[8月24日05:00.天候:晴 宮城県大崎市 某総合病院]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
クライアントの斉藤社長の依頼で、娘さんを温泉旅行に連れて行ったのだが、そこでバイオハザードに巻き込まれてしまった。
そこでボスキャラとも言える餓鬼を倒した私達は、民間軍事会社アンブレラの手引きで市内の医療機関へ向かった。
特に大ケガしたわけではないのだが、それでもかすり傷くらいは負っているもので、絆創膏が何枚か必要なほどではあった。
一応、ウィルスなどに感染していないかの検査も受けたが、全員が陰性。
但し、斉藤絵恋さんの精神的ダメージは少し大きいようだった。
いきなりのボスキャラの襲撃、それを持ち前の空手技でピヨらせた猛者なのだが、そこはまだ中学生。
ホテルの火災に見舞われた恐怖、おぞましい餓鬼に襲われた恐怖、そしてその周辺に転がっていた惨殺死体の数々を見てしまった恐怖で嘔吐してしまったほどだ。
私は早朝ではあるが、斉藤社長に連絡を取った。
斉藤秀樹:「ああ、愛原さん。今、テレビを点けました。ホテルが惨状に見舞われたのは本当のようですね」
電話の向こうでヘリコプターの音と、緊迫したリポーターの音声が聞こえる。
こういう時、ベタな法則でマスコミはヘリを飛ばして上空からの映像をお送りするものだ。
愛原:「大変でしたよ。色々と化け物に襲われて……」
斉藤:「色々な化け物に襲われて『大変』の一言で済ませる愛原さんは、さすがは歴戦の猛者だ。ということは、娘も無事なんですね?」
愛原:「ええ。どこもケガしていません」
斉藤:「娘を守って頂けたようでありがとうございます。報酬は弾ませてもらいますよ」
愛原:「それは大変助かります。ただ、怖い目に遭ったという事実は消せなくてですね、娘さん、今、処置室で寝込んでいます」
斉藤:「でしょうなぁ……」
愛原:「でも勇敢な娘さんです。実は化け物が娘さんに襲い掛かったのですが、持ち前の空手技で朦朧状態にさせたんですよ。おかげで私達、その化け物を倒すことができました」
斉藤:「おぉ、娘が役に立ちましたか!知り合いの空手家に預けて正解でした!」
愛原:「もしかして社長、娘さんに空手を習わせたのはこれを想定してのことでは?」
斉藤:「はっはははは!さすがの私も、そこまで予知能力はありませんよ。娘には、ボディガード無しで歩けるほどの護身能力を身に付けてもらいたかっただけです」
愛原:「とにかくホテルから貴重品は持ち出せましたが、それ以外のものは置いて来てしまいました。娘さんもああいう状態ですし、旅行は中止にして、なるべく早く帰京を……」
斉藤:「いえ、旅行は続けてください」
愛原:「は?」
斉藤:「娘や皆さんにケガが無いのなら、旅行は続けてください。もちろん、今のホテルに宿泊を続けることは不可能でしょう。仙台市内に新たな宿泊先を探しておきますので、落ち着いたら仙台に向かってください」
愛原:「社長!?」
斉藤:「ニュースの映像から見る限り、7階は延焼していないようです。もしかしたら、荷物を運び出すことができるかもしれませんね。それでは、よろしくお願いしますよ」
そう言って斉藤社長は電話を切った。
全く。大企業家の名前を張るには、これくらいでないといけないのだろうか。
私も経営者であるが、何だかついて行けそうにない。
今度は政府エージェントの善場氏に電話を掛けた。
善場:「愛原さん、お疲れさまです。愛原さんのことですから、恐らく巻き込まれているだろうと思っていましたよ」
愛原:「やっばりか。これは何かの策略ですかな?」
善場:「運命でしょう。愛原さんも、既にこっち側の人間ということです。そしてこっち側に巻き込まれたら、もう戻ることはできないということなんですよ」
愛原:「温泉旅行くらい、ゆっくりしたいものですな!善場さん達も現場に?」
善場:「いえ。BSAAが向かっておりますので、そちらに任せています。どうやら、青いアンブレラがかつての自分達の研究施設の『片付け』をしている最中、ミスをしたようですね」
愛原:「あいつらが何かやらかしたんですか?」
善場:「ダム側と温泉街側で施設を2つに分けていたそうですが、本来なら同時進行しなければならないところ、ダム側の施設を先に片付けようとして、温泉街側の施設が何らかの誤作動を起こしたようです。そのせいで、そこで保管されていたBOWを脱走させてしまうという事態に……」
愛原:「恐ろしいヤツらだ。とんでもねぇ……!」
善場:「こういうのは民間でなく、官主導の方がいいんですが、『民業圧迫ニダ』と叫ぶ……コホン。とにかく、色々と反対意見があるようでして……」
愛原:「斉藤社長からは旅行を続行しろと言われてるんですよ」
善場:「相変わらずな社長さんですねぇ……。いいじゃないですか。旅行代金は全部社長持ちなんでしょう?」
愛原:「まあ、それはそうなんだが……。問題は荷物なんですよ。貴重品は持ち出せたんだけど、その他の荷物がねぇ……。どうやら俺達の泊まる予定だった部屋は無事だったみたいなんだが、何とか荷物を出せないもんかね?」
善場:「分かりました。こちらで何とかしてみます」
愛原:「ありがとう。始発列車で向かうから、それまでに話を付けてもらえると助かる」
善場:「分かりました。……あの、愛原さんはそろそろお気づきですか?」
愛原:「何が?」
善場:「本当の話、どうして愛原さんが旅行先でああいったトラブルに巻き込まれるかの理由……」
愛原:「運命なんでしょう?霧生市のバイオハザードで生き残った者の宿命だってんなら、それもしょうがない」
善場:「そうですか」
愛原:「ま、とにかくもう一度現場に向かってみる。まさか、温泉街そのものが封鎖されてるなんてことは無いよね?」
善場:「それは無いようです。表向きには鳴子中央ホテルがテロに巻き込まれ、それで火災が発生し、それを鎮圧する為に民間軍事会社アンブレラと自衛隊が出動したということになっています」
愛原:「警察を超えて軍隊が出動してる時点で、よく街が封鎖されないもんだよ!」
私はリサと高野君に斉藤さんを見ているように頼むと、高橋を連れてもう一度あのホテルに向かうことにした。
リサは斉藤の手をガッチリ握っている。
リサの献身的な看護で、斉藤さんの傷が回復するといいが……。
さすがのグリーンハーブや救急スプレーも、心のケガまでは回復させられない。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
クライアントの斉藤社長の依頼で、娘さんを温泉旅行に連れて行ったのだが、そこでバイオハザードに巻き込まれてしまった。
そこでボスキャラとも言える餓鬼を倒した私達は、民間軍事会社アンブレラの手引きで市内の医療機関へ向かった。
特に大ケガしたわけではないのだが、それでもかすり傷くらいは負っているもので、絆創膏が何枚か必要なほどではあった。
一応、ウィルスなどに感染していないかの検査も受けたが、全員が陰性。
但し、斉藤絵恋さんの精神的ダメージは少し大きいようだった。
いきなりのボスキャラの襲撃、それを持ち前の空手技でピヨらせた猛者なのだが、そこはまだ中学生。
ホテルの火災に見舞われた恐怖、おぞましい餓鬼に襲われた恐怖、そしてその周辺に転がっていた惨殺死体の数々を見てしまった恐怖で嘔吐してしまったほどだ。
私は早朝ではあるが、斉藤社長に連絡を取った。
斉藤秀樹:「ああ、愛原さん。今、テレビを点けました。ホテルが惨状に見舞われたのは本当のようですね」
電話の向こうでヘリコプターの音と、緊迫したリポーターの音声が聞こえる。
こういう時、ベタな法則でマスコミはヘリを飛ばして上空からの映像をお送りするものだ。
愛原:「大変でしたよ。色々と化け物に襲われて……」
斉藤:「色々な化け物に襲われて『大変』の一言で済ませる愛原さんは、さすがは歴戦の猛者だ。ということは、娘も無事なんですね?」
愛原:「ええ。どこもケガしていません」
斉藤:「娘を守って頂けたようでありがとうございます。報酬は弾ませてもらいますよ」
愛原:「それは大変助かります。ただ、怖い目に遭ったという事実は消せなくてですね、娘さん、今、処置室で寝込んでいます」
斉藤:「でしょうなぁ……」
愛原:「でも勇敢な娘さんです。実は化け物が娘さんに襲い掛かったのですが、持ち前の空手技で朦朧状態にさせたんですよ。おかげで私達、その化け物を倒すことができました」
斉藤:「おぉ、娘が役に立ちましたか!知り合いの空手家に預けて正解でした!」
愛原:「もしかして社長、娘さんに空手を習わせたのはこれを想定してのことでは?」
斉藤:「はっはははは!さすがの私も、そこまで予知能力はありませんよ。娘には、ボディガード無しで歩けるほどの護身能力を身に付けてもらいたかっただけです」
愛原:「とにかくホテルから貴重品は持ち出せましたが、それ以外のものは置いて来てしまいました。娘さんもああいう状態ですし、旅行は中止にして、なるべく早く帰京を……」
斉藤:「いえ、旅行は続けてください」
愛原:「は?」
斉藤:「娘や皆さんにケガが無いのなら、旅行は続けてください。もちろん、今のホテルに宿泊を続けることは不可能でしょう。仙台市内に新たな宿泊先を探しておきますので、落ち着いたら仙台に向かってください」
愛原:「社長!?」
斉藤:「ニュースの映像から見る限り、7階は延焼していないようです。もしかしたら、荷物を運び出すことができるかもしれませんね。それでは、よろしくお願いしますよ」
そう言って斉藤社長は電話を切った。
全く。大企業家の名前を張るには、これくらいでないといけないのだろうか。
私も経営者であるが、何だかついて行けそうにない。
今度は政府エージェントの善場氏に電話を掛けた。
善場:「愛原さん、お疲れさまです。愛原さんのことですから、恐らく巻き込まれているだろうと思っていましたよ」
愛原:「やっばりか。これは何かの策略ですかな?」
善場:「運命でしょう。愛原さんも、既にこっち側の人間ということです。そしてこっち側に巻き込まれたら、もう戻ることはできないということなんですよ」
愛原:「温泉旅行くらい、ゆっくりしたいものですな!善場さん達も現場に?」
善場:「いえ。BSAAが向かっておりますので、そちらに任せています。どうやら、青いアンブレラがかつての自分達の研究施設の『片付け』をしている最中、ミスをしたようですね」
愛原:「あいつらが何かやらかしたんですか?」
善場:「ダム側と温泉街側で施設を2つに分けていたそうですが、本来なら同時進行しなければならないところ、ダム側の施設を先に片付けようとして、温泉街側の施設が何らかの誤作動を起こしたようです。そのせいで、そこで保管されていたBOWを脱走させてしまうという事態に……」
愛原:「恐ろしいヤツらだ。とんでもねぇ……!」
善場:「こういうのは民間でなく、官主導の方がいいんですが、『民業圧迫ニダ』と叫ぶ……コホン。とにかく、色々と反対意見があるようでして……」
愛原:「斉藤社長からは旅行を続行しろと言われてるんですよ」
善場:「相変わらずな社長さんですねぇ……。いいじゃないですか。旅行代金は全部社長持ちなんでしょう?」
愛原:「まあ、それはそうなんだが……。問題は荷物なんですよ。貴重品は持ち出せたんだけど、その他の荷物がねぇ……。どうやら俺達の泊まる予定だった部屋は無事だったみたいなんだが、何とか荷物を出せないもんかね?」
善場:「分かりました。こちらで何とかしてみます」
愛原:「ありがとう。始発列車で向かうから、それまでに話を付けてもらえると助かる」
善場:「分かりました。……あの、愛原さんはそろそろお気づきですか?」
愛原:「何が?」
善場:「本当の話、どうして愛原さんが旅行先でああいったトラブルに巻き込まれるかの理由……」
愛原:「運命なんでしょう?霧生市のバイオハザードで生き残った者の宿命だってんなら、それもしょうがない」
善場:「そうですか」
愛原:「ま、とにかくもう一度現場に向かってみる。まさか、温泉街そのものが封鎖されてるなんてことは無いよね?」
善場:「それは無いようです。表向きには鳴子中央ホテルがテロに巻き込まれ、それで火災が発生し、それを鎮圧する為に民間軍事会社アンブレラと自衛隊が出動したということになっています」
愛原:「警察を超えて軍隊が出動してる時点で、よく街が封鎖されないもんだよ!」
私はリサと高野君に斉藤さんを見ているように頼むと、高橋を連れてもう一度あのホテルに向かうことにした。
リサは斉藤の手をガッチリ握っている。
リサの献身的な看護で、斉藤さんの傷が回復するといいが……。
さすがのグリーンハーブや救急スプレーも、心のケガまでは回復させられない。