Yevgeni Svetlanov / Sergei V. Rachmaninov Piano Pieces ( 露 Melodiya C10-15595 )
朝は大体5時頃に起きる。在宅勤務になってそろそろ1年になろうとしていて、もう目覚ましをかけることはないけど、勝手に目が覚める。
今はこの時間はまだ外は真っ暗で、6時を過ぎる頃になるとゆっくりと空が白み始める。
たっぷりと時間があるのでレコードを3枚分くらい聴くけれど、この時間帯にジャズは耳障りなので、大抵は静かなピアノ音楽を聴く。
元々、ジャズとクラシックを聴く比率は10対1くらいなのだけど、毎年冬のこの時期になると、この比率は逆転する。冷たい空気の中では
なぜかクラシックの方が聴きたくなるのだ。理由はよくわからない。
寝起きのぼーっとしている頭にモーツァルトやベートーヴェンはうまく入ってこないので、バッハやスカルラッティのようなバロックか、
もしくはシューベルト以降の作曲家のものがメインになる。
スヴェトラーノフが弾くラフマニノフのピアノ曲集もこの時間帯によく合う音楽だ。大指揮者として名を成したこの人も、
元々はピアノ弾きとして音楽を始めたわけで、大成した後も気が向いたらこうしてピアニストとしての仕事もしていた。
指揮者になろうという人は音楽を大局的に眺める傾向が強いから、その演奏も普通のピアニストの演奏とは雰囲気がガラリと変わってくる。
不思議なものだ。
ラフマニノフ自身が歴史に名を刻むような大ヴィルトゥオーゾだったから、書いたピアノ曲も技術的難易度が高いものが多かったが、
ここでは静かで憂いに満ちた楽曲だけが選ばれていて、それらをスヴェトラが物憂げに弾いている。これが他の誰も出せないような
ある種の独特な雰囲気となっていて、素晴らしい。
「ヴォーカリーズ」や「エレジー 作品3-1」のような、ラフマニノフにしか書けない美しく儚いメロディーを聴きながら、
暗い空が徐々に明るくなっていく様をぼんやりと見つめているのが、毎朝の決まり事のような日々が続いている。