廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

インパルス時代のコルトレーン

2018年07月08日 | Jazz LP (Impuise!)

John Coltrane / Expression  ( 米 Impulse! A-9120 )


コルトレーンの完全未発表作品がリリースされたということで、ネットの世界は色々盛り上がっている。 概ね好評のようだけど、中にはひねくれた意見や
想定の範囲内という声もあるようだ。 私はというと、日頃の安レコ買いが祟って、2LPsで5,000円という価格に腰が引けてしまってまだ買えていない。
こういう時に安レコに慣れてしまっていると何かと具合いが悪い。 

インパルス時代のコルトレーンは好きなので、割とよく聴くほうだと思う。 どのアルバムも聴き所があるので特にこれが、というのはないけれど、それでも
この "Expression" はB面トップの "Offering" が好きなので聴く回数が多いかもしれない。 テナーの音色がとてもいいのだ。

このアルバムは "To Be" の瞑想的な雰囲気に対して「死期を目前にして、悟りを得たかのような」というのがお決まりの解説だけど、なんだかなあ、と思う。
ジャズ界きっての大意識家だったとはいえ、たかだか40歳の男にそう簡単に悟りがやって来たりするのだろうか。 単に病気が悪化して体調が悪かったんじゃ
ないのかなあといつも思う。 それまでのパワー全開の演奏をするには体力も気力もついていけなかったんじゃないだろうか。

その代わりに、"Ogunde" のソプラノや "Offering" "Expression" でのテナーの音色の深みが前面に出てきて、そこに耳を奪われることになる。
マイルスのマラソン・セッションをやってた頃の彼のテナーと較べると同一人物だとは思えないわけだけど、ただそこに精神性の話を持ち込んでくると
話が途端に胡散臭くなる。 そんなこと以前に、とにかく格段に楽器の演奏が上手くなったということだ。 私がインパルス時代のコルトレーンが好きなのは、
彼のサックスのプレイが好きなのであって、彼がやった音楽の精神性や宗教性が好きなのではない。

それまでの天才たちはみんな20代前半で楽器演奏のピークを迎えたから、そこに精神性みたいなものが混入することはなかったけれど、この人の場合は
10年遅れてようやく追いついたから、そこにはそれまでの天才たちには見られなかった大人の感情がセットになっていたということなんじゃないかと思う。

いずれにせよ、卓越したサックス奏者のまだ聴いていないピーク期の演奏が出てきたわけだから、聴く価値は十分にあるだろう。 
あとはお財布と相談するのみ、である。


コメント
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