人に出会うにも、簡単に出会うことはできるみたいだけど、そんなのはあまり当てにならない。簡単に出会ったものは簡単に分かれていきます。
だったら、じっくり時間をかけて出会ったらいいの?
できれば、本でも人でも、じっくり時間をかけて、本当にこれでいいのか、ためつすがめつ見つくさねばならないのです。もう何度も見て、おしゃべりもして、気が合いそうだと思ったら、やっと一歩踏み出すことができる。
だから、ほんの一時間やそこらで本に出会えるわけがないのです。でも、私には時間がありませんでした。仕方がない、チョコマカ歩いて、目に入った本を買うとしよう。
大きな本は買えないし、小さな文庫本をめざす。岩波文庫はせっかく買っても、ほとんど読まないので買わない。ちくま文庫も自信がありません。だから、ちくまの背表紙を見たらスルーすることにした。
中公文庫のピンク色の背中はどうです? そうですね。中公もあまり読んでいないなあ。だから、中公もスルーしよう。徳間、その他はもちろんスルー。新潮文庫は? 古本市で並べられていると、あまり目に入ってこないのです。
そんなわけで、私がスタスタ歩きながら、見つけた本はたったの三冊でした。
最初に二冊。「現代はいすくーる短歌」猪狩三郎(1988 朝日文庫)福島県の高校の先生の作品です。アララギ同人でもある先生は、高校生たちの作品をまとめて本にされたみたいです。まあ、気軽に読めるかなと買ってしまった。
「中国の故事と名言」常石茂・立間祥介ほか(1988 集英社文庫)中国の歴史と言葉は、私の研究テーマでもあるので、200円だから買いました。そのままパクリで記事が書けそうです。どれだけ私のオリジナリティを出せるかが勝負ですね。
あともう一つ。
「本とその周辺」武井武雄(1975 中公文庫)武井武雄さんの本が見つかったら、たいてい買うことにしていますけど、たいてい読んでいません。でも、いつか読むことがあるだろうと、とりあえず買っている。こちらは古い本なので300円もしました。
結局一時間と少しでこの3冊しか見つけられなかった。
すぐに母から電話がかかってきて、どこにいるの? 私は疲れた、と言われては仕方がなく、切り上げて退却しました。あまりにまぶしくて、とても暑くて、そんなに長くは見られなかったと思うけれど、一時間くらいではもの足りない気分が残りました。
でも、つくづく自分が何を求めているのか、はたして自分は本を読む気があるのか、とても不安になりました。かくして私は四天王寺を去ることになった。
ああ、残念でした。次の機会はいつになることか、私の見つからない旅は次へとつづくことになりました。何を求めているのやら……。