報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「東京に到着」

2019-09-26 18:54:30 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月25日20:28.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 2泊3日の温泉旅行も、まもなく終了しようとしている。
 私達を乗せた新幹線は、高層ビルの間を縫うようにして走行していた。

 愛原:「そろそろ降りる準備するか」
 高橋:「はい」
 愛原:「斉藤さんは大宮で降りなかったんだな」
 斉藤:「はい。今日はこのままマンションに帰って、それから明日学校へ行く方が楽なので」
 愛原:「でも、お父さんへのお土産はどうするの?」
 斉藤:「明日、新庄に持って行ってもらいます」

 新庄とは斉藤家お抱えの専属運転手のこと。
 初老の男性で、埼玉の本家では執事も兼ねているようだ。
 今、家事使用人というのは兼業であることが多いようだ。
 “ちびまる子ちゃん”の花輪家だって、執事のヒデじぃが運転手を兼ねているが、正に新庄氏はそのポジションだということだ。
 大昔は執事と運転手は別だったのだろうが。
 その執事や運転手も派遣会社からの派遣が多くなり、斉藤家みたいに直接雇用というのは珍しい形態となっている。

〔「長らくのご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、東京、東京です。到着ホームは23番線、お出口は右側です。お降りの際、お忘れ物の無いよう、もう1度よくお確かめください。……」〕

 高橋:「先生、駅から先は?」
 愛原:「最終の都営バスに間に合うようにしている。それで帰れる」
 高橋:「さすがです」

 列車が東京駅のホームに滑り込んだ。
 新幹線ホームでも端の方で、すぐ隣は東海道本線のホームである。

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、東京、終点、東京です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。23番線に到着の電車は折り返し、20時44分発、“やまびこ”159号、仙台行きと“つばさ”159号、山形行きとなります。……」〕

 私達はホームに降りた。

 愛原:「さすがに東京は暑いな」
 高橋:「この時点で、まだ28度です」
 愛原:「熱帯夜だな。さっさと帰って、ビールで一杯やりたいよ」
 高橋:「ちゃんと冷蔵庫に冷やしてあります」
 愛原:「さすがだな。まあ、おつまみは枝豆と漬物でいいや」
 高橋:「後で御用意しますね」

 夏休み最後の日曜日ということもあってか、駅構内は多くの旅行客で賑わっていた。

 愛原:「丸の内北口まで出るのが大変だ」
 リサ:「これだけ人が多いと、一思いに薙ぎ払いたくなる」
 斉藤:「支配者チック〜
 愛原:「せんでいい」

 どうにか駅構内を出るが、丸の内口もまた賑わっている。
 日曜日なのでその先のオフィス街は閑散としているのだろうが、レンガ造りの駅舎で有名なこっち側もまた観光名所の1つになっている為だ。

 高野:「先生。何を以ってこのミッションを終了とするべきですかね?やはり、斉藤さんをお家まで送ってからですか?」
 愛原:「まあ、そうだろな。『家に帰るまでが旅行』って言うからな」
 斉藤:「あ、それなら大丈夫です。バス停にうちのメイドが迎えに来ることになっているので、それで終了でよろしいかと」
 愛原:「そうなんだ。メイドさん1人で大丈夫?」

 ……という質問は愚問であると、私は思った。
 何しろ鳴子温泉の時、斉藤さんは襲い掛かって来た餓鬼を空手技でピヨらせたのだから。
 SP要らずの御嬢様とは、斉藤さんのことだ。
 それでも時と場合によっては、警備会社に頼んで身辺警護を用意することもあるらしい。

[同日20:55.天候:晴 千代田区丸の内 東京都営バス東20系統車内]

 20時台で最終バスとなる路線だから、あまり大した混雑はしないということだ。
 反対側の八重洲口から豊洲方面に向かう路線が、深夜バスまで運行しているのとは対照的である。
 最終バスの表記は行き先表示を赤枠で囲ったり、行き先を表示した後、『最終バス』と表示するのを交互に行ったりと、バスの車種によって違うらしい。
 私達が乗ったバスは行き先表示を赤枠で囲むタイプであった。
 これは赤電車と呼ばれる、路面電車(都電)の終電が行き先表示を赤く照らしていた頃の名残りだ。
 恐らく、今でも都電荒川線ではそのようにしているのではないだろうか。
 それとも、あの電車も行き先表示がLED化されているから、都営バスと同じように行き先表示を赤枠で囲むタイプかもしれない。

 愛原:「中は涼しい」
 高橋:「先生、どうぞ」

 後ろの2人席に座ると、高橋は頭上のクーラー吹き出し口を私に向けた。

 愛原:「別に無理して直撃させなくていいからな?」
 高橋:「失礼しました!」
 愛原:「俺としては、帰宅後のビールが楽しみなんだ」
 高橋:「俺もです」
 愛原:「ん?俺の晩酌に付き合うか?」
 高橋:「お供致します!地獄の果てまでも!」
 愛原:「いや、だから何で地獄に行く前提なんだよ」

 発車の時間になる。
 この時点でバスの座席が程々に埋まっている状態だ。

〔発車致します。お掴まり下さい〕

 仙台で乗った中型バスと違い、こちらは堂々たる大型バスである。
 しかも、オートマ。
 マニュアルならシフトレバーのある辺りに、シフトボタンが設置されている。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。この都営バスは日本橋、東京都現代美術館前経由、錦糸町駅前行きでございます。次は呉服橋、呉服橋。東京駅日本橋口をご利用の方は、こちらが御便利です。次は、呉服橋でございます〕

 因みにボスが所望した“萩の月”40個入りは、駅の土産物店では見当たらなかった。
 売り切れだったのか、それとも、たまたま私が行った店では取り扱ってなかったのか、それは分からない。
 しょうがないので20個入りを2つ買い、それをそのまま宅急便で送った。
 一応、宅急便で送った旨、ボスにメールしておいた。
 問い合わせ番号も添えて。
 だからなのか、翌日にはちゃんと仕事が紹介されたのである。
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“私立探偵 愛原学” 「最終日は平和だった」

2019-09-26 14:47:51 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月25日17:51.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 仙台駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 ようやく夏休み最後の旅行も終盤に差し掛かった。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく仙台、仙台です。南北線、JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです」〕

 電車がホームに滑り込む。

〔仙台、仙台。出入り口付近の方は、開くドアにご注意ください〕

 愛原:「降りるぞー」

 私は座席に座ってウトウトしているリサの肩を揺さぶった。

 リサ:「ふぁい……」

 体力自慢、怪力自慢のBOWも生物である以上は眠くなる。
 リサは隣に座っている斉藤さんに声を掛けた。

〔仙台、仙台。南北線、JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです〕

 仙台市地下鉄では最も乗降客の多い仙台駅に到着する。
 ここで、帰りの新幹線に乗り換えるわけだが……。

 愛原:「ちょっとついでに駅弁屋でも覗いてみよう」
 高野:「ああ、そうか。時間帯的に夕食は駅弁になりますね」

 因みに土産物については、ホテルのチェックアウト前に、本来ならホテルの売店や温泉街の土産物店で見繕う予定だった。
 しかし2夜連続のBOWの襲撃により、それは叶わなかった。
 そこで、最終日に買うことになったわけだ。
 一応、コロナワールドに行く前に購入している。

 愛原:「お土産忘れるなよー」
 リサ:「はーい」

 地下鉄の改札口を出て、JRの駅に向かう。
 そこにあるコインロッカーに、大きな荷物は預けていた。

 高橋:「あ?なにJCが酒買ってんだ、ああ?」

 高橋、斉藤さんが買った地元の銘酒を目ざとく見つける。

 斉藤:「これはお父さんへの御土産です」
 愛原:「斉藤社長、酒飲みなのか。是非今度、御一緒したいものだな」
 斉藤:「お父さんに言っておきますね」

 形式上は、私が斉藤社長を接待する形……としか思えないが。
 何だかんだ言って、斉藤さんが1番お土産を大量購入している。

 高野:「先生はボスに買ってあげなくていいんですか?」
 愛原:「そのボスがどこのどなたか分からない以上、買っても送れないだろう」

 と、そこへ電話が鳴った。

 愛原:「はい、もしもし」
 ボス:「私だ」
 愛原:「ボス!……仕事の依頼ですか?」
 ボス:「いや、それは明日からだ。キミ達は今、仙台にいるのだろう?」
 愛原:「そうですけど?」
 ボス:「私は“萩の月”が大好きだ」
 愛原:「……もしかして今の会話、盗聴してました?」
 ボス:「尚、件の物(ブツ)は探偵協会に送ってもらえればよろしい」
 愛原:「ボス、松島で聞いたBSAAのHQの声に似てますが……」
 ボス:「気のせいだ」
 愛原:「いや、しかし……」
 ボス:「知らん」
 愛原:「とても他人とは思えな……」
 ボス:「それでは“萩の月”40個入りを送ってくれたまえ」
 愛原:「デカいな!それ1番デカいサイズの箱ですよね!?」
 ボス:「それではよろしく頼む。明日は実入りの良い仕事を紹介しよう」

 ボスからの電話が切れた。
 今までの仕事は実入りが悪いとボスも知ってて紹介していたか……。

 愛原:「全く。おい、どこかに盗聴器仕掛けられてんぞ?変な物見つけたら、すぐ俺に言ってくれよ?」
 高野:「さすがボスですね」
 高橋:「先生、後でボスの正体暴きに行きましょうよ?」
 愛原:「いや、俺もそうしたいんだけどねぇ……」

[同日18:25.天候:晴 JR仙台駅・新幹線ホーム→東北新幹線8192B列車10号車内]

〔11番線の電車は、18時25分発、“やまびこ”192号、東京行きです。グリーン車は9号車、自由席は1号車から5号車です。尚、全車両禁煙です。この電車は白石蔵王、福島、大宮、上野、終点東京の順に止まります。……〕

 駅弁を購入した私達は新幹線ホームに上がると、副線に停車している列車に乗り込んだ。
 途中で山形新幹線を連結するからなのか、車両はE5系“はやぶさ”の車両ではなく、E2系のかつて“はやて”として運転されていた車両だった。
 それの1番後ろの車両に乗り込む。
 E5系だとグランクラスになる車両だが、E2系では普通車だ。
 普通に3人席と2人席が並んでいる。
 往路と同じ座席割にした。
 私と高橋と高野君で3人席、リサと斉藤さんで2人席というわけだ。

〔「ご案内致します。この電車は18時25分発、“やまびこ”192号、東京行きでございます。停車駅は白石蔵王、福島、大宮、上野、終点東京です。臨時列車の為、停車駅が変則的になっております。停車駅にご注意ください。お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕

 座席に座った私は早速、駅構内で買った駅弁を開けることにした。

 愛原:「疲れても腹は減るな」
 高橋:「全くですね」
 斉藤:「……でね、この紐を引っ張ると、お弁当が温かくなるの」
 リサ:「おー!……爆発したりしない?」
 斉藤:「しないしない!」

〔11番線から、“やまびこ”192号、東京行きが発車致します。次は、白石蔵王に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 列車の外からオーケストラの演奏が聞こえて来る。
 発車メロディは“青葉城恋唄”をブラスバンドで生演奏したものを録音し、それを発車メロディとしているそうだ。

 愛原:「皆して牛タン弁当かい」
 高野:「牛タン食べそこないましたからねぇ」
 高橋:「海鮮は松島で食べたからいいですが、名物を食えないままというのは、どうかなと……」
 愛原:「確かにな」

 外から客終合図の甲高いブサー音が聞こえたと思うと、乗降ドアの閉まる音が聞こえて来た。
 そして、車内にモーターの音が響いて来て列車が走り出した。
 下り副線ホームに停車していることもあってか、一瞬下り線を逆走する形になる。
 ホームを出発すると、車内に夕日が差し込んで来た。

 リサ:「きれいな夕焼け」
 斉藤:「じゃあ、明日も晴れるね」
 リサ:「そうなの?」
 斉藤:「夕焼けがきれいな夕方は、明日晴れるフラグだって聞いたことあるの」
 リサ:「研究所にいた頃は、こんな夕焼け見る機会無かったなぁ……」
 斉藤:「け、研究所!?」
 リサ:「薄暗い地下室で鎖に繋がれて過ごす毎日」
 斉藤:「ええーっ!?」
 リサ:「……というアメリカのリサ・トレヴァーの話」
 斉藤:「あ、なんだ。ゲームの話だね」
 リサ:(でも半分以上は私の話)

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、東北新幹線“やまびこ”号、東京行きです。次は、白石蔵王に止まります。……〕

 高橋:「先生、これで仕事は終了ですか?」
 愛原:「まだまだ。東京に着くまでが旅行だからな。……あれだぞ?東京駅じゃなくて、無事に斉藤さんを家の人に渡してからだぞ?」
 高橋:「はい、メモっておきます!」
 愛原:「食いながらメモるな!」

 ポイントを渡って上り線に出た列車は速度を上げたが、仙台市内ではカーブが多いこともあってか、そこまで高速度は出さない。
 とはいえ、隣を走る在来線電車を軽やかに追い抜くくらいのスピードではある。
 そこは大宮を出て埼京線の横を走る所に似てはいるかな。
 仙台市内を出ると、グングン速度を上げていく。
 恐らく時速275キロまで出すのだろう。
 因みにこの時、車窓にパチンコ屋の煌びやかな看板が目に入る。
 高橋がウハウハで合流したのが何だか羨ましく、私も一発打ちたい衝動に駆られたが、そんな人間がパチ屋にとってカモであることは十分知っている。
 なので、その衝動は抑えたのだが……。
 ま、また仕事がヒマになったら打ちに行くか。
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