報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「再びの鳴子温泉」

2019-09-07 23:34:22 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月24日07:30.天候:曇 宮城県大崎市鳴子温泉 鳴子中央ホテル]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 昨夜はエラい目に遭った。
 温泉旅行に来て、バイオハザードに巻き込まれたのはこれで2度目だ。
 全く、いい加減にして欲しい。
 これでは、3度目は躊躇してしまうな。
 ほら、「二度あることは三度ある」と言うじゃない。

 愛原:「惨憺たる有り様だな」

 私は助手の高橋を伴って、再び宿泊予定だったホテルに戻って来た。
 地下階や客室下階から出火したこともあり、建物は全体の下半分が焼け焦げていた。

 警察官:「ちょっと。ここから先は立入禁止です」
 愛原:「すいません。私は愛原学と申します。東京で探偵をしている者です」
 警察官:「愛原……?ちょっとお待ちください」

 規制線の所にいた警察官は、手持ちの無線機でどこかに確認していた。

 警察官:「失礼しました。どうぞお入りください」
 愛原:「どうも」

 やはり善場氏は地元の警察に話を付けてくれたみたいだ。
 それにしても、当たり前だが鎮火した後とはいえ、やはり焦げ臭い。
 温泉の硫黄の臭いとも相まって、複雑な臭いになっている。

 愛原:「高橋、大丈夫か?」
 高橋:「こんなの、霧生市に比べればマシです」
 愛原:「よし、ついてこい」

 私達はホテルの中に入った。
 当然この状態では停電しており、エレベーターは使えない。
 それは通常の乗用もそうだし、非常エレベーターもだった。
 しょうがないので、非常階段をひたすら7階まで昇るしかなかった。

 愛原:「結構しんどいな」
 高橋:「全くですね」

 客室のドアは殆どが開け放たれていた。
 消防などが中を確認する為、バールか何かでこじ開けたのだろう。
 そしてそれは、私達が宿泊するはずの部屋もだった。
 7階は一応、無事であった。
 ガラスが割れたり、私が放った銃の薬莢が落ちていたり、壁に銃弾が被弾した痕があるのは、それだけここが決戦の場になったことを物語っているということだ。

 愛原:「一応、荷物は無事だが……」
 高橋:「先生!おかしいですよ。俺の荷物、一度開けられてまた閉められた形跡があります」
 愛原:「取られたものは?」
 高橋:「それは無いようですが……」
 愛原:「そうか」

 私は室内にあった金庫を見た。
 何故かその金庫もこじ開けられていた。
 あの中にあった財布などは既に持ち出している。
 まさか消防などが突入したといっても、金庫の中までは見ないだろう。
 恐らく、火事場泥棒でも入ったに違いない。

 愛原:「高野君達の部屋を見てみよう」
 高橋:「はい」

 私達は隣の部屋を見てみることにした。

 高橋:「……この部屋も、パッと見は無事のようです」
 愛原:「うん。だが、勝手に彼女らの荷物の中を見るわけにはいかないな」

 だが、こちらも金庫の扉がこじ開けられていた。
 もしかして、一応見ることになっているのか?
 私は試しに他の部屋も見てみることにした。
 しかし、他の部屋の金庫は開けられていなかった。

 愛原:「あの餓鬼も、誰かの命令で俺達の所に来たのかもしれない」
 高橋:「ええっ?」
 愛原:「あの餓鬼、最初から俺達に狙いを定めてダイレクトに向かって来たって感じだろ?」
 高橋:「そんな感じでしたね。最初から俺達の方を見て、手を振っていましたよ」
 愛原:「何の目的か分からないが、俺達が何か重要な物を持っていると見て、それを盗み出すつもりだったんじゃないだろうか?」
 高橋:「ええっ!?何をですか?」
 愛原:「それは分からんよ。もちろん俺達がそれを持っていないと分かるや、他の荷物には全く手をつけなかったようだが……」
 高橋:「どうします?」
 愛原:「俺と高橋の荷物で取られたものはない。高野君達の荷物はどうなのか、持って行ってみて確認してもらおう」
 高橋:「分かりました」

[同日08:34.天候:曇 JR鳴子温泉駅]

 荷物を運び出した私達は、その足で再び駅から列車に乗り込んだ。
 もちろん、駅前などはマスコミ関係者が殺到していた。

〔「まもなく2番線から、普通列車、小牛田行きが発車致します」〕
〔ピンポーン♪ ご案内致します。この列車は“奥の細道湯けむりライン”陸羽東線上り、古川方面、各駅停車の小牛田行き、ワンマンカーです。鳴子御殿湯、川渡温泉、池月、上野目の順に、各駅に停車致します。まもなく発車致します〕

 平日なら朝のラッシュであり、土曜日のこの時間は空いているだろうと思った。
 だが、意外とそうでもない。
 発車の時点で、既に席は満席になっていた。
 他の乗客の話しぶりからして、鳴子中央ホテルがテロに遭い、しかもその犯人達が射殺されたと聞いて、急いで旅行を中止して帰宅しようとしているらしい。
 温泉街にとっては、迷惑千万な話だろう。
 実際、どうもこの事件の裏には黒幕がしっかり存在しているような気がしてならないのである。

 列車はディーゼルエンジンの音を立てて走り出した。

〔ピンポーン♪ 今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は“奥の細道湯けむりライン”陸羽東線上り、各駅停車の小牛田行き、ワンマンカーです。これから先、鳴子御殿湯、川渡温泉、池月、上野目の順に各駅に停車致します。途中の無人駅では後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、鳴子御殿湯です〕

 愛原:「高野君からメールだ。斉藤さんが意識を回復したってさ」
 高橋:「そうですか。それで、どうします?」
 愛原:「もちろん、一度病院に戻るよ。社長はああ仰ってたけど、結局は娘さんの意思を尊重しないといけないからな」
 高橋:「俺はリサが旅行を続けると言えば、どこまでも付いて行く気がしますね」
 愛原:「オマエの言う、『俺は地獄の果てまでも先生に付いていきます!』的な?」
 高橋:「まあ、それとは意味が違うと思いますけどね、似たようなもんだと思いますよ。上手い言い方、分かりませんけど」

 だが、高橋の言いたいことも分かるような気がした。
 列車は雲間から現れた朝日を浴びて、まずは大崎市内の市街地へと向かう。
コメント (2)
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