[7月19日12:00.天候:雨 十条達夫の家 レイチェル]
「エエッ!?一旦退ク!?」
「そうだ」
レイチェルは配下のバージョン4.0が発見した地下室へのドアをこじ開けようとした。
厚さ1メートルの鉄扉、バージョン達にはお手上げであったが、レイチェルのようなマルチタイプが本気を出せばこじ開けられると思われた。
「レイチェル様デアッテモ、コジ開ケハ不可能ダト!?」
「頑張れば不可能ではないけど、せっかくだから猶予を与えてあげましょう」
「猶予?」
「そう。そして、こっちは確実にあのドアを開けられる方法を探す。……といっても、もう方法は考えてるけど。私だって、無駄なエネルギーは使いたくないからね」
「デ、具体的ニハドノヨウナ?」
「私達のベースキャンプに、35号が持って来たプラスチック爆弾があるでしょう?あれを使いましょう」
「デスガ、コノ大雨デハ爆弾ガ濡レテシマイマス」
「だからぁ、雨が止むまで待ってあげるの」
「コノ雨ハ、ゲリラ豪雨デハアリマセン。台風ノ接近ニ伴ウモノデス。関東近県ハギリギリ逸レテ、西日本ヘ向カウヨウデスガ、恐ラク今日一杯ハ雨カト……」
「それでいいじゃない。今日は何曜日?」
「日曜!オ休ミデス!」
「このドアホ!ロボットに土曜も日曜も無い!月月火水木金金があるのみ!……だから、日曜日お休みの伝助博士に代わって、私達が動いているわけ。恐らく今日に関しては、伝助博士も私達に全て任せっきりにして下っているはず」
「デハ……」
「雨が止む予報は今夜の夜半から未明に掛けてだったわね?」
「ソウデス」
「では、その時に仕掛けましょう。明日、良いご報告ができれば、伝助博士も文句は無いわ」
「ハハッ」
「というわけで、一旦ベースキャンプに退く。全員、正面玄関まで集合して!」
「アラホラサッサー!」
「総員、正面入口ヘ集合!」
「レイチェル様ノ御命令ダ!捜索ハ一旦中止!直チニ、正面入口ヘ集マレ!」
先に配下のバージョン4.0達を外に出し、最後にレイチェルが地下室入口から地上に上がる階段を登った。
そして振り向くと、
(どうか、この間に逃げて……)
と、願ったのだった。
[同日同時刻 天候:曇 仙台市科学館・レストラン 敷島孝夫&平賀太一]
一緒に昼食を取る敷島と平賀。
「いらっしゃいませー!レストラン“ウイング”へようこそ!メニューをどうぞ!」
メイド服を着たメイドロボットがやってくる。
で、見覚えがあった。
「六海!?何でここに?新宿のカフェにいるはずじゃ?」
「ふっふっふー。事務所のオーナーが、このイベントに潜り込ませてくれたのです。“ガイノイドの全て”の中に、メイドロボットも含まれているということをアピールする為に!」
「そ、そうか。財団無き後、俺がボカロ専門プロダクション作ったのと同時に、メイドロボットやセキュリティロボットの派遣会社を作った人もいたんだっけ」
「結構、需要があるようです」
実は平賀もその派遣会社に、メイドロボットを送り込んでいるクチだ。
敷島の事務所にいる一海や、直接敷島の家で息子の子守りをしている二海などは平賀の直接所有であり、そこから借りているわけだが……。
多くは派遣会社に買い取られて、しっかり派遣されているという。
「俺より商売上手な人がいるんですね。今度会ってみたいなー」
「何気にここにしたりして?(……ってか、敷島さんもなかなか商売上手だと思いますけど……)」
「六海、本当か?」
「いえ、あいにくとオーナーは東京にいます。オーナーもお忙しいですよ」
「なるほどなぁ……。あ、俺はビーフカレー」
「自分はミートソース。食後にアイスコーヒー」
「俺も食後にアイスコーヒーを頼む」
「はい、かしこまりましたー!」
六海が立ち去ると、敷島はグラスの水に口を付けた。
「ここまでは順調ですね」
「ええ」
「レイチェル達、何も攻撃してこないですね」
「今日は日曜日です。伝助博士も、安息日とかで休んでいるのでしょう」
「本当に伝助博士はクリスチャンなんですか?どうも達夫博士の話しぶりでは、仏教系に見えるんですが……」
「しかし、KR団は元はキリスト教の一新興宗教団体だったわけでしょう?『人間は神が作った』と謳う宗教です。それが、『人間の分際で人間を作るのは何事だ!』ということで、自分達がアンドロイド(スマホじゃなくて、人間型ロボットのこと)を作って実用化させることに猛反対している」
「伝助博士だって反対される側の人間だったのに、反対する側の宗教に入るなんておかしいですよ。だいたい、鷲田警視率いる警察隊でさえ、KR団の宗教施設を1つも押さえることができないなんて」
「それで敷島さんは、KR団は実はキリスト教ではなく、仏教だと?」
「達夫博士が仏教徒だったので、もしかしたら……と思ったんです。シンディがレイチェルと組み付いた時に奪い取った情報からして、レイチェルは達夫博士が保管している仏像……いや、仏像ではないと言っていたけど、とにかくそれに近い何かを強奪するように命令されていたそうです」
「うーむ……。こりゃひょっとして、十条兄弟の仲違いの理由って、研究性の違いではなく、宗教の違いが原因なんじゃ……?」
「えっ?」
「それなら、兄弟同士殺し合う理由も納得できる。宗教って、そういうものでしょう?」
と、平賀は侮蔑するような顔で言った。
「敷島さんも、イスラム教のテロに遭ったそうじゃありませんか。その時、自爆テロ犯が爆弾を爆発させた場所は、違う派閥……スンニ派だかシーア派だか分かりませんが、そこに所属してる自爆テロ犯の兄弟が働いている場所だったということでしたね?」
「ええ」
(※スピンオフ“敷島孝夫の物語”より。敷島がどうしてアリスと結婚したかの経緯も書かれていますが、多摩準急先生著作のため、公開していません)
「同じ宗教でも、派閥が違うだけで兄弟が殺し合うこともあるわけです。十条兄弟も、正にそういうくだらない理由なのでしょう」
「……かもしれません」
「どちらがどちらの宗教の肩入れすることはありませんが、達夫博士がそれで殺されるようなことがあってはならないと思います」
「ええ。このイベントが終わったら、アルエットを返しに行きます。もう1度その時、達夫博士に会ってみますよ。シンディを護衛に連れて行けば、レイチェルが襲って来ても大丈夫。また相模湖の湖底に沈めてくれるでしょう」
因みにその戦いで、相模湖の湖底からドラム缶にコンクリート詰めにされた死体が発見された。
レイチェルが湖底から這い出た際、ついでに持って来たらしい。
で、警察の捜査により、先日、犯人である暴力団員が逮捕された。
今現在取り調べが行われているが、日本の警察のことだ。
その組事務所にガサ入れを行うのは必至であろう。
シンディ、ついにヤクザ事務所を潰す活躍までしているようだ。
シンディのようにかつての罪を贖罪し続ける個体がいる一方で、レイチェルのように更に罪を重ねる個体もいる。
「レイチェルは破壊処分ですか?」
「恐らくそうなるはず。もし敷島さんの弁護があれば、自分は黙っていますよ」
「いや、弁護も何も、もう既に色々とやらかしているようですからね。できれば私も、シンディみたいに贖罪の機会を与えてやりたいところですが……」
敷島達の慈悲、それが報われることがあるのだろうか?
「エエッ!?一旦退ク!?」
「そうだ」
レイチェルは配下のバージョン4.0が発見した地下室へのドアをこじ開けようとした。
厚さ1メートルの鉄扉、バージョン達にはお手上げであったが、レイチェルのようなマルチタイプが本気を出せばこじ開けられると思われた。
「レイチェル様デアッテモ、コジ開ケハ不可能ダト!?」
「頑張れば不可能ではないけど、せっかくだから猶予を与えてあげましょう」
「猶予?」
「そう。そして、こっちは確実にあのドアを開けられる方法を探す。……といっても、もう方法は考えてるけど。私だって、無駄なエネルギーは使いたくないからね」
「デ、具体的ニハドノヨウナ?」
「私達のベースキャンプに、35号が持って来たプラスチック爆弾があるでしょう?あれを使いましょう」
「デスガ、コノ大雨デハ爆弾ガ濡レテシマイマス」
「だからぁ、雨が止むまで待ってあげるの」
「コノ雨ハ、ゲリラ豪雨デハアリマセン。台風ノ接近ニ伴ウモノデス。関東近県ハギリギリ逸レテ、西日本ヘ向カウヨウデスガ、恐ラク今日一杯ハ雨カト……」
「それでいいじゃない。今日は何曜日?」
「日曜!オ休ミデス!」
「このドアホ!ロボットに土曜も日曜も無い!月月火水木金金があるのみ!……だから、日曜日お休みの伝助博士に代わって、私達が動いているわけ。恐らく今日に関しては、伝助博士も私達に全て任せっきりにして下っているはず」
「デハ……」
「雨が止む予報は今夜の夜半から未明に掛けてだったわね?」
「ソウデス」
「では、その時に仕掛けましょう。明日、良いご報告ができれば、伝助博士も文句は無いわ」
「ハハッ」
「というわけで、一旦ベースキャンプに退く。全員、正面玄関まで集合して!」
「アラホラサッサー!」
「総員、正面入口ヘ集合!」
「レイチェル様ノ御命令ダ!捜索ハ一旦中止!直チニ、正面入口ヘ集マレ!」
先に配下のバージョン4.0達を外に出し、最後にレイチェルが地下室入口から地上に上がる階段を登った。
そして振り向くと、
(どうか、この間に逃げて……)
と、願ったのだった。
[同日同時刻 天候:曇 仙台市科学館・レストラン 敷島孝夫&平賀太一]
一緒に昼食を取る敷島と平賀。
「いらっしゃいませー!レストラン“ウイング”へようこそ!メニューをどうぞ!」
メイド服を着たメイドロボットがやってくる。
で、見覚えがあった。
「六海!?何でここに?新宿のカフェにいるはずじゃ?」
「ふっふっふー。事務所のオーナーが、このイベントに潜り込ませてくれたのです。“ガイノイドの全て”の中に、メイドロボットも含まれているということをアピールする為に!」
「そ、そうか。財団無き後、俺がボカロ専門プロダクション作ったのと同時に、メイドロボットやセキュリティロボットの派遣会社を作った人もいたんだっけ」
「結構、需要があるようです」
実は平賀もその派遣会社に、メイドロボットを送り込んでいるクチだ。
敷島の事務所にいる一海や、直接敷島の家で息子の子守りをしている二海などは平賀の直接所有であり、そこから借りているわけだが……。
多くは派遣会社に買い取られて、しっかり派遣されているという。
「俺より商売上手な人がいるんですね。今度会ってみたいなー」
「何気にここにしたりして?(……ってか、敷島さんもなかなか商売上手だと思いますけど……)」
「六海、本当か?」
「いえ、あいにくとオーナーは東京にいます。オーナーもお忙しいですよ」
「なるほどなぁ……。あ、俺はビーフカレー」
「自分はミートソース。食後にアイスコーヒー」
「俺も食後にアイスコーヒーを頼む」
「はい、かしこまりましたー!」
六海が立ち去ると、敷島はグラスの水に口を付けた。
「ここまでは順調ですね」
「ええ」
「レイチェル達、何も攻撃してこないですね」
「今日は日曜日です。伝助博士も、安息日とかで休んでいるのでしょう」
「本当に伝助博士はクリスチャンなんですか?どうも達夫博士の話しぶりでは、仏教系に見えるんですが……」
「しかし、KR団は元はキリスト教の一新興宗教団体だったわけでしょう?『人間は神が作った』と謳う宗教です。それが、『人間の分際で人間を作るのは何事だ!』ということで、自分達がアンドロイド(スマホじゃなくて、人間型ロボットのこと)を作って実用化させることに猛反対している」
「伝助博士だって反対される側の人間だったのに、反対する側の宗教に入るなんておかしいですよ。だいたい、鷲田警視率いる警察隊でさえ、KR団の宗教施設を1つも押さえることができないなんて」
「それで敷島さんは、KR団は実はキリスト教ではなく、仏教だと?」
「達夫博士が仏教徒だったので、もしかしたら……と思ったんです。シンディがレイチェルと組み付いた時に奪い取った情報からして、レイチェルは達夫博士が保管している仏像……いや、仏像ではないと言っていたけど、とにかくそれに近い何かを強奪するように命令されていたそうです」
「うーむ……。こりゃひょっとして、十条兄弟の仲違いの理由って、研究性の違いではなく、宗教の違いが原因なんじゃ……?」
「えっ?」
「それなら、兄弟同士殺し合う理由も納得できる。宗教って、そういうものでしょう?」
と、平賀は侮蔑するような顔で言った。
「敷島さんも、イスラム教のテロに遭ったそうじゃありませんか。その時、自爆テロ犯が爆弾を爆発させた場所は、違う派閥……スンニ派だかシーア派だか分かりませんが、そこに所属してる自爆テロ犯の兄弟が働いている場所だったということでしたね?」
「ええ」
(※スピンオフ“敷島孝夫の物語”より。敷島がどうしてアリスと結婚したかの経緯も書かれていますが、多摩準急先生著作のため、公開していません)
「同じ宗教でも、派閥が違うだけで兄弟が殺し合うこともあるわけです。十条兄弟も、正にそういうくだらない理由なのでしょう」
「……かもしれません」
「どちらがどちらの宗教の肩入れすることはありませんが、達夫博士がそれで殺されるようなことがあってはならないと思います」
「ええ。このイベントが終わったら、アルエットを返しに行きます。もう1度その時、達夫博士に会ってみますよ。シンディを護衛に連れて行けば、レイチェルが襲って来ても大丈夫。また相模湖の湖底に沈めてくれるでしょう」
因みにその戦いで、相模湖の湖底からドラム缶にコンクリート詰めにされた死体が発見された。
レイチェルが湖底から這い出た際、ついでに持って来たらしい。
で、警察の捜査により、先日、犯人である暴力団員が逮捕された。
今現在取り調べが行われているが、日本の警察のことだ。
その組事務所にガサ入れを行うのは必至であろう。
シンディ、ついにヤクザ事務所を潰す活躍までしているようだ。
シンディのようにかつての罪を贖罪し続ける個体がいる一方で、レイチェルのように更に罪を重ねる個体もいる。
「レイチェルは破壊処分ですか?」
「恐らくそうなるはず。もし敷島さんの弁護があれば、自分は黙っていますよ」
「いや、弁護も何も、もう既に色々とやらかしているようですからね。できれば私も、シンディみたいに贖罪の機会を与えてやりたいところですが……」
敷島達の慈悲、それが報われることがあるのだろうか?