甘い生活 since2013

俳句や短歌などを書きます! 詩が書けたらいいんですけど……。

写真や絵などを貼り付けて、二次元の旅をしています。

旅のラゴス(筒井康隆) 1986 徳間書店

2023年08月30日 21時58分26秒 | 本読んであれこれ

 私の持っている本は、1994年の新潮文庫版ですけど、この本がいいよという話(コメント?)をどこかで見たのはもっと後でした。ということは、古本屋さんで買ったんでしょうか。あちらこちらに持ち歩いて、普通の古本よりもくたびれた状態で、たぶん、古本屋さんなら50円でも売れないだろうな。

 どこで買ったのか、ちゃんとメモしてないですけど、読んだのはようやくこの年になってです。何十年もかかっているらしい。手にしてからでも、何度も旅に行く度に連れて行くんですが、ずっと読めずに来てしまった。

 たったの226ページの本なのに読めないなんて、かなりハードルが高かったんです。勧めてくれた人が誰だったか忘れたけれど、今さらながら、現代文明を考えさせてくれる本でした。特殊能力を持つ人々なんだけど、みんな前近代的な世界にいるようです。地球の話なのか、それさえわからない。

 ラゴスたちのいる世界は、放浪する人々がいたり、山賊がいたり、電気というものがなかったり、医学は進んでいなかったり、機械みたいなものもなくて、ものすごくアナログな世界に人々はいるようです。

 通信というものがないから、人々は出会って、その出会いを大事にして生きている。乱世なのかというと、戦乱はなくて、みんなが共和制の中で生きていたりする。貧富の差もあるはずだけど、それほど大きな差はない感じ。戦争がなくて、怖ろしい政治もなくて、機械がない。地球の人間たちの歴史だったら、馬を使う遊牧民が世界を統一しようとしたり、戦争上手な英雄が世界を駆け巡ったりという、人間の歴史の中で行われたような恐ろしいことが起こっていない。

 言葉は、どういうわけかどこででも通用して、世界言語があるみたいです。そう、人間の歴史でいえば、カリスマが現われて、人々を一つの方向性に向かわせて、何かを信じ込ませ、それを信じない人々を抑圧するような、そういうのも人間の歴史にはありましたが、この世界にはないようです。そのために人の命まで奪う宗教も持っていないようでした。

 人間の歴史とは、戦争と、宗教と、バラバラの言語と、激しい格差と、人に対する差別と、ろくなことがなかった歴史です。そんななのに、人間は、何にもなかったように生きてきましたが、ラゴスさんは、何かに突き動かされるように南へ旅して、最南端の国でたくさんの本を読み、そこで王と呼ばれるまでになった。そうしたら、ふたたびふるさとの北の国に帰り、今度は人も住めない極北にひとりで突き進んで行く。何かの目的のためではなくて、突き動かされて進んでいくのです。

 人々は、瞬間移動する特殊能力を持ったり、その他いろいろの特別な能力を持っている。これは人間の世界にはないことでした。ですが、その能力もあまり有効であるようには見えない。あまり旅する人もいない世界のようです。

 そう、旅をすることは、ラゴスさんのように、何かが目的というのではなくて、旅そのものが目的であり、停滞はもう許されない感じで生きている。

 

 最後まで読んだら、何か特別な感動みたいなのがあるのかなと思ってたら、特にはなかった。ただラゴスさんは、前近代の中で、少しずつ近代化への道筋を作った。すべては本による知識であった。他の人たちは、本というものを読まなくて、ラゴスさんだけが読んでいるみたいだった。

 そして、物語の世界から消えていってしまう。

 先ほども書きましたが、とうとうおしまいまでたどり着いたのに、私は何も見つけられなかった。おもろしいという感想も持てないまま、人の世界と似て非なるラゴスさんたちの前近代世界を楽しみました。

 私は、近代以前の、もう少し気ままの、ワクがあるようでなかった緩い世界に覇あこがれがあるので、そういう世界を味わわせてもらった。そう、自分も一緒に旅している気分にはなれたのです。

 これはディストピアの話なのだとは思います。でも、旅してみたい世界なのです。残念ながら、私ならすぐにへこたれるだろうけど。

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