※当作品は日付と時間を記載してはおりますが、現実の状況と必ずしもリンクしているわけではありません。台風11号が通過しましたが、作中では台風は通過していません。
[7月17日11:45.天候:晴 JR藤野駅 8号機のアルエット]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の列車は、11時45分発、快速、東京行きです。この列車は4つドア、10両です。次は、相模湖に止まります〕
アルエットはブルーのブラウスにリボン、スカートといった女子中高生の制服にも似た服を着ている。
「お嬢様……。お見送りは、ここで失礼致します」
「ええ。ありがとう」
アルエットの横には、従姉のシンディもかくやと思うくらいの背の高いメイドロボットがいた。
右目が前髪に隠れており、背中まであるロングヘアーは薄紫色である。
メイドロボットと言っても、明らかに目立つメイド服を着ているわけではない。
七海や一海などの“海組”が快活な性格なのに対し、こちらのメイドロボットは随分とクールである。
〔まもなく2番線に、快速、東京行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この電車は4つドア、10両です。次は、相模湖に止まります〕
「私はドクターの御昼食を作らなくてはなりませんので。くれぐれも、お気をつけて……」
「うん」
銀色ステンレスにオレンジ・バーミリオンの帯を巻いた電車が入線してくる。
〔ふじの〜、藤野〜。ご乗車、ありがとうございます〕
ドアは自動で開かず、ドア横のボタンを押してドアを開ける。
ロイドにも大敵な夏の熱気だが、電車内は冷房が効いていた。
〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕
一部の開いたドアだけが閉まると、電車は走り出した。
電車が動き出すと、アルエットを見送りに来たメイドロボットが深々と頭を下げた。
〔次は、相模湖です〕
(博士はダニエラがいるから、寂しくないか……)
“海組”メイドロボにも、ある程度の戦闘力はあるらしいが、いつの間にか作られていたダニエラの戦闘力がどの程度かは分からない。
ただ、無から作られたわけではなく、中古のロイドを引き取って改造したとのことだ。
あれだって相当の完成度だと思うが、あくまで今回はマルチタイプの展示イベントであって、メイドロボットではない。
メイドロボットも出ることは出るそうだが、あくまでメインはマルチタイプだ。
空いている席に座り、前にキャリーバッグを置くアルエット。
半袖とはいえ、二の腕は隠れているので、そこに記された『8』という数字は見えない。
周りの乗客も、女子中高生が乗っている程度にしか思っていないだろう。
しかし実態は、やろうと思えばテロ・ロボットを使役することができる新型マルチタイプである。
敷島の渾身の願い出により、ようやくアルエットの展示も認められた。
但し、製作者である達夫は老体を理由に、仙台まで行かない。
アルエットを単独で行かせるが、けして勝手に手を出してはいけないとのことだった。
旧型とは違い、常に細かいメンテを必要としないとのことである。
[同日13:23.JR東京駅・コンコース アルエット、敷島孝夫、シンディ、鏡音リン・レン]
新型マルチタイプを乗せた快速電車が、東京駅の1番西側のホームに入る。
山梨県から来た電車だが、けして都内に入ると、必ずしも特快になるわけではない。
電車を降りると、シンディが送信している信号に従って、待ち合わせ場所に向かった。
「おー、ちゃんと迷わずに来れたな。確かに人間相手より楽だぜ」
敷島は感心したように言った。
「こんにちは、アルエット」
「こんにちは。3号機のシンディ……姉さん」
「いいよ。いちいち3号機は付けなくて。機械みたいじゃない」
「いや、機械だろ!」
「社長、ナイス・ツッコミ!」
リンがパチパチ手を叩く。
有名人になったというのに、他のボーカロイドよりも大した変装はしていない。
レンが白いワイシャツに黒いベスト、黄色いネクタイを着けているのに対し、リンはトレードマークである頭の大きな白いリボンを取ろうとしなかった。
「とにかく、新幹線乗り場に行くぞ」
「はーい」
[同日14:05.JR東京駅・東北新幹線ホーム 上記メンバー]
〔22番線に停車中の電車は、14時20分発、“はやぶさ”23号、新青森行きと“こまち”23号、秋田行きです。……〕
折り返し運転による車内整備の為、ホームで待つ敷島達。
並んでいる場所は、グリーン車やグランクラスではなかった。
〔「“はやぶさ”号と“こまち”号は全車指定席です。自由席車両はございません。自由席特急券ではご乗車になれませんので、ご注意ください」〕
「はい、ターッチ!」
「こ、こう?」
リンがノリノリで『情報交換』を行う。
ロイドの右手の掌には赤外線通信を行うレンズが付いており、これでロイド達は互いに“挨拶”しているのである。
犬同士が互いの尻を嗅ぎ合うのと、理屈は似ている。
「んー、鏡音リン、よろしくね。ボーカロイドの2号機だYo」
「ボクは鏡音レン。よろしく」
「マルチタイプ8号機のアルエット……だよ」
設定年齢がほぼ同じということもあってか、すぐに打ち解けそうな感じだ。
特にリンが性格設定上、積極的である。
「アルエットかぁ……。んー……」
リンは考え込む仕草をした。
「な、なに?」
アルエットが一瞬、不安そうな顔をする。
そしてリンは、
「じゃあ、アルるんだね!」
「あ、アルるん……?」
「リンは誰にでもニックネームを付けたがるからな」
敷島は手持ちの扇子で扇ぎながら苦笑した。
その扇子には、ミクの公式イラストが描かれている。
何気に、敷島エージェンシーの広告だったりする。
「ミクは『みくみく』、ルカは『ルカ姉(ねぇ)』、MEIKOは『MEIKOりん』、KAITOは『KAITOっと』か」
レンも続いて言う。
「一海さんは『かずちゃん』で、プロデューサーは『兄ちゃん』です」
「ははは……。財団の頃は、俺が『兄ちゃん』だったんだがな……。まあ、もうそんな歳じゃないし」
発車の5分前にはようやく整備が終わり、敷島達は車中の人物となる。
「おお〜、涼しい!」
「リンとレンは、2人席で仲良く座ってな」
「はーい!」
「社長は上座へどうぞ」
「いや、色々電話も掛かって来るから通路側でいいよ。ヘタに窓側に座って、外から銃撃されたらたまらん」
「さすがのアタシも、時速320キロで走行中の列車をピンポイントで狙撃する性能は持ち合わせてないねぇ……」
さすがの“ゴルゴ13”も、時速60キロで走行するバンコクのスカイトレインしか狙撃できないようである。
「プロデューサーからの電話なら、アタシが受けとくよ」
「いや、井辺君とはLINEでやるからいいよ」
「えー!リン、もっとアルるんとお話ししたーい」
「あ、そうか」
敷島はポンと手を叩いた。
〔「ご案内致します。この電車は14時20分発、東北新幹線“はやぶさ”23号、新青森行きと秋田新幹線“こまち”23号、秋田行きでございます。停車駅は上野、大宮、仙台、盛岡、八戸、終点の新青森の順に止まります。“こまち”号は盛岡を出ますと、田沢湖、角館(かくのだて)、大曲、終点秋田の順に止まります。全車両指定席で、自由席はございません。お手持ちの特急券の座席番号をご確認の上、指定の席にお掛けください。号車番号は車内出入り口上に表示されております。お乗り間違えの無いよう、ご注意ください。お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕
2人席に敷島とシンディ、3人席にリン、レン、アルエットが座ったのだった。
これにて一件落着、列車は定刻通りに東京駅を発車した。
[7月17日11:45.天候:晴 JR藤野駅 8号機のアルエット]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の列車は、11時45分発、快速、東京行きです。この列車は4つドア、10両です。次は、相模湖に止まります〕
アルエットはブルーのブラウスにリボン、スカートといった女子中高生の制服にも似た服を着ている。
「お嬢様……。お見送りは、ここで失礼致します」
「ええ。ありがとう」
アルエットの横には、従姉のシンディもかくやと思うくらいの背の高いメイドロボットがいた。
右目が前髪に隠れており、背中まであるロングヘアーは薄紫色である。
メイドロボットと言っても、明らかに目立つメイド服を着ているわけではない。
七海や一海などの“海組”が快活な性格なのに対し、こちらのメイドロボットは随分とクールである。
〔まもなく2番線に、快速、東京行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この電車は4つドア、10両です。次は、相模湖に止まります〕
「私はドクターの御昼食を作らなくてはなりませんので。くれぐれも、お気をつけて……」
「うん」
銀色ステンレスにオレンジ・バーミリオンの帯を巻いた電車が入線してくる。
〔ふじの〜、藤野〜。ご乗車、ありがとうございます〕
ドアは自動で開かず、ドア横のボタンを押してドアを開ける。
ロイドにも大敵な夏の熱気だが、電車内は冷房が効いていた。
〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕
一部の開いたドアだけが閉まると、電車は走り出した。
電車が動き出すと、アルエットを見送りに来たメイドロボットが深々と頭を下げた。
〔次は、相模湖です〕
(博士はダニエラがいるから、寂しくないか……)
“海組”メイドロボにも、ある程度の戦闘力はあるらしいが、いつの間にか作られていたダニエラの戦闘力がどの程度かは分からない。
ただ、無から作られたわけではなく、中古のロイドを引き取って改造したとのことだ。
あれだって相当の完成度だと思うが、あくまで今回はマルチタイプの展示イベントであって、メイドロボットではない。
メイドロボットも出ることは出るそうだが、あくまでメインはマルチタイプだ。
空いている席に座り、前にキャリーバッグを置くアルエット。
半袖とはいえ、二の腕は隠れているので、そこに記された『8』という数字は見えない。
周りの乗客も、女子中高生が乗っている程度にしか思っていないだろう。
しかし実態は、やろうと思えばテロ・ロボットを使役することができる新型マルチタイプである。
敷島の渾身の願い出により、ようやくアルエットの展示も認められた。
但し、製作者である達夫は老体を理由に、仙台まで行かない。
アルエットを単独で行かせるが、けして勝手に手を出してはいけないとのことだった。
旧型とは違い、常に細かいメンテを必要としないとのことである。
[同日13:23.JR東京駅・コンコース アルエット、敷島孝夫、シンディ、鏡音リン・レン]
新型マルチタイプを乗せた快速電車が、東京駅の1番西側のホームに入る。
山梨県から来た電車だが、けして都内に入ると、必ずしも特快になるわけではない。
電車を降りると、シンディが送信している信号に従って、待ち合わせ場所に向かった。
「おー、ちゃんと迷わずに来れたな。確かに人間相手より楽だぜ」
敷島は感心したように言った。
「こんにちは、アルエット」
「こんにちは。3号機のシンディ……姉さん」
「いいよ。いちいち3号機は付けなくて。機械みたいじゃない」
「いや、機械だろ!」
「社長、ナイス・ツッコミ!」
リンがパチパチ手を叩く。
有名人になったというのに、他のボーカロイドよりも大した変装はしていない。
レンが白いワイシャツに黒いベスト、黄色いネクタイを着けているのに対し、リンはトレードマークである頭の大きな白いリボンを取ろうとしなかった。
「とにかく、新幹線乗り場に行くぞ」
「はーい」
[同日14:05.JR東京駅・東北新幹線ホーム 上記メンバー]
〔22番線に停車中の電車は、14時20分発、“はやぶさ”23号、新青森行きと“こまち”23号、秋田行きです。……〕
折り返し運転による車内整備の為、ホームで待つ敷島達。
並んでいる場所は、グリーン車やグランクラスではなかった。
〔「“はやぶさ”号と“こまち”号は全車指定席です。自由席車両はございません。自由席特急券ではご乗車になれませんので、ご注意ください」〕
「はい、ターッチ!」
「こ、こう?」
リンがノリノリで『情報交換』を行う。
ロイドの右手の掌には赤外線通信を行うレンズが付いており、これでロイド達は互いに“挨拶”しているのである。
犬同士が互いの尻を嗅ぎ合うのと、理屈は似ている。
「んー、鏡音リン、よろしくね。ボーカロイドの2号機だYo」
「ボクは鏡音レン。よろしく」
「マルチタイプ8号機のアルエット……だよ」
設定年齢がほぼ同じということもあってか、すぐに打ち解けそうな感じだ。
特にリンが性格設定上、積極的である。
「アルエットかぁ……。んー……」
リンは考え込む仕草をした。
「な、なに?」
アルエットが一瞬、不安そうな顔をする。
そしてリンは、
「じゃあ、アルるんだね!」
「あ、アルるん……?」
「リンは誰にでもニックネームを付けたがるからな」
敷島は手持ちの扇子で扇ぎながら苦笑した。
その扇子には、ミクの公式イラストが描かれている。
何気に、敷島エージェンシーの広告だったりする。
「ミクは『みくみく』、ルカは『ルカ姉(ねぇ)』、MEIKOは『MEIKOりん』、KAITOは『KAITOっと』か」
レンも続いて言う。
「一海さんは『かずちゃん』で、プロデューサーは『兄ちゃん』です」
「ははは……。財団の頃は、俺が『兄ちゃん』だったんだがな……。まあ、もうそんな歳じゃないし」
発車の5分前にはようやく整備が終わり、敷島達は車中の人物となる。
「おお〜、涼しい!」
「リンとレンは、2人席で仲良く座ってな」
「はーい!」
「社長は上座へどうぞ」
「いや、色々電話も掛かって来るから通路側でいいよ。ヘタに窓側に座って、外から銃撃されたらたまらん」
「さすがのアタシも、時速320キロで走行中の列車をピンポイントで狙撃する性能は持ち合わせてないねぇ……」
さすがの“ゴルゴ13”も、時速60キロで走行するバンコクのスカイトレインしか狙撃できないようである。
「プロデューサーからの電話なら、アタシが受けとくよ」
「いや、井辺君とはLINEでやるからいいよ」
「えー!リン、もっとアルるんとお話ししたーい」
「あ、そうか」
敷島はポンと手を叩いた。
〔「ご案内致します。この電車は14時20分発、東北新幹線“はやぶさ”23号、新青森行きと秋田新幹線“こまち”23号、秋田行きでございます。停車駅は上野、大宮、仙台、盛岡、八戸、終点の新青森の順に止まります。“こまち”号は盛岡を出ますと、田沢湖、角館(かくのだて)、大曲、終点秋田の順に止まります。全車両指定席で、自由席はございません。お手持ちの特急券の座席番号をご確認の上、指定の席にお掛けください。号車番号は車内出入り口上に表示されております。お乗り間違えの無いよう、ご注意ください。お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕
2人席に敷島とシンディ、3人席にリン、レン、アルエットが座ったのだった。
これにて一件落着、列車は定刻通りに東京駅を発車した。