[7月22日09:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
休暇を取って霧崎真珠さんと婚前旅行に行くはずの高橋が、何と行方不明になってしまった。
私は取り合えずリサを学校に行かせると、霧崎さんを事務所に呼んだ。
高野:「ええっ、マサが行方不明!?」
愛原:「そうなんだ。俺からの電話も着信拒否だよ」
高野:「マサのヤツ、『俺のケータイは先生との運命の赤い糸だ』なんて言ってたのに……」
愛原:「あ、ああ、そうだな……。とにかく、これから霧崎さんがこっちに来るから」
高野:「分かりました」
その時、事務所のインターホンが鳴った。
エレベーターのドアが開いたら、自動でチャイムが鳴るようにしている。
霧崎:「愛原先生、おはようございます」
霧崎さんはメイド服を着ていた。
リサの返り血が付いていないから着替えたのだろうが、それにしても普段からメイド服を着ているとは……。
愛原:「あ、ああ。よく着てくれた。高野君、お茶を出してあげてくれ」
高野:「分かりました」
高野君と霧崎さん。
どちらもショートボブでスマートな体型だ。
霧崎さんの方がベリーショートか。
高野:「応接室ですか?」
愛原:「あ……ええっと……そこの談話コーナーで話そう。いいかな?」
霧崎:「先生のご随意に」
応接室で2人きりになり、機嫌を悪くしてナイフを振り回されたんじゃたまらん。
談話コーナーなら高野君の目の届く場所だから、何かあってもすぐに対応してくれるだろう。
愛原:「それじゃ霧崎さん、高橋と旅行の約束をした時の状況を教えてもらえるかな?」
霧崎:「はい……」
霧崎さんは今朝とは打って変わって、しおらしい感じだった。
感情の起伏の激しいコなのだろう。
性格的にはメイドに向いていなさそうなのだが、斉藤絵恋さん曰く、とても上手くこなしているのだという。
そして普段からメイド服を着ているのも、これが『娑婆世界における自分の囚人服』とか言っていた。
まだ二十歳過ぎたばっかりだというのに、これも地獄のような10代を送ったからか。
愛原:「……なるほど。霧崎さんは高橋から旅行の行き先だけでなく、そのヒントすら聞いていなかったわけか」
霧崎:「はい。彼、何かに怯えているようでした。もしかしたら、誰かに狙われているのかも……」
それは霧崎さん、あんたのことかもしれないよ。
もちろん、そんなことは面と向かって言えない。
言ったりしたら、私が『流血の惨を見る事、必至であります』。
愛原:「ふ、フム……。私達はバイオテロとも戦っている。今は殆ど日本じゃナリを潜めているが、そっち側の組織から見れば私達は目の上のたん瘤同然だろう。或いはヤンチャしてた頃の敵対半グレ、もしくは暴力団から目を付けられたことも考えられる。霧崎さんはどう思う?」
霧崎:「マサはそんなことで怯える男ではありませんよ」
霧崎さんは笑いながら答えた。
しかもその笑い方が、まるで私を嘲るような感じだった。
まるで、『愛原先生はマサのこと分かってないんですね』とでも言いたげだ。
愛原:「そ、そうか。それじゃ一体、高橋は何に怯えてたんだろうな」
霧崎さんだとしても、ちょっとおかしいな。
行方を眩ませたところで、結局はまた戻ってこなきゃいけないんだから無意味なことをする。
高野:「先生。マサが事件に巻き込まれた可能性は無いですか?」
愛原:「ええっ?」
高野:「本当にサプライズで霧崎さんを迎えに行こうとして、突然どこかに連れ去られたとか……」
愛原:「ま、まさか……」
高野:「まずは駅までのマサの足取りを追ってみてはいかがでしょうか?
愛原:「そ、そうだな。やってみよう」
霧崎:「私も一緒に……」
愛原:「いいよいいよ。霧崎さんは帰ってて。高橋の足取りが分かったら教えるから」
すると霧崎さんはメイド服のスカートの裾を捲り上げた。
ロングスカートだが、その中からジャックナイフを取り出す。
霧崎:「マサがいない今、先生の護衛ができるのはボクだけだよ、先生?」
そして再びあの冷たい目を私に向けてきた。
ここで逆らうと、きっと私は『流血の惨を見る事、必至であります』。
愛原:「わ、分かった。取りあえず、行こう」
私は席を立った。
高野:「先生、どうかお気を付けて」
愛原:「御本仏日蓮大聖人に祈っててくれ」
それから2時間後、何とか情報を集めることができた。
まず、高橋は菊川駅には行っていないようだ。
そこでの目撃情報は得られなかった。
有力な情報を得られたのは、近所のコンビニだった。
そこの店長が、黒いワンボックスに乗せられる高橋を見たという。
高野:「ええっ?それもう警察案件じゃないですか!?」
愛原:「店長が見た限りじゃ、確かに嫌々乗せられていると言った感じだったけど、力づくで無理やり乗せたというわけでもなかったそうだ。もしそうなら、店長から通報したってさ」
高野:「ナンバーは?」
愛原:「ああ。コンビニの防犯カメラに映ってたの、見せてもらったよ」
車は黒塗りのハイエースで、品川ナンバーの4ナンバーだった。
そして注目すべきは、平仮名。
愛原:「『わ』なんだよ。てことはレンタカーだ。誰かが高橋をさらうためにわざわざ借りたとしか思えない」
高野:「男達は目出し帽にサングラスですけど、若いですよ。多分、マサや霧崎さんとそんなに変わらないと思います」
愛原:「やっぱりアレか?敵対勢力にケンカ売られて、取りあえずケンカ祭り会場まで車で向かおうってことか」
高野:「あのマサなら、ボコボコにしてそのうち帰って来そうですけどね」
愛原:「それは俺も同意見だ。霧崎さんはどう思う?」
霧崎:「もしケンカなら、むしろ私を連れて行くと思います」
愛原:「う……霧崎さんもそりゃ強いだろうけどさ……」
高橋より重い罪状で収監されてたくらいだからな。
高野:「先生、マサのケータイの電源は切れてないんですよね?」
愛原:「そのようだ」
高野:「GPSで追うことはできませんか?」
愛原:「それだ!」
私はすぐに彼のスマホの位置情報を検索した。
するとその結果は……。
1:位置が特定できた。
2:位置が特定できなかった。
3:検索中に電話が掛かってきた。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
休暇を取って霧崎真珠さんと婚前旅行に行くはずの高橋が、何と行方不明になってしまった。
私は取り合えずリサを学校に行かせると、霧崎さんを事務所に呼んだ。
高野:「ええっ、マサが行方不明!?」
愛原:「そうなんだ。俺からの電話も着信拒否だよ」
高野:「マサのヤツ、『俺のケータイは先生との運命の赤い糸だ』なんて言ってたのに……」
愛原:「あ、ああ、そうだな……。とにかく、これから霧崎さんがこっちに来るから」
高野:「分かりました」
その時、事務所のインターホンが鳴った。
エレベーターのドアが開いたら、自動でチャイムが鳴るようにしている。
霧崎:「愛原先生、おはようございます」
霧崎さんはメイド服を着ていた。
リサの返り血が付いていないから着替えたのだろうが、それにしても普段からメイド服を着ているとは……。
愛原:「あ、ああ。よく着てくれた。高野君、お茶を出してあげてくれ」
高野:「分かりました」
高野君と霧崎さん。
どちらもショートボブでスマートな体型だ。
霧崎さんの方がベリーショートか。
高野:「応接室ですか?」
愛原:「あ……ええっと……そこの談話コーナーで話そう。いいかな?」
霧崎:「先生のご随意に」
応接室で2人きりになり、機嫌を悪くしてナイフを振り回されたんじゃたまらん。
談話コーナーなら高野君の目の届く場所だから、何かあってもすぐに対応してくれるだろう。
愛原:「それじゃ霧崎さん、高橋と旅行の約束をした時の状況を教えてもらえるかな?」
霧崎:「はい……」
霧崎さんは今朝とは打って変わって、しおらしい感じだった。
感情の起伏の激しいコなのだろう。
性格的にはメイドに向いていなさそうなのだが、斉藤絵恋さん曰く、とても上手くこなしているのだという。
そして普段からメイド服を着ているのも、これが『娑婆世界における自分の囚人服』とか言っていた。
まだ二十歳過ぎたばっかりだというのに、これも地獄のような10代を送ったからか。
愛原:「……なるほど。霧崎さんは高橋から旅行の行き先だけでなく、そのヒントすら聞いていなかったわけか」
霧崎:「はい。彼、何かに怯えているようでした。もしかしたら、誰かに狙われているのかも……」
それは霧崎さん、あんたのことかもしれないよ。
もちろん、そんなことは面と向かって言えない。
言ったりしたら、私が『流血の惨を見る事、必至であります』。
愛原:「ふ、フム……。私達はバイオテロとも戦っている。今は殆ど日本じゃナリを潜めているが、そっち側の組織から見れば私達は目の上のたん瘤同然だろう。或いはヤンチャしてた頃の敵対半グレ、もしくは暴力団から目を付けられたことも考えられる。霧崎さんはどう思う?」
霧崎:「マサはそんなことで怯える男ではありませんよ」
霧崎さんは笑いながら答えた。
しかもその笑い方が、まるで私を嘲るような感じだった。
まるで、『愛原先生はマサのこと分かってないんですね』とでも言いたげだ。
愛原:「そ、そうか。それじゃ一体、高橋は何に怯えてたんだろうな」
霧崎さんだとしても、ちょっとおかしいな。
行方を眩ませたところで、結局はまた戻ってこなきゃいけないんだから無意味なことをする。
高野:「先生。マサが事件に巻き込まれた可能性は無いですか?」
愛原:「ええっ?」
高野:「本当にサプライズで霧崎さんを迎えに行こうとして、突然どこかに連れ去られたとか……」
愛原:「ま、まさか……」
高野:「まずは駅までのマサの足取りを追ってみてはいかがでしょうか?
愛原:「そ、そうだな。やってみよう」
霧崎:「私も一緒に……」
愛原:「いいよいいよ。霧崎さんは帰ってて。高橋の足取りが分かったら教えるから」
すると霧崎さんはメイド服のスカートの裾を捲り上げた。
ロングスカートだが、その中からジャックナイフを取り出す。
霧崎:「マサがいない今、先生の護衛ができるのはボクだけだよ、先生?」
そして再びあの冷たい目を私に向けてきた。
ここで逆らうと、きっと私は『流血の惨を見る事、必至であります』。
愛原:「わ、分かった。取りあえず、行こう」
私は席を立った。
高野:「先生、どうかお気を付けて」
愛原:「御本仏日蓮大聖人に祈っててくれ」
それから2時間後、何とか情報を集めることができた。
まず、高橋は菊川駅には行っていないようだ。
そこでの目撃情報は得られなかった。
有力な情報を得られたのは、近所のコンビニだった。
そこの店長が、黒いワンボックスに乗せられる高橋を見たという。
高野:「ええっ?それもう警察案件じゃないですか!?」
愛原:「店長が見た限りじゃ、確かに嫌々乗せられていると言った感じだったけど、力づくで無理やり乗せたというわけでもなかったそうだ。もしそうなら、店長から通報したってさ」
高野:「ナンバーは?」
愛原:「ああ。コンビニの防犯カメラに映ってたの、見せてもらったよ」
車は黒塗りのハイエースで、品川ナンバーの4ナンバーだった。
そして注目すべきは、平仮名。
愛原:「『わ』なんだよ。てことはレンタカーだ。誰かが高橋をさらうためにわざわざ借りたとしか思えない」
高野:「男達は目出し帽にサングラスですけど、若いですよ。多分、マサや霧崎さんとそんなに変わらないと思います」
愛原:「やっぱりアレか?敵対勢力にケンカ売られて、取りあえずケンカ祭り会場まで車で向かおうってことか」
高野:「あのマサなら、ボコボコにしてそのうち帰って来そうですけどね」
愛原:「それは俺も同意見だ。霧崎さんはどう思う?」
霧崎:「もしケンカなら、むしろ私を連れて行くと思います」
愛原:「う……霧崎さんもそりゃ強いだろうけどさ……」
高橋より重い罪状で収監されてたくらいだからな。
高野:「先生、マサのケータイの電源は切れてないんですよね?」
愛原:「そのようだ」
高野:「GPSで追うことはできませんか?」
愛原:「それだ!」
私はすぐに彼のスマホの位置情報を検索した。
するとその結果は……。
1:位置が特定できた。
2:位置が特定できなかった。
3:検索中に電話が掛かってきた。