Joanne Brackeen / New True Illusion ( 蘭 Timeless SJP 103 )
ジョアン・ブラッキーンと言えば、スタン・ゲッツのバンドで無骨にガンガン鳴らしていた人、というイメージが一般的ではないかと思う。
私もかつてはそう思っていたし、「アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズに参加した唯一の女性ピアニスト」という現代では
間違いなく問題になるであろう紹介のされ方をするのがお決まりで、とにかく男勝りというイメージだろうが、これは明らかに誤解である。
ろくに聴きもしない上に、更に前時代的な冠を付けるもんだから、一向にそのイメージは回復しない。
1938年生まれだからチック・コリアの3歳年上だが、そういう世代の人で、プロとして活動を始めたのがハード・バップがピークを越えた頃だから、
そういうものが身体に染み付いていない次世代のピアニストだ。そのピアノは一聴すればわかる通り、チック・コリアの影響が濃厚だ。
打鍵がしっかりしていてピアノがよく鳴っていて、基礎がしっかりとしていることがよくわかる。ただ、やみくもに弾くようなことはなく、
優雅にレガートするところはするし、可憐な音でわかりやすい旋律を歌わせることもできる。
このアルバムはベースとのデュオということもあり、彼女のそういう本来的な姿がヴィヴィッドに捉えられている。マッコイの "Search For Pease"
なんて、まるでECMの耽美派ピアニストたちの演奏を大きく先取りしたような感じで驚かされるし、"My Romance" で聴かれる彼女のピアノは
ビル・エヴァンスのよう。ベースのクリント・ヒューストンもそうだが、この演奏ではエヴァンス・トリオの演奏の物真似をしようという魂胆が
あったんじゃないだろうか。そう思わせる演奏になっている。
しかし、何と言っても冒頭の "Steps - What Was" が本作の白眉で、チック顔負けの演奏を聴かせるのが圧巻。彼への敬愛の念がほとばしる
見事な演奏で、以降、全編彼女の美しいピアノの音色にガツンとやられる傑作となっている。チックの "Now He Sings~" が好きな人には、
このアルバムは非常な好意をもって迎えられるだろう。