインに対する医療器具の優先的輸出には、形成されつつある対中包囲網の一角を崩すと共に、これらの国を中国寄りに引き寄せる効果が期待できます。また、アリババ・グループのジャック・マー氏やステラのマスク氏によるマスクや医療器具の大量寄付も、中国に対する印象を好転させるための世論誘導の一環なのかもしれません。つまり、国際市場における‘独占的な地位’を利用し、事実上の‘分配権’を握ることで、全世界を自国に有利な方向にコントロールしようとしているのでしょう(いかにも共産主義的…)。

 以上に中国の‘マスク戦略’を推測してみましたが、新型コロナウイルスのパンデミック化によってマスク需要が全世界的に高まる一方で、日本国を含めた多くの諸国が、そのマスクの供給を中国に依存してきたのは現実です。こうした状況を脱するためには、医療品生産の国内比率を高め、中国依存体質から脱却するしかないように思えます。今般、シャープがマスク生産に乗り出しましたが、医療・医薬品不足の長期化も予測されますので、国産パルプの活用や人材や資金のサービス業からの移行を含め、同市場への新規参入を促すべきではないでしょうか。変化への迅速な対応こそ、中国の戦略をはねのけ、外部環境に左右されない強い日本経済の再建に向けた第一歩ではないかと思うのです。

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