[8月25日20:28.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
2泊3日の温泉旅行も、まもなく終了しようとしている。
私達を乗せた新幹線は、高層ビルの間を縫うようにして走行していた。
愛原:「そろそろ降りる準備するか」
高橋:「はい」
愛原:「斉藤さんは大宮で降りなかったんだな」
斉藤:「はい。今日はこのままマンションに帰って、それから明日学校へ行く方が楽なので」
愛原:「でも、お父さんへのお土産はどうするの?」
斉藤:「明日、新庄に持って行ってもらいます」
新庄とは斉藤家お抱えの専属運転手のこと。
初老の男性で、埼玉の本家では執事も兼ねているようだ。
今、家事使用人というのは兼業であることが多いようだ。
“ちびまる子ちゃん”の花輪家だって、執事のヒデじぃが運転手を兼ねているが、正に新庄氏はそのポジションだということだ。
大昔は執事と運転手は別だったのだろうが。
その執事や運転手も派遣会社からの派遣が多くなり、斉藤家みたいに直接雇用というのは珍しい形態となっている。
〔「長らくのご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、東京、東京です。到着ホームは23番線、お出口は右側です。お降りの際、お忘れ物の無いよう、もう1度よくお確かめください。……」〕
高橋:「先生、駅から先は?」
愛原:「最終の都営バスに間に合うようにしている。それで帰れる」
高橋:「さすがです」
列車が東京駅のホームに滑り込んだ。
新幹線ホームでも端の方で、すぐ隣は東海道本線のホームである。
〔「ご乗車ありがとうございました。終点、東京、終点、東京です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。23番線に到着の電車は折り返し、20時44分発、“やまびこ”159号、仙台行きと“つばさ”159号、山形行きとなります。……」〕
私達はホームに降りた。
愛原:「さすがに東京は暑いな」
高橋:「この時点で、まだ28度です」
愛原:「熱帯夜だな。さっさと帰って、ビールで一杯やりたいよ」
高橋:「ちゃんと冷蔵庫に冷やしてあります」
愛原:「さすがだな。まあ、おつまみは枝豆と漬物でいいや」
高橋:「後で御用意しますね」
夏休み最後の日曜日ということもあってか、駅構内は多くの旅行客で賑わっていた。
愛原:「丸の内北口まで出るのが大変だ」
リサ:「これだけ人が多いと、一思いに薙ぎ払いたくなる」
斉藤:「支配者チック〜
」
愛原:「せんでいい」
どうにか駅構内を出るが、丸の内口もまた賑わっている。
日曜日なのでその先のオフィス街は閑散としているのだろうが、レンガ造りの駅舎で有名なこっち側もまた観光名所の1つになっている為だ。
高野:「先生。何を以ってこのミッションを終了とするべきですかね?やはり、斉藤さんをお家まで送ってからですか?」
愛原:「まあ、そうだろな。『家に帰るまでが旅行』って言うからな」
斉藤:「あ、それなら大丈夫です。バス停にうちのメイドが迎えに来ることになっているので、それで終了でよろしいかと」
愛原:「そうなんだ。メイドさん1人で大丈夫?」
……という質問は愚問であると、私は思った。
何しろ鳴子温泉の時、斉藤さんは襲い掛かって来た餓鬼を空手技でピヨらせたのだから。
SP要らずの御嬢様とは、斉藤さんのことだ。
それでも時と場合によっては、警備会社に頼んで身辺警護を用意することもあるらしい。
[同日20:55.天候:晴 千代田区丸の内 東京都営バス東20系統車内]
20時台で最終バスとなる路線だから、あまり大した混雑はしないということだ。
反対側の八重洲口から豊洲方面に向かう路線が、深夜バスまで運行しているのとは対照的である。
最終バスの表記は行き先表示を赤枠で囲ったり、行き先を表示した後、『最終バス』と表示するのを交互に行ったりと、バスの車種によって違うらしい。
私達が乗ったバスは行き先表示を赤枠で囲むタイプであった。
これは赤電車と呼ばれる、路面電車(都電)の終電が行き先表示を赤く照らしていた頃の名残りだ。
恐らく、今でも都電荒川線ではそのようにしているのではないだろうか。
それとも、あの電車も行き先表示がLED化されているから、都営バスと同じように行き先表示を赤枠で囲むタイプかもしれない。
愛原:「中は涼しい」
高橋:「先生、どうぞ」
後ろの2人席に座ると、高橋は頭上のクーラー吹き出し口を私に向けた。
愛原:「別に無理して直撃させなくていいからな?」
高橋:「失礼しました!」
愛原:「俺としては、帰宅後のビールが楽しみなんだ」
高橋:「俺もです」
愛原:「ん?俺の晩酌に付き合うか?」
高橋:「お供致します!地獄の果てまでも!」
愛原:「いや、だから何で地獄に行く前提なんだよ」
発車の時間になる。
この時点でバスの座席が程々に埋まっている状態だ。
〔発車致します。お掴まり下さい〕
仙台で乗った中型バスと違い、こちらは堂々たる大型バスである。
しかも、オートマ。
マニュアルならシフトレバーのある辺りに、シフトボタンが設置されている。
〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。この都営バスは日本橋、東京都現代美術館前経由、錦糸町駅前行きでございます。次は呉服橋、呉服橋。東京駅日本橋口をご利用の方は、こちらが御便利です。次は、呉服橋でございます〕
因みにボスが所望した“萩の月”40個入りは、駅の土産物店では見当たらなかった。
売り切れだったのか、それとも、たまたま私が行った店では取り扱ってなかったのか、それは分からない。
しょうがないので20個入りを2つ買い、それをそのまま宅急便で送った。
一応、宅急便で送った旨、ボスにメールしておいた。
問い合わせ番号も添えて。
だからなのか、翌日にはちゃんと仕事が紹介されたのである。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
2泊3日の温泉旅行も、まもなく終了しようとしている。
私達を乗せた新幹線は、高層ビルの間を縫うようにして走行していた。
愛原:「そろそろ降りる準備するか」
高橋:「はい」
愛原:「斉藤さんは大宮で降りなかったんだな」
斉藤:「はい。今日はこのままマンションに帰って、それから明日学校へ行く方が楽なので」
愛原:「でも、お父さんへのお土産はどうするの?」
斉藤:「明日、新庄に持って行ってもらいます」
新庄とは斉藤家お抱えの専属運転手のこと。
初老の男性で、埼玉の本家では執事も兼ねているようだ。
今、家事使用人というのは兼業であることが多いようだ。
“ちびまる子ちゃん”の花輪家だって、執事のヒデじぃが運転手を兼ねているが、正に新庄氏はそのポジションだということだ。
大昔は執事と運転手は別だったのだろうが。
その執事や運転手も派遣会社からの派遣が多くなり、斉藤家みたいに直接雇用というのは珍しい形態となっている。
〔「長らくのご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、東京、東京です。到着ホームは23番線、お出口は右側です。お降りの際、お忘れ物の無いよう、もう1度よくお確かめください。……」〕
高橋:「先生、駅から先は?」
愛原:「最終の都営バスに間に合うようにしている。それで帰れる」
高橋:「さすがです」
列車が東京駅のホームに滑り込んだ。
新幹線ホームでも端の方で、すぐ隣は東海道本線のホームである。
〔「ご乗車ありがとうございました。終点、東京、終点、東京です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。23番線に到着の電車は折り返し、20時44分発、“やまびこ”159号、仙台行きと“つばさ”159号、山形行きとなります。……」〕
私達はホームに降りた。
愛原:「さすがに東京は暑いな」
高橋:「この時点で、まだ28度です」
愛原:「熱帯夜だな。さっさと帰って、ビールで一杯やりたいよ」
高橋:「ちゃんと冷蔵庫に冷やしてあります」
愛原:「さすがだな。まあ、おつまみは枝豆と漬物でいいや」
高橋:「後で御用意しますね」
夏休み最後の日曜日ということもあってか、駅構内は多くの旅行客で賑わっていた。
愛原:「丸の内北口まで出るのが大変だ」
リサ:「これだけ人が多いと、一思いに薙ぎ払いたくなる」
斉藤:「支配者チック〜
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愛原:「せんでいい」
どうにか駅構内を出るが、丸の内口もまた賑わっている。
日曜日なのでその先のオフィス街は閑散としているのだろうが、レンガ造りの駅舎で有名なこっち側もまた観光名所の1つになっている為だ。
高野:「先生。何を以ってこのミッションを終了とするべきですかね?やはり、斉藤さんをお家まで送ってからですか?」
愛原:「まあ、そうだろな。『家に帰るまでが旅行』って言うからな」
斉藤:「あ、それなら大丈夫です。バス停にうちのメイドが迎えに来ることになっているので、それで終了でよろしいかと」
愛原:「そうなんだ。メイドさん1人で大丈夫?」
……という質問は愚問であると、私は思った。
何しろ鳴子温泉の時、斉藤さんは襲い掛かって来た餓鬼を空手技でピヨらせたのだから。
SP要らずの御嬢様とは、斉藤さんのことだ。
それでも時と場合によっては、警備会社に頼んで身辺警護を用意することもあるらしい。
[同日20:55.天候:晴 千代田区丸の内 東京都営バス東20系統車内]
20時台で最終バスとなる路線だから、あまり大した混雑はしないということだ。
反対側の八重洲口から豊洲方面に向かう路線が、深夜バスまで運行しているのとは対照的である。
最終バスの表記は行き先表示を赤枠で囲ったり、行き先を表示した後、『最終バス』と表示するのを交互に行ったりと、バスの車種によって違うらしい。
私達が乗ったバスは行き先表示を赤枠で囲むタイプであった。
これは赤電車と呼ばれる、路面電車(都電)の終電が行き先表示を赤く照らしていた頃の名残りだ。
恐らく、今でも都電荒川線ではそのようにしているのではないだろうか。
それとも、あの電車も行き先表示がLED化されているから、都営バスと同じように行き先表示を赤枠で囲むタイプかもしれない。
愛原:「中は涼しい」
高橋:「先生、どうぞ」
後ろの2人席に座ると、高橋は頭上のクーラー吹き出し口を私に向けた。
愛原:「別に無理して直撃させなくていいからな?」
高橋:「失礼しました!」
愛原:「俺としては、帰宅後のビールが楽しみなんだ」
高橋:「俺もです」
愛原:「ん?俺の晩酌に付き合うか?」
高橋:「お供致します!地獄の果てまでも!」
愛原:「いや、だから何で地獄に行く前提なんだよ」
発車の時間になる。
この時点でバスの座席が程々に埋まっている状態だ。
〔発車致します。お掴まり下さい〕
仙台で乗った中型バスと違い、こちらは堂々たる大型バスである。
しかも、オートマ。
マニュアルならシフトレバーのある辺りに、シフトボタンが設置されている。
〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。この都営バスは日本橋、東京都現代美術館前経由、錦糸町駅前行きでございます。次は呉服橋、呉服橋。東京駅日本橋口をご利用の方は、こちらが御便利です。次は、呉服橋でございます〕
因みにボスが所望した“萩の月”40個入りは、駅の土産物店では見当たらなかった。
売り切れだったのか、それとも、たまたま私が行った店では取り扱ってなかったのか、それは分からない。
しょうがないので20個入りを2つ買い、それをそのまま宅急便で送った。
一応、宅急便で送った旨、ボスにメールしておいた。
問い合わせ番号も添えて。
だからなのか、翌日にはちゃんと仕事が紹介されたのである。