The Dave Brubeck Quartet / The Last Time We Saw Paris ( 米 Columbia CS 9672 )
洗練の極み、とはこのアルバムのためにある言葉。白人ミュージシャンには黒人ミュージシャンがやるようなジャズは結局できず仕舞いだったが、
逆にこの洗練の高みを極めたような演奏は黒人ミュージシャンにはできなかった。
このアルバムはデイヴ・ブルーベック・カルテットの最後の公式アルバムで、この後バンドは解散した。
最も成功した白人ジャズグループとして、彼らの生活は多忙を極めていた。長期間行われる世界各地でのツアー生活、その合間を縫って行われる
レコーディング。そういう生活が長く続いたせいで、バンドのメンバーたちは疲弊し、精神的にも不安定になり、関係もギクシャクし始めた。
互いに会話することもなくなり、返答もいつも決まった言葉を返すだけになった。そして、もうこれ以上は限界だと悟ったブルーベックは67年
いっぱいでバンドを解散することを決意する。そんな中で行われた最後の欧州ツアーの様子がここには収められている。
晩秋のパリで行われた演奏はどこまでも優雅にスイングして、まるでカシミヤのような質感。バンドの内情がそういう状態だったということが
とても信じられない。ブルーペックのピアノはいつになく穏やかで、聴き入ってしまう。自作の "Forty Days" での彼のピアノは、まるで後年の
キース・ジャレットのような思索的な演奏で、これには驚かされる。10年も前にブルーベックが先取りしていたということだ。
行儀のよい欧州の観客が静かに見守る中、ライヴ会場独特の広い空間を感じる独特の雰囲気に包まれながらポール・デスモンドの冷たく澄んだ
アルトが優雅に舞う。この静かなアルトを聴いて鳥肌が立たない人がいるだろうか。
このアルバムには "One Moment Worth Years" や "La Paloma Azul" などの美しい名曲が選ばれているところも魅力の1つで、アルバムの
素晴らしさを後押ししている。加えて録音が非常によく、見事な音質でこの優美な音楽が聴ける。
デイヴの妻であるイオラ・ブルーベックがライナーノーツを書いているが、当時は67年末で解散することは公表されおらず、この欧州ツアーも
"フェアウェル・ツアー" であることは告知されていなかったが、英国やその他の現地では既にその噂が拡がっていたらしかった。このパリ公演も
デスモンドのアルトの演奏が終わるたびに大きな拍手が沸き起こり、最後の "Three To Get Ready" が終わると、まるで会場が割れるような
大きな歓声と拍手が沸き起こる。その反応が大きければ大きいほど、聴いているこちらの寂しさも大きくなる。