去る7月26日、日本国政府は、16年ぶりに地球温暖化対策計画案の改定案を公表しました。菅政権誕生と同時に脱炭素に向けた取り組みが加速化されたことを受けての改定ですが、同案では、2030年度までに2013年度比で二酸化炭素の排出量は産業部門で37%、家計部門では66%の削減が目標値として設定されたそうです。産業部門と比較して家計部門での削減率の高さが目立つのですが、66%という数値だけ見ても削減目標の達成が容易ではないことは、誰もが感じることでしょう。凡そ、僅か10年の間に現在の凡そ半分以下に減らさなければならないのですから(もっとも、2013年頃をピークとして、電力使用量は減少傾向にはある…)。
今年の3月に公表された環境省の「平成31年度(令和元年度)家庭部門の CO2排出実態統計調査 調査の結果(確報値)の概要」によれば、公表時での削減目標は2013年度比で4割と記載されています。つまり、今回の改定案では、削減目標率がさらに2割増しにアップされたこととなるのですが、一体、政府は、どのような政策手段を以って家庭内での排出量を激減させようとしているのでしょうか。
上記の調査によりますと、家計部門におけるエネルギー種別のCO2の排出量は、電気66.2%、 都市ガス14.7%、 LPガス5.9%、 灯油13.2%なそうです。そして、CO2の削減とは、即ち、エネルギー消費量の削減と凡そ同義ですので、66%の削減目標とは、家庭内で使用されるエネルギーを大幅に減らすことを意味するのです。暖房 冷房 給湯 台所用コンロ 照明・家電製品等の消費量を半減させなければ達成できないのです。政府としては、国民のさらなる省エネ行動に加え、家電類の省エネ化、LED照明使用の拡大、二重サッシや複層ガラス窓の普及などに期待しているようですが、これらの措置を既に完了してしまっている家庭も少なくはありません。家電メーカーの多くも、長年にわたって製品の省エネ化を進めてきましたので、画期的な省エネ技術が開発され、かつ、実用化されない限り、劇的な削減が実現するとも思えないのです。
また、政府は、脱炭素の流れにあって石油や天然ガスから再生エネルギーへの転換を目指しており、住宅のオール電化も進めることでしょう。しかしながら、北海道や東北地方において暖房用のエネルギーを全て電力に切り替えるとしますと、冬場にあっては莫大な電力を要しますし、それを全て再生エネで賄えるとは思えません。また、大雪によって停電が発生すれば、多くの人々の命にかかわることでしょう。
このように考えますと、家庭部門でのCO2削減率66%の目標設定とは、日本国政府による’国民苛め’にも思えてきます。政府が闇雲に数値目標の達成を目指せば、国民の生活レベルの向上どころか、著しい低下を招く可能性さえあるからです(電力消費量に制限が設けられるとすれば、家電製品も使用できなくなる…)。仮に、政府が国民生活に何らのマイナス影響も与えずに10年以内に容易に66%削減を達成できると見なしているならば、国民に対してその具体的な道筋を丁寧、かつ詳細に説明するべきなのではないでしょうか。現状からしますと、66%という数字はあまりにも非現実的ですし、国民に対する悪意さえ感じられるのです。