報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「鳴子中央ホテル」 2

2019-09-01 21:14:08 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月23日16:00.天候:曇 宮城県大崎市鳴子温泉 鳴子中央ホテル(架空のホテル)2F大浴場・女湯]

 ※本来この作品は愛原の一人称で進む設定ですが、読者諸兄の御要望に応じ、女湯のシーンのみ三人称と致します。

 高野:「はぁ〜、たまにはこういう温泉もいいよねぇ……」
 斉藤:「高野……さん?」
 高野:「なぁに?愛原学探偵事務所の事務のお姉さんこと、高野芽衣子ですよ」
 斉藤:「背中の傷痕とか凄い……」
 高野:「!!!」
 斉藤:「何かあったの?」
 高野:「こ、これはね、霧生市のバイオハザード事件を生き抜いた痕なのよ!いや〜、あの町じゃ、私もゾンビに囲まれた時には死ぬかと思ったね!」
 斉藤:「ふーん……」
 高野:「それをいうならマサ……あの愛原先生にベッタリのお兄さんだけど、顔に傷痕なんかあったりするでしょ?あれさえ無ければ、ジャニーズ系だったのにねぇ」
 斉藤:「髪も染めていて、何か真面目そうな感じじゃないですね」
 高野:「まあ、根は真面目なんだろうけど、その方向性がね……」
 斉藤:「え?」
 高野:「ううん、何でもない。それより、リサちゃんの背中でも流してあげたら?」
 斉藤:「もえっ!?」
 リサ:「サイトー、背中流してくれる?」
 斉藤:「しょ……しょうがないわねぇ……」

 斉藤、浴槽から出ると洗い場に行き、手持ちのタオルに石鹸を付けた。

 斉藤:「そ、そそ、それじゃ、背中流すからね……?」
 リサ:「ん」

 斉藤、タオルをペトッとリサの赤銅色の背中に当てる。

 斉藤:「や、やわらかい!も、萌えぇぇぇぇぇぇぇぇっ

[同日同時刻 天候:曇 同ホテル大浴場・男湯]

 おっ、やっと私にマイクが回って来た。
 あー、コホンコホン。
 えー、私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 私は今、宿泊先の温泉ホテルの露天風呂に高橋と一緒に入っている。

 高橋:「先生、何かあのレズ女の叫び声が聞こえてきましたが?」
 愛原:「女三人寄れば姦しいって言うからね。旅行で盛り上がることは、いいことだよ」
 高橋:「じゃあ先生、俺達も盛り上がりましょうよ!」
 愛原:「どうするんだよ?」
 高橋:「俺も先生のお背中、お流しします!」
 愛原:「そうか?じゃあ、まあお願いしようかな」
 高橋:「はい、喜んで!何でしたら、全身洗って差し上げますよ!?ウヘヘヘ……!」
 愛原:「変な事しやがったらクビ!分かったか!?」
 高橋:「はーい……」

 私も浴槽から出ると、洗い場に向かった。
 椅子に座ると、高橋が私の後ろに立つ。

 高橋:「それでは失礼して、不肖、私、高橋正義が先生のお背中を流させて頂きます!」
 愛原:「よろしく」

 高橋は私の背中を流し始めた。
 少し不安だったが、なかなか手際がいいな。

 愛原:「さっきの全身洗いの話だけど……」
 高橋:「興味を持たれましたか!?」
 愛原:「いや、俺にやる必要は無いよ?ただ、俺はソープランドのアレをイメージしたんだが、オマエは何をイメージした?」
 高橋:「洗体エステですけど?ま、ソープランド風をお望みでしたら、断固としてお応えして参る決意であります!」
 愛原:「決意せんでいい。あ、そうか、洗体か。そういえばそういうのもあったな。ていうかオマエ、洗体エステ受けたことあるの?」
 高橋:「一応ありますよ。昔、俺に惚れた女が、洗体エステ嬢の仕事で貢いでくれましたから」
 愛原:「はーあ……。何で女ってのは、イケメンってだけでそうなるかねぇ……」
 高橋:「いや、ほんとマジで俺の所に来る女は頭の悪いバカ女ばっかりでした」
 愛原:「……だろうな」

 そういうわけで、そんな高橋と適当に距離を置く高野君は頭の良い女性だと思う。

 高橋:「しょうがないので、ヤるだけヤってやりましたがね」
 愛原:「ん?オマエ、ゲイじゃないのか?」
 高橋:「あまりにも俺の所に来る女がバカばっかりだったので、いい加減うんざりしていたのです。そんな時、先生という素晴らしい人に出会えて、性別を超えて惚れてしまいました」
 愛原:「ふーん……。俺なんて、しがない三流探偵だぞ?」
 高橋:「そんなことないですよ。少なくとも先生は凡人じゃないです。俺も頭悪いんで上手くは言えないですけど、とにかく俺は先生に付いて行くことが人生最良の選択なんだって思いました」
 愛原:「そうか。でも悪いな。俺はそんなお前に今すぐ応えることができる自信が無い」
 高橋:「大丈夫ですよ。俺が勝手に付いて来てるだけなんで」
 愛原:「そうか」

[同日18:00.天候:雨 同ホテル1Fレストラン]

 風呂から上がった直後、雨が降り出して来た。
 それも、雷付きのゲリラ豪雨だ。
 本当はこの後、夕食の時間まで温泉街を散策したかったのだが、それは諦めることにした。
 何しろ、傘を差して情緒豊かに……というレベルの雨の強さではなかったのである。
 山の天気は変わりやすいとはいうが、まさかこんなゲリラ豪雨がここでも降るとは思わなかった。

 愛原:「それじゃ、乾杯しよう。カンパーイ!」

 私と高橋、高野君はビール。
 リサと斉藤さんはオレンジジュースだった。

 従業員:「失礼します」

 着物姿の従業員がやってきて、御膳の上にある1人用鍋の固形燃料に火を点けた。
 これもまたベタな温泉旅館の法則だな。
 夕食には必ず、固形燃料で温めるタイプの1人用鍋が付いて来るという……。

 愛原:「飲み物は飲み放題なので、ジャンジャン飲んじゃってくださーい」

 因みにこれがただの飲食店の場合、瓶ビールの蓋は必ず外された状態で提供される。
 しかし、宿泊施設の場合は蓋がされたままで、従業員が開けてくれる、または客が自分で栓抜きで開けて飲む場合が殆どだ。
 この違いは何かというと、どうも法律絡みらしい。
 飲食店では酒類の販売が許可されていない為、蓋を開けて提供することにより、販売ではないことを主張しているのだとか……。
 宿泊施設では売店でも売っているし、客室の冷蔵庫でも売っているので、つまり販売の許可が取れている。
 だから、わざわざ宴会でそれを主張する必要無いのだろう。

 高橋:「さすが先生!太っ腹!」
 愛原:「はっはっはー!高橋、褒めても何も出ないぞ」
 高橋:「いえいえ、どうぞどうぞ!」

 高橋は私のグラスにビールを注いでくれた。
 5人だけの宴会はとても盛り上がったと思う。
 だがこの時、私達の元に恐ろしいモノが近づいていようとは、全く想像していなかったのである。
コメント
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