万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

NHKは中国のウイグル支配を擁護したのか?-‘一つの中国’は侵略肯定思想

2019年07月06日 15時21分59秒 | 国際政治
昨日7月5日、NHKでは夜9時の『ニュース9』において、深刻な人権侵害が国際的な批判を浴びているウイグル問題を扱っておりました。日本在住のウイグル人の方が登場し、中国当局による非道な仕打ちを訴えるという構成であり、同問題について実情を知らない国民が多い中、同報道はウイグル問題の理解を深める上で有意義な報道ではありました。しかしながら、一つ気に掛かったのは、NHKキャスターの一言です。それは、‘一つの中国’という言葉です。

 同番組は、中国によるウイグル人に対する非人道的な行為を批判しつつも、中国の顔色をも窺っていたように思えます。中国配慮の現れが‘一つの中国’の言葉であり、現在の中国の領域を一体と見なせば、ウイグル人の独自性を認めたり、独立運動を弾圧するのも致し方ない、とも解されます。台湾問題にあっても、中国は、しばしば‘一つの中国’を強調してきました。乃ち、この言葉こそ、中国にとりましては、台湾のみならず、香港の本土化、並びに、チベットやウイグルの独立を押さえつけ、国際社会からの批判をかわす‘魔法の杖’なのです。この杖を一振りすれば、あらゆる批判者の口を噤ませることができると信じているのでしょう。案の定、NHKまでもが、この言葉を持ち出すことで、中国当局のウイグル弾圧をあたかも当然の事の如くに擁護しているのです。

 しかしながら、‘一つの中国’の言葉の意味を深く探りますと、同国の倒錯した思考が浮かび上がってまいります。それは、たとえ軍事侵攻や詐術によって他国の独立を奪い、自らの支配下に置いたとしても、違いをなくして‘一つ’にすれば’許されるという恐るべき論理です。そして、この侵略正当化の理論に基づけば、支配下に置かれた側の独自の文化や伝統は支配する側のものに強制的に置き換えられてしまうのです。かくして、中国は、‘再教育施設’という名の強制収容所を設け、ウイグル人の内面にまで踏み込み、‘一つの中国’を押し付けています。自らの侵略を正当化するために…。

 このような自己正当化は、果たして許されるのでしょうか。今日にあっては、国連憲章にも謳われているように、民族自決や主権平等は国際社会の基本原則です。チベットもウイグルも国際法を突き詰めれば、中国の侵略行為、あるいは、不法占領であることは疑いようもありません。第二次世界大戦にあって、日本国を侵略国として糾弾したのは当の中国であったにも拘わらず、その中国が、今度は自ら他国を不法に自国に併合しながら‘一つの中国’を以ってその犯罪性を糊塗しようとしているのです。

 この論法が通用するならば、今後、中国が日本国を支配するに至った場合にも、‘一つの中国’を掲げ、異民族をも包摂する偉大な国家として自画自賛することでしょう。日本全国津々浦々に至るまで、中国支配に抵抗する日本人に共産主義を植えるつけるための‘再教育施設’が建設されたとしても…。国民国家体系を基礎とし、国家、及び、民族の独立性の相互尊重を義務付ける国際法に照らせば、‘一つの中国’こそ主権や自決権の簒奪を許す犯罪者側の詭弁であり、国際社会における危険思想と言えるのではないかと思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
コメント (10)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« インフラ関連分野の自由化は‘... | トップ | ひきこもり61万人を呼び戻そう »
最新の画像もっと見る

10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
中国=中華帝国の飽くなき覇権欲求 (本田伸樹)
2019-07-06 16:13:08
倉西先生
いつもご指導ありがとうございます。
私は中華人民共和国の本質は「中華帝国」だと思っており、その国家理念は形を変えた帝国主義だと考えています。
それの一端を示す言葉が彼らが自ら目指さないと言っていた「覇権」であり、中共の覇権主義を糊塗するためにわざわざ自ら否定して見せるという拙い芸を演じたのではないでしょうか?
さて、「一つの中国」は、その具体的に指すものが不明確であり、逆にその不明確さが不気味さを増します。
ウィグル、チベットの弾圧と民族浄化、香港に対する圧力はもとより、南沙諸島や尖閣諸島への威嚇も一つの中国の謀略の一端とすれば、中華帝国の帝国主義世界侵略は着々と進んでいるのであり、NHKをはじめとする「中国は善」であるとする国内勢力は「帝国主義世界侵略は善」という逆説を世界に発信していると言えます。
アメリカと太平洋を日付変更線で分割統治する案というのが真実であれば、日本も中華帝国に飲み込まれることになり、日本民族も固有の文化の放棄や種の断絶を強制される危機にあり、日本のマスメディアの危機感のなさは改めて啞然とするほかありません。
世界が中華帝国に異議申し立てをしている今こそ、地理的に袖を接する日本の政界、言論界、経済界、メディアはこぞって中華帝国の危険性を世界に訴えて行かねばならないのではないでしょうか?

以上と全く関係ない事を申し述べさせていただきます。
大変、無礼なことなのですが倉西先生の弁証法理解と私の弁証法理解には大きな隔離があると思います。
弁証法はカルトの経典でも形而上学でもないというのが私の理解です。
なぜなら弁証法は形式論理で解説できるからです。
「疎外」と「超越」という弁証法独自の概念も、形式論理の三段論法のようなクリアな論理提示ではないというだけで、論理で解き明かしていけば必ずその概念と構造は形式的に理解できます。
そして、私は世界の根本的基盤の運動メカニズムは弁証法によってなされると考えています。
私は決して左翼でもマルキストでもありませんが、逆に弁証法は左翼やマルキストの専売特許ではないと思います。
以上、本当にご無礼な蛇足を申し上げました。
お許しください。
返信する
Unknown (櫻井結奈(さくらい・ユ-ナ))
2019-07-06 16:51:00
私は、幸か不幸か、そのNHKのテレビを見ておりませんが、もし、そのニュースキャスターが
ウイグル問題からみで、『ひとつの中国』という言い方をしていたとすれば、
聞き捨てならないことですね。
 第一、一般日本人の感覚とは違います。

ところで、昨日(7月5日)の読売新聞の10面では、中国のウイグル抑圧について
批判的に報道しており、どちらかと言えば、読売新聞のほうが公正に報道していると
思います。

★日本政府の立場は、1972年の日中国交回復の際の共同声明では、
チャイナ側の、『中華人民共和国が中国の唯一の正当政権である』という主張に対して、
日本側が、『それに理解を示す』という、ふくみを持たせた表現をしており、
【ひとつの中国】というプロパガンダに安易に同調したわけではありません。

ましてや、ウイグルやチベットに対する圧制を、日本が容認すると云うことは
ありえません。

それにしても、ウイグル人に対する迫害が甚だしくなったのは、ここ、数年のことです。
いったい何があったのでしょうか?
ウイグル民族の決起があれば支持したいです。

◎ウイグルの 民の悲しみ 誰ぞ知る 正義の使者は いづこにおわすか
返信する
本田伸樹さま (kuranishi masako)
2019-07-06 21:12:31
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 日本国政府も、日中関係は完全に正常化したと嘯いておりますし、経済界も、未だに中国市場に幻惑されているように見受けます。その先に何が待ち受けているのか、予測した上でのことなのでしょうか…。特に政府の責任は重大ではないかと思います。

 弁証法理解につきましては、本田さまと私とでは、確かに相当の隔たりがあるように思えます。と申しますか、私は、弁証法であれ、何であれ、世界の歴史展開において運動法則なるものが存在するのか、それ自体を疑っているのでございます。こちらこそ、蛇足を申し上げましたこと、お許しくださいませ。
返信する
櫻井結奈さま (kuranishi masako)
2019-07-06 21:32:46
 コメントをお寄せくださいまして、ありがとうございました。

 一般の日本国民は、中国によるウイグル人やチベット人に対する容赦ない弾圧に心を痛めていると思います。にも拘らず、日本国政府は、中国の顔色ばかりを窺っており、国民感情との間にずれがあるように思えます。なお、ここ数年においてウイグルでの締め付けが強まったのは、顔認証制度など、ウイグル人監視体制が整備された、つまり、技術的に可能となったからなのではないでしょうか。

 遥かなる 絹の道より 聞こゆるは 救いをもとむる 民の声かは

 
返信する
弁証法についての蛇足の蛇足 (本田伸樹)
2019-07-06 21:59:14
倉西先生
ご指導ありがとうございます。
標記につき、先生は弁証法をヘーゲルによる歴史哲学の一方的な発展法則とお捉えになっているのでしょうか?
ご承知のように現代に入りサルトルを経てヘーゲル弁証法は極めて不確実で不合理な宇宙のダイナミズムの「認識レベル」での手段となりました。
私の理解では先生はポストモダンの観点を咀嚼しながら弁証法の「啓蒙主義的」「歴史法則楽観主義的」側面を批判されておられるのでは?と受け取りました。
蛇足の蛇足ですが私は弁証法を以下のように理解しています。
①弁証法は形式論理の枠内の特殊な「話法」である。
②弁証法は合理性を包含しない。また合理性を指向もしない。
③弁証法は歴史発展段階を法則化しない。ただ単に宇宙の運動を観念化するための認識のツールである。
失礼いたしました。
返信する
Unknown (櫻井結奈(さくらい・ユ-ナ))
2019-07-07 10:14:59
【追伸】
ウイグルの人たちは、イスラム教徒ですよね。
しかし、最近では、チャイナの宗教弾圧により、モスク(イスラム教の教会)も
閉鎖されてるようです。
また、ウイグルの人が、何か考え事をしていたら、チャイナの警察官や兵士が
やってきて『おまえは、お祈りをしているんだろう!そういうことは禁止されてるのを知らんのか!!』
と、怒鳴られるそうです。
もう、ウイグルは、そんな状態らしいです。

ところで、『ものの本』によりますと、
イスラム教シ-ア派の教義では、世界の大混乱の末世に、【アル・マフデイ-】という救世主が
出現するらしいです。
、、、私は、イスラム教徒ではありませんが、ウイグル民族を救うために、そういう人があらわれたらいいな、、、
と、思います。

◎三日月の げに麗しき 西域の 民の平安 いつ来たれしか
◎三日月の タ-バン被り 凛とせし 神の戦士よ やよ、来たりませ

また、香港やチベットのかたのことも気がかりです。
★しかし、チャイナの共産党政権が将来倒れたとしても、
チャイニーズたちの中華主義的な傲慢さは、変わらないと思います。
返信する
本田伸樹さま (kuranishi masako)
2019-07-07 16:31:19
 ご返事をいただきまして、ありがとうございました。

 ヘーゲルの『歴史哲学講義』等によりますと、ヘーゲル自身は、弁証法を歴史発展の法則と捉えているように思えます。そうであるからこそ、これを批判的に受け継いだマルクスは、プロレタリア独裁を人類が到達すべき究極的、かつ、必然的な政治体制として正当化しようとしたのではないでしょうか。しかも、止揚の概念は’楽観主義的’でもありましたので、上部ではなく下部に落ちる力としても働く可能性についても触れていないように思えるのです。

 こちらこそ、反論をいたしてしまいましたようで、大変、失礼をいたしました。
返信する
櫻井結奈さま (kuranishi masako)
2019-07-07 16:42:54
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 末世における救世主の出現につきましては、イスラム教を含めて様々な宗教に見られるのですが、現実には救世主が現れない場合もありますので、救世主に頼りすぎるのも、危険なことかもしれないと思います。否、謀略に長けた中国ならばこれを巧妙に利用し、ウイグルの人々を黙らせてしまうことでしょう。

 三日月に 祈る民に 慈悲深き 神のご加護の あらんことを

 
返信する
きっと (Bystrouska.Vixen)
2019-07-08 18:26:07
きっと、支那人は、どんな非道を行っても免罪されるように、世界を覆う「闇の支配者達」とやらに、相応のお布施でもしているのでしょう。
日本は、支那に鐚一文、お金を渡すべきではなかった。後知恵ですが。
返信する
Bystrouska.Vixenさま (kuranishi masako)
2019-07-08 21:39:08
 コメントをお寄せくださいまして、ありがとうございました。

 中国の非人道的な行為に対する制裁は、今からでも遅くはないのではないかと思います。日本国政府が反対の方向を向いていることは、まことに残念でなりません…。
返信する

国際政治」カテゴリの最新記事