万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ワクチン接種義務化への疑問-ワクチン耐性ウイルスの発生で元の木阿弥

2021年08月30日 13時13分01秒 | 国際政治

 マクロン政権による「ワクチン・パスポート」の導入は、フランス各地にあって自由を求める市民による抗議デモを引き起こしています。アメリカにありましても、従業員に対してワクチン接種を義務付ける企業が増加していますが、同制度の導入がこれ程の激しい抵抗を受ける理由は、ワクチンを接種しないという選択の自由を否定するからに他なりません。そして、今日、日本国内にあっても、ワクチン接種証明書の活用や接種の義務化が議論の俎上に上るようになりました。しかしながら、接種義務化の根拠は、あまりにも脆弱なように思えてなりません。

 

 とりわけ、最近に至り、ワクチン接種の義務化の根拠として挙げられるようになったのが、ワクチンに対して高い耐性を有する変異種出現の防止効果です。これまでワクチン推進の根拠とされてきた集団免疫論にあっては、人口の5割から6割程度がワクチンを接種していれば、集団免疫が成立するとされてきました。このため、全国民にワクチン接種を義務付けず、摂取の判断を個々人に任せたとしても、一先ずは、目標接種率を達成する見込みがありました。ところが、今般の変異種出現防止説では、ワクチン接種率は6割程度であっても十分ではなく、8割から9割程度の接種が必要とされているのです。おそらく、その理想とする接種率は、100%、すなわち、全国民の接種なのでしょう。

 

 変異株出現防止説にあって、かくも目標接種率が跳ね上がってしまう理由は、’ゼロ・コロナを達成すればもはや変異することはない’とする楽観的な見通しにあります。ウイルスの塩基配列の変異は、感染した宿主の体内において起きますので、感染そのものが’ゼロ’となれば、ウイルスは変異するチャンスを一切失います。変異チャンスの完全撲滅こそ、同説の主張するところなのです。思わずこの説明において納得しそうになるのですが、その一方で、抗生物質に対して耐性を有する薬剤耐性菌の出現プロセスを見ますと、全く逆の可能性もあり得るように思えてきます。

 

 抗生物質が効かなくなる薬剤耐性菌が出現する主たる原因とされるのは、(1)抗生物質の過剰使用、並びに、(2)病原菌が残存している状態での抗生物質の中途停止です。後者の(2)にあっては、抗生物質に耐えた菌のみが生き残り、拡大してゆくパターンですので、必ずしも突然変異を必要とはしません。つまり、病原菌における突然変異の有無とは関係なく、耐性菌が蔓延る原因と言えましょう。一方、変異種の出現と関連して問題となるのは、(1)のパターンです。研究によれば、ウイルスと比較して変異が起きにくいとされる細菌にあっても、抗生物質の作用を受けるなど、生存環境が悪化すると突然変異の発生率が上昇するそうです。生物とは、意図せずとも自らを環境に適応させることで生き残ろうとしますので、変異種の出現は、ごく自然な反応ともいえましょう。

 

 こうした薬剤耐性菌の発生プロセスに照らしますと、ワクチン接種率を100%近くまで上げてゆけば変異種出現のリスクがなくなるとする説には、自ずと疑問が生じてきます。ゼロ・コロナ達成の目標は、同ウイルスの撲滅を目指す(1)のパターンにこそ効果的ですが、現実には、追い詰められたウイルスが突然変異を起こすからです。そして、逆に、政府やマスメディアから’デマ’扱いされているワクチン接種がウイルスの変異の出現を齎しているとする説の方が、余程合理的な説明のように思えてくるのです。何故ならば、ワクチン接種率100%の状態とは、変異しない限り生き残ることができないという、ウイルスにとりましては極限の変異環境となるからです。

 

しかも、新型コロナウイルスは、パンデミック化によって既に武漢から全世界に拡散しており、かつ、同ウイルスは一本鎖のRNAウイルスですので、変異種の多様性も変異の速度も細菌の比ではありません。このことは、ワクチンに関しては、薬剤耐性菌の発生の原因となる(1)と(2)が同時に起きる可能性をも示唆しています。つまり、この状態にあって、特定のウイルス株に対応したワクチンを全国民に義務的に接種させたとしても、ワクチン耐性ウイルスの出現を加速化しこそすれ、コロナ禍は、次から次へと出現するワクチン耐性変異種を前にして終息どころか収拾のつかない状況に陥るかもしれないのです。

 

このように考えますと、各国にあって、個々人の基本的な自由や権利を奪ってまで進められているワクチン接種の義務化も「ワクチン・パスポート」の導入も、何れも合理的な根拠に乏しいように思えます。あるいは、コロナ・ゼロの常態化を名目として、国家の強制力を以って全国民を‘ワクチン漬け’にしようとしているのでしょうか。‘ワクチン耐性人類’が出現するまで同政策が強制的に推し進められるとしますと、その間に生じる命の犠牲は計り知れないのではないかと危惧するのです。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする