

Miles Davis / And Milt Jackson Quintet / Sextet ( 米 Prestige Hi Fi LP 7034 )
テクノロジーの発達で今は歌が歌えなくても楽器が弾けなくても曲が書けなくてもミュージシャンになれるし、デビュー作から豪勢な作りのサウンドになっていたり、
というのが当たり前になっている。 もう新人とベテランの違いもよくわからないし、アーティスト本人以外の手による音楽への関与率も高くて、一体どこまでが
本人のものなのかすらよくわからない。 標準化した裏方のノウハウが現在の新録作品から魅力を奪うので、それに飽きた者の一部は古い音楽の中へ退避し、
一部はアンダーグランドに閉じ籠り、一部は第三世界へ旅立つ。 まあ、当然である。
私も2018年に出た新譜や世評高きアーティストをそれなりに買って聴いたけれど、ここに載せておきたいと思うようなものは、唯一まともだと思った
吉田野乃子関連以外では、1つもなかった。 ティグラン・ハマシアンもメアリー・ハルヴォーソンもつまらなかった。 それらが如何につまらないかを書こうと
したけれど、つまらなさを論じることほど難しいことはなく、つまらなさは人から思考や言葉まで奪い取るのだということを知った。
大物の未発表作のリリースにも結局乗り切れなかった。 敬愛する先輩ブロガー達のドルフィーに関する記事を読んでも、とにかく微妙、ということで
見解は一致しており、やっぱりアーティスト本人がリリースに関与しない作品には金を出す気にはなれないという想いはますます強くなっていく。
新年の縁起物ということでマイルスを聴くわけだが、一般的にはスルーされるこのアルバムをかけていると、去年感じた上記のようなモヤモヤ感はどこかへと
消えて無くなっていく。 若い音楽家たちが楽器一本でもって地味なブルースをただ演奏しているだけなのに、マイルスのラッパのみずみずしさ、
マクリーンの若々しいアルトの音色、ミルト・ジャクソンが奏でる穏やかなシリンダーの響きがこれ以上ないくらいに生々しく迫ってくる。 何のからくりもなく、
嘘やハッタリもない。 拍子抜けするほど素朴な演奏だけど、こんなにリアルな手応えが自分の中に残るのは一体なぜなんだろう、と思う。
ビ・バップ風の演奏にしたかったから舎弟のマクリーンを呼んだのに、クスリでハイになり過ぎていた彼がマイルスに甘えてダダをこねて途中でスタジオを
飛び出してしまったから、マクリーンのアルトは2曲でしか聴けない。 しかたなく残りはワンホーンで演奏されているが、最後に演奏した "Changes" は
ミドルテンポの落ち着いた曲で、完成しつつあるミュートでの演奏が心に染みる。
マイルスの有名な傑作群はこの後から始まるけれど、その前夜であるこの作品にはアーティストの生身の姿が実にリアルに記録されている。
こういう音楽はもう聴けないんだろうと思うからこそ、時々引っ張り出しては聴き続けることになるのかもしれない。
こんなにもマイルスを身近に感じるレコードは他にはあまりないだろうと思う。