万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の‘武漢隠し’の意図とは?

2020年03月05日 13時45分25秒 | 国際政治

 フェイクニュースに騙されないよう、しばしば情報リテラシーを磨くように勧められます。しかしながら、入手した情報の真偽を確実に判断するには事実を事実として証明する確固とした証拠が必要ですので、真相が闇の中にある場合には、個人の能力には自ずと限界があります。情報リテラシーは、政府やメディア等によって情報が隠蔽されたり、統制されたりする状況下ではその意味を失うのです。こうした場合には、せめてもあらゆる情報に対して懐疑的な姿勢で接してゆくしかありません。

 新型コロナウイルスに関する情報も、まさに情報リテラシーが及ばない領域にあるように思えます(如何に情報リテラシーを高めても、真偽を知ることは難しい…)。中国等の国家や国際組織が裏側で激しく情報戦を展開しており、目下、同ウイルスの有毒化説と弱毒化説の両者が同時に主張されているように(カモフラージュのために二種類のウイルスがばら撒かれているとの説も…)、時にして正反対の情報も流布されているからです。事実を知るのは、中国共産党幹部や各国の諜報機関などのほんの一握りの人なのでしょうが、事実から疎外された人々でも、現実に起きている現象から情報の真偽、あるいは、事実の一旦を伺い知ることはできます。

 例えば、習近平国家主席が武漢と新型コロナウイルスとの関連性を報じる報道を一切禁じる指令を出したとする情報があります。つまり、武漢を発生地とする新型コロナウイルス禍は、天安門事件と同様に‘なかったこと’にされそうなのですが、この情報も真偽は不明です。しかしながら、その後の中国メディアの報道の変化から同情報の真偽は見定めることができます。以前と変わりなく武漢に関する新型コロナウイルス関連の情報が頻繁に報じられているならば偽情報の可能性が高く、ぱったりと報道が止むようであれば、凡そ事実と見てもよいこととなりましょう。

 なお、‘日本国のマスコミも中国共産党の強い影響下にある’とする情報についても、同様の方法でチェックすることができます。日本国内で、武漢と関連付けた新型コロナウイルスの報道が減少すれば同情報の真実性は増し、変化がなければ、マスメディアの中国支配は日本国民が心配するほどのことではないのかもしれません。もっとも、2月下旬頃から武漢の地名をメディア等で目にする機会が減ってきているように思えるのは気のせいでしょうか…。

 仮に、今後、中国政府が武漢隠しを徹底するとしますと、その意図は、どこにあるのでしょうか。最もあり得るのは、やはり、新型コロナウイルスと武漢のウイルス研究所との関連性を断ちたいのではないか、という推測です。最近、中国共産党の幹部が‘新型コロナウイルスの感染地は武漢であるけれども、発生地ではない’といった趣旨の発言をし、また、習主席も、‘新型コロナウイルスの発生源を調査せよ’と命じたとも報じられています。これらに先立つ2月の下旬には、中国の政府系研究機関も同ウイルスの発生地は武漢の海鮮市場ではない可能性があるとする見解を発表しており、新型コロナウイルス外来説を主張し始めているのです。

こうした、断片的な情報から推測されるシナリオとは、アメリカ、あるいは、カナダ等の海外の研究機関からの盗取、あるいは、武漢のウイルス研究所の独自開発の何れかによって武漢のウイルス研究所に保管されていた新型コロナウイルスが、意図的であれ偶発的な事故であれ、外部に漏れ出てしまったというものです。流出元が武漢ウイルス研究所ですので、中国の責任は重大であり、それ故に、何としてもこの大罪から逃れるために、武漢の地名と切り離して外来説を唱えたのかもしれません。仮に盗取であれば、部分的には事実を含んでいますし、有毒ウイルスを保有していたアメリカやカナダ等の政府に圧力をかけることもできます(外国を同ウイルスの‘誕生地’とすることで批判の対象を分散する、あるいは、巻き込んで言論統制に協力させたい?)。それとも、別の国から武漢に持ち込まれたものであり、自らも被害者の立場に置きたいのでしょうか(‘日本肺炎’の名称に対してネット上等で強い反発があったのも、加害国にされる恐れがあったから…)。

個人レベルでの情報リテラシーの向上では対応し得ない問題領域においては、現実の動きと照らし合わせて真偽を判断するしかありません。それまでの間は、最悪の情報が事実であることをも想定した備えが必要となりましょうし、真相に辿り着くためには、新型コロナウイルスを取り巻く様々な政治勢力の動きをも冷静に観察すべきではないかと思うのです。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする