[7月17日17:00.天候:晴 仙台市内FMラジオ局 鏡音リン・レン]
「皆さん、こんばんは!DJスクエアの『伊達Naイブニング』のお時間です。本日は早速、素晴らしいゲストをお招きしております。只今絶好調、ボーカロイド初音ミクの兄弟分で、双子キャラで売り出し中の鏡音リンちゃんとレン君です。どうぞ!」
「こんばんはー!」
「イェーイ!パフパフー!」
レンは元気に答えたが、リンはもっとノリノリだ。
「明日からの3連休、仙台市科学館で行われる特別イベント“ガイノイドの全て”の一環で、台原森林公園の野外音楽堂でボーカロイドの皆さんが日替わりでライブを行います。明日の初日はこちらの鏡音リンちゃんとレン君がトップバッターを張り切って務めるということで、今回そのPRで来て頂きました。リンちゃん、どういうライブになるのか、ちょいとここで紹介しちゃってくれるかな?」
「はーい!スクエアさんの言う通り、マルチタイプのお姉ちゃん達の特別展示イベントに関係して行われる、リン達の特別ライブだよ!ミニライブだからそんなに長い時間やらないけど、明日のこの時間、夕方5時からリン達の持ち歌をできる限り一杯歌っちゃいます!」
「ありがとうございます。スクエアはリンちゃんの出ていたドラマ、“ぜんまい仕掛けの子守唄”のテーマソングが好きなんだけど、それも歌ってくれるのかな?」
「そこはあえて、ボクが歌わせてもらうことになりました」
「おおっ!こりゃまた斬新だね!実はこのスタジオでも、1曲披露してもらうことになっております。曲の紹介をまずはお願いします」
「はい。……」
[同日同時刻 仙台市青葉区・仙台市科学館 敷島孝夫、平賀太一、1号機のエミリー、3号機のシンディ、8号機のアルエット]
敷島とシンディは科学館に行き、そこで平賀やエミリーと合流した。
シンディとエミリーは再会を喜んで握手するだけでなく、ハグまでするほどだった。
ボディこそは交換したものの、事実上、現役で稼働しているマルチタイプはこの2機しかいないからだ。
7号機のレイチェルは『復元』であり、8号機のアルエットはシリーズ最新型だ。
「ほら、アルエット。姉さんに挨拶して」
アルエットは身長が20センチ近くも上の従姉達を前に緊張していた。
「は、8号機のアルエットです!よろしくお願いします!」
そんな従妹を前にエミリーはにこやかに笑うと、
「私は・1号機の・エミリー。よろしく」
そして右手を取り、互いの赤外線センサーを合わせた。
「? 喋り方が……?」
「そう。エミリー姉さんだけ、旧態依然の言語ソフトのまま。何かね、製作者……ドクター南里なんだけど、それの遺言なんだって」
「シリーズは・違えど・あなたも・マルチタイプ。仲良く・しましょう」
「は、はい!」
「姉さん。アルエットはアタシ達のフルモデルチェンジであって、シリーズ外ではないと思うけど?腕の番号も連番だし」
ノースリーブの服を着ているエミリーとシンディは、右の二の腕にペイントされた数字が剥き出しだ。
アルエットは半袖のブラウスを着ているので、それで隠れているが、捲り上げてみると、ちゃんとローマ数字がペイントされている。
エミリーは頷いた。
「そうか。では・訂正する。私達・よりも・新型モデル・なのだから・明日の・イベントは・よろしく」
「はい。私達、何をすればいいんでしょう?」
「あ、そうそう。アタシも気になってた。お茶の接待でもすればいいの?社長」
「メイドロボットじゃないんだから……」
と、敷島は苦笑い。
「まあ、それもしてもらうこともあるかもしれないけど。取りあえず、そこに立ってくれ」
と、お立ち台を指さした。
「アタシ達が乗っかっても大丈夫かしら?アタシの自重200キロだよ?」
「私は・150キロ・です」
「アルエットは?だいぶ軽いでしょ?」
「な、75キロ……です」
「私の・半分か」
その話を聞いた平賀が目を丸くして、
「ボーカロイド並みだな。よくマルチタイプで、そこまで軽量化したものだ。その代わり、耐久性は弱くなってるのか?」
「平賀博士。アルエットをレンタルする代わりに、何も手をつけてはいけないって約束よ」
シンディが右手を腰にやって言った。
「分かってるよ。とにかく、そのお立ち台に上がってくれ」
エミリーとシンディが上がっても大丈夫な感じだ。
だが、
「…………」
アルエットが乗っかると、スカートが短いので、それを気にする必要があった。
スカートの裾を押さえていて、何もできない状態だ。
「ミクの衣装だと、パンチラ上等なのにねぇ……」
シンディはアルエットをお立ち台から下ろしながら言った。
「ボーカロイドじゃなくて、マルチタイプです……」
「アルエットがお立ち台に立つのは、スカートじゃなくてパンツの時にしよう。それまではこの辺で、来館者にパンフレットでも配ってもらおう」
[同日19:00.仙台市地下鉄南北線・旭ヶ丘駅→南行電車内 敷島孝夫、シンディ、アルエット]
半地下のホームで電車を待つ。
旭ヶ丘駅のホームからは台原森林公園が見え、いかにも地上に駅があるかのように見えるが、実際は地下である。
名前の通り、台地や丘に位置する為、掘り下げられた部分に公園やホームがあるだけである。
ちょっと小じゃれたビルなんかでも、地下1階なのに中庭があったりするだろう?
1階部分から掘り下げて作った庭だ。
それと似たようなものである。
まあ、元々が地形的にそういう所という部分が大きいのだが。
〔1番線に、富沢行き電車が到着します。……〕
敷島達は細かい打ち合わせを終え、ホテルに戻ることにした。
リンとレンはラジオ局での仕事を終え、既にホテルに戻っている。
4両編成の電車がやってくると、3人は電車に乗り込んだ。
敷島は着席したが、シンディは立っている。
「人間の席だから、アタシ達は基本立っていること。ね?」
「はい」
〔1番線から、富沢行き電車が発車します。ドアが閉まります〕
チャイムのような発車メロディが鳴ると、電車のドアが閉まり、一呼吸置いてホームドアが閉まる。
東日本では当たり前だが、西日本ではその逆で、ホームドアの方が先に閉まるらしい。
電車が走り出す。
〔次は台原(だいのはら)、台原です。台原森林公園南口は、こちらです。……〕
「今のところ、7号機のレイチェルの動きは分からないね」
「トレスできないか?」
「積極的にやると、アタシ達の居場所もバレるからね」
「多分、もう既にバレていると思うからいいんじゃないか?」
「そう?だけど、GPSは切ってるみたいだね」
「てことは、奇襲もあり得るわけか……。あいつも狙撃が得意だったな?」
「ええ」
しばらく車窓には台原森林公園が映っていたが、それも無くなり、黒いコンクリートの壁に白い蛍光灯が映るだけの、ベタな地下鉄トンネルの法則状態になる。
「地下なら狙撃できないし、ホテルにいる時は、なるべくカーテンを閉めておいた方がいいね」
「でもサーモグラフィとかで分かるんじゃないか?」
「レイチェルがどれだけの精度を持っているかだね。この前の記念館の時のみたいに、100メートルも離れたんじゃ、さすがにサーモグラフィは使えないと思う」
「なるほどな。アルエットも光線銃だろう?どれくらいの命中精度がある?……ああ、いや!試さなくていい!」
「どうも試し撃ちしないで取り付けられたみたいだから、本人もよく分かっていないみたいだよ」
「マジか」
敵がどこにいるか分からないという不安な状態のまま、明日のイベントを迎えることになりそうである。
「皆さん、こんばんは!DJスクエアの『伊達Naイブニング』のお時間です。本日は早速、素晴らしいゲストをお招きしております。只今絶好調、ボーカロイド初音ミクの兄弟分で、双子キャラで売り出し中の鏡音リンちゃんとレン君です。どうぞ!」
「こんばんはー!」
「イェーイ!パフパフー!」
レンは元気に答えたが、リンはもっとノリノリだ。
「明日からの3連休、仙台市科学館で行われる特別イベント“ガイノイドの全て”の一環で、台原森林公園の野外音楽堂でボーカロイドの皆さんが日替わりでライブを行います。明日の初日はこちらの鏡音リンちゃんとレン君がトップバッターを張り切って務めるということで、今回そのPRで来て頂きました。リンちゃん、どういうライブになるのか、ちょいとここで紹介しちゃってくれるかな?」
「はーい!スクエアさんの言う通り、マルチタイプのお姉ちゃん達の特別展示イベントに関係して行われる、リン達の特別ライブだよ!ミニライブだからそんなに長い時間やらないけど、明日のこの時間、夕方5時からリン達の持ち歌をできる限り一杯歌っちゃいます!」
「ありがとうございます。スクエアはリンちゃんの出ていたドラマ、“ぜんまい仕掛けの子守唄”のテーマソングが好きなんだけど、それも歌ってくれるのかな?」
「そこはあえて、ボクが歌わせてもらうことになりました」
「おおっ!こりゃまた斬新だね!実はこのスタジオでも、1曲披露してもらうことになっております。曲の紹介をまずはお願いします」
「はい。……」
[同日同時刻 仙台市青葉区・仙台市科学館 敷島孝夫、平賀太一、1号機のエミリー、3号機のシンディ、8号機のアルエット]
敷島とシンディは科学館に行き、そこで平賀やエミリーと合流した。
シンディとエミリーは再会を喜んで握手するだけでなく、ハグまでするほどだった。
ボディこそは交換したものの、事実上、現役で稼働しているマルチタイプはこの2機しかいないからだ。
7号機のレイチェルは『復元』であり、8号機のアルエットはシリーズ最新型だ。
「ほら、アルエット。姉さんに挨拶して」
アルエットは身長が20センチ近くも上の従姉達を前に緊張していた。
「は、8号機のアルエットです!よろしくお願いします!」
そんな従妹を前にエミリーはにこやかに笑うと、
「私は・1号機の・エミリー。よろしく」
そして右手を取り、互いの赤外線センサーを合わせた。
「? 喋り方が……?」
「そう。エミリー姉さんだけ、旧態依然の言語ソフトのまま。何かね、製作者……ドクター南里なんだけど、それの遺言なんだって」
「シリーズは・違えど・あなたも・マルチタイプ。仲良く・しましょう」
「は、はい!」
「姉さん。アルエットはアタシ達のフルモデルチェンジであって、シリーズ外ではないと思うけど?腕の番号も連番だし」
ノースリーブの服を着ているエミリーとシンディは、右の二の腕にペイントされた数字が剥き出しだ。
アルエットは半袖のブラウスを着ているので、それで隠れているが、捲り上げてみると、ちゃんとローマ数字がペイントされている。
エミリーは頷いた。
「そうか。では・訂正する。私達・よりも・新型モデル・なのだから・明日の・イベントは・よろしく」
「はい。私達、何をすればいいんでしょう?」
「あ、そうそう。アタシも気になってた。お茶の接待でもすればいいの?社長」
「メイドロボットじゃないんだから……」
と、敷島は苦笑い。
「まあ、それもしてもらうこともあるかもしれないけど。取りあえず、そこに立ってくれ」
と、お立ち台を指さした。
「アタシ達が乗っかっても大丈夫かしら?アタシの自重200キロだよ?」
「私は・150キロ・です」
「アルエットは?だいぶ軽いでしょ?」
「な、75キロ……です」
「私の・半分か」
その話を聞いた平賀が目を丸くして、
「ボーカロイド並みだな。よくマルチタイプで、そこまで軽量化したものだ。その代わり、耐久性は弱くなってるのか?」
「平賀博士。アルエットをレンタルする代わりに、何も手をつけてはいけないって約束よ」
シンディが右手を腰にやって言った。
「分かってるよ。とにかく、そのお立ち台に上がってくれ」
エミリーとシンディが上がっても大丈夫な感じだ。
だが、
「…………」
アルエットが乗っかると、スカートが短いので、それを気にする必要があった。
スカートの裾を押さえていて、何もできない状態だ。
「ミクの衣装だと、パンチラ上等なのにねぇ……」
シンディはアルエットをお立ち台から下ろしながら言った。
「ボーカロイドじゃなくて、マルチタイプです……」
「アルエットがお立ち台に立つのは、スカートじゃなくてパンツの時にしよう。それまではこの辺で、来館者にパンフレットでも配ってもらおう」
[同日19:00.仙台市地下鉄南北線・旭ヶ丘駅→南行電車内 敷島孝夫、シンディ、アルエット]
半地下のホームで電車を待つ。
旭ヶ丘駅のホームからは台原森林公園が見え、いかにも地上に駅があるかのように見えるが、実際は地下である。
名前の通り、台地や丘に位置する為、掘り下げられた部分に公園やホームがあるだけである。
ちょっと小じゃれたビルなんかでも、地下1階なのに中庭があったりするだろう?
1階部分から掘り下げて作った庭だ。
それと似たようなものである。
まあ、元々が地形的にそういう所という部分が大きいのだが。
〔1番線に、富沢行き電車が到着します。……〕
敷島達は細かい打ち合わせを終え、ホテルに戻ることにした。
リンとレンはラジオ局での仕事を終え、既にホテルに戻っている。
4両編成の電車がやってくると、3人は電車に乗り込んだ。
敷島は着席したが、シンディは立っている。
「人間の席だから、アタシ達は基本立っていること。ね?」
「はい」
〔1番線から、富沢行き電車が発車します。ドアが閉まります〕
チャイムのような発車メロディが鳴ると、電車のドアが閉まり、一呼吸置いてホームドアが閉まる。
東日本では当たり前だが、西日本ではその逆で、ホームドアの方が先に閉まるらしい。
電車が走り出す。
〔次は台原(だいのはら)、台原です。台原森林公園南口は、こちらです。……〕
「今のところ、7号機のレイチェルの動きは分からないね」
「トレスできないか?」
「積極的にやると、アタシ達の居場所もバレるからね」
「多分、もう既にバレていると思うからいいんじゃないか?」
「そう?だけど、GPSは切ってるみたいだね」
「てことは、奇襲もあり得るわけか……。あいつも狙撃が得意だったな?」
「ええ」
しばらく車窓には台原森林公園が映っていたが、それも無くなり、黒いコンクリートの壁に白い蛍光灯が映るだけの、ベタな地下鉄トンネルの法則状態になる。
「地下なら狙撃できないし、ホテルにいる時は、なるべくカーテンを閉めておいた方がいいね」
「でもサーモグラフィとかで分かるんじゃないか?」
「レイチェルがどれだけの精度を持っているかだね。この前の記念館の時のみたいに、100メートルも離れたんじゃ、さすがにサーモグラフィは使えないと思う」
「なるほどな。アルエットも光線銃だろう?どれくらいの命中精度がある?……ああ、いや!試さなくていい!」
「どうも試し撃ちしないで取り付けられたみたいだから、本人もよく分かっていないみたいだよ」
「マジか」
敵がどこにいるか分からないという不安な状態のまま、明日のイベントを迎えることになりそうである。