廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

人気と実態の乖離

2017年12月22日 | Jazz LP (Savoy)

Lee Morgan with Hank Mobley's Quintet / Introducing Lee Morgan  ( 米 Savoy MG 12091 )


若きリー・モーガンの姿が判る貴重な記録ながら、どうもスッキリせず冴えない内容だ。 その理由の1つは、おそらくビ・バップを演奏しているからだと思う。
なぜ、1956年にこんな時代遅れの音楽をやったのかはよくわからない。 モブレーは無理をせず、ビ・バップの形式に上手く自分を溶け込ましてはいるけれど、
元々がこういうタイプの音楽には似合わない人だ。 しかもフロントの2管にはビ・バップの覇気や高揚感がまったくない。

尤もモーガンはさすがに上手くて、長いソロを何の不安げもなく抜群の安定感で吹き切っていて、フレーズの作り方も上手い。 ただのパワー・ヒッターでは
ないところが当時のミュージシャンたちの間で驚異を以って迎えられた理由だけど、その美質がしっかりと刻まれている。

ただ、ハンク・ジョーンズ、ダグ・ワトキンス、アート・テイラーの3人は鉄壁のリズムを作っていてこちらはハード・バップのマイルドな演奏になっているのに、
フロントの2管がビ・バップのリフをやるものだから、音楽的に全然噛み合っていない。 終盤のバラード・メドレーでようやく5人の演奏がハード・バップとして
統一されて、何とかギリギリうまく着地するという感じだ。 やはり、ハンク・モブレーは音楽監督には向いていない。

おまけに、ヴァン・ゲルダー・スタジオでの録音でカッティングもRVGなのに、なぜか音質が冴えない。 音圧は高いけれど、音自体は表面が曇っている金属を
見ているような感じだ。 空間的な立体感や奥行き感もなく、オーディオ的な快楽度も高くない。

そんなわけで、昨今のこのレコードの高騰ぶりの理由がよくわからない。 悪い演奏だとは言わないけれど、今現在取引されている値段に見合う内容だとは
とても思えない。 


コメント (2)
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「私が殺したリー・モーガン」を観た夜

2017年12月22日 | Jazz雑記



映画館で映画を観るなんて、一体、いつ以来だろう。 同じ姿勢で2時間近くじっとしているのが辛くて、自然と足が遠のいてしまっている。
それでも観に行く気になったのだから、気持ちが冷めないうちに足を運ぶことにした。

東京は渋谷のアップリンクというミニ・シアターだけでの単館上映で、木曜日の夜に全部で50席ほどの小さな小屋は半分ほど観客で埋まっていた。
これを意外と多いとみるべきなのか、やはり少ないとみるべきなのかはよくわからない。 大半は50~60歳代のようだけど、若い人も何人かいた。
ただ、やはりジャズはマイナー芸術なんだということを実感した。

数ヶ月後にはDVDとして発売されて、そこで初めて観ることになる人も多いだろうから、ネタバレしないよう内容には触れるまい。
面白いか面白くないかは、ご自分の眼で確かめられるといい。 ヘレンが彼のことをなぜ "モーガン" と呼んでいたのかもおのずとわかるだろう。

観ていて思ったのは、本人のいない映画というのは寂しいものだな、ということだった。 時間をかけて遠くまではるばる訪ねて来たのに、主人は不在で
結局会うことができなかった、手廻しの悪い旅のように。 リー・モーガンの姿を求めて、雪深いニューヨーク、枯れた雑草以外は何もない田舎街の風景、
とカメラは視点を変えていくけれど、彼の姿はどこにもない。 失われたものを求めて彷徨ううちに、やがて時間が退行していくような感覚に包まれる。
帰る道すがら、タルコフスキーの晩年の映画を思い出したりもした。

冷たく凍えるように寒い冬の夜に似つかわしい映画だった。 久し振りに外で観たということも手伝って、長く印象に残るであろう夜を過ごした。


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